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第76話.シフォン姉妹


第75話登場のキャラクター名を「ミーア」→「ミラ」に変更しています。

また、作者体調不良のため短めの更新となります。よろしくお願い致します。


 

 反射的にナナオは頭を庇ってしゃがみ込んでいた。

 ティオもレティシアも、ハノンノも同じように頭を覆って地面に伏せっている。


 だがその後も、断続的に爆発音のようなものが響く。

 ……ようやくそれが収まったとき、おそるおそると顔を上げると、周囲の人々もナナオと同じような狼狽えた顔をしていた。


 爆発音がきこえてきたのは……この近辺ではない。

 たぶん王都の中からだ。それが分かっているから、その場にいるほとんどの人間が王都ルーニャを円周上に囲む外壁を見上げたが、そちらからは他の音がほとんどきこえてこない。


「今のは……」

「ねぇ! キミ!」

「うぐっ!?」


 しかしそこで、上空からぴょんと飛びかかってきた影に襲われ、ナナオはうめき声を上げてその場に転がった。


「やっぱりそうだ! 前に王都で私を助けようとしてくれた女の子じゃないっ!」


 なんて言いながらナナオをぎゅうぎゅう抱きしめて顔を輝かせているのは、ミラと呼ばれていた女性――なのだが、その顔にナナオは見覚えがあった。


「お、おひさしぶりです……お姉さん……」


 そう。

 ナナオが異世界に転生した直後、男性たちに囲まれ襲われていた――かと思いきや、複数の相手を圧倒して平服せしめたスタイル抜群のお姉さん……が、ミラだった。


「こんなところで会えるなんて奇遇ね! まぁ、アル―ニャ女学院の制服着てたから王都に来たらまた会えるかしら、とは思って――」


 そこでミラは、ふと言葉を止める。

 その隙に羽交い締めから逃れ、どうにか立ち上がるナナオ。レティシアやティオは、そんなナナオたちのことを唖然とした顔で見ている。

 だが、その内のひとりは違った。

 ミラと向かい合ったハノンノは、信じられないように両目を見開き、わなわなと震えていたのだ。


「な、なんでミラ様が……」

「やだ、ハノちゃんじゃない。ハノちゃんこそどうしてこんなところに?」

「そ、そんなことどうでもいいでしょう! 訳が分かりません、何でミラ様がななせんぱいのこと知ってるんですか!?」

「え? ななせんぱい? ああこの子のこと? でもハノちゃん、クローティウス学園の生徒でしょ?」


 ……何だろう。いまいち会話がかみ合ってない気もするが……ふたりは知り合いなのか?

 しかしナナオの疑問には答えてくれず、ハノンノはキッとナナオを睨んできた。何で!?


「どうしてミラ様と知り合いだってあたしに教えてくれなかったんです!?」

「ええ?! そう言われても、前にちょっと話したくらいでお姉さんの名前も知らなかったし」

「ななせんぱいはあたしが狙ってるのに……っ! もうミラ様がお手つきしてたなんてっ」


 しかしハノンノはナナオの言葉もきこえない様子で、ギリギリと歯を食いしばってそんなことを呟いている。

 えっ……俺、ハノンノに狙われてるの? それになんかレティシアたちがそれを聞いてすごい顔をしているような気がするんだけども。


 だが、そんな状況でもマイペースなミラだけは揺るがなかった。

 ぷぅ、とわかりやすく頬を膨らませて、ハノンノの肩をちょんとつつく。


「ねぇ、ハノちゃん。ミラ様ミラ様って、他人行儀で私、悲しいわ。昔みたいにお姉ちゃんって呼んでよ」

「……お姉ちゃん? って、もしかして」

「ふふ、そうよ。私はミラ・シフォン。正真正銘、ハノちゃんのお姉さんなんだから」


 えっへん、と胸を張るミラに対して、ハノンノは不機嫌そうにむっつりしているだけだ。

 ナナオはそんなふたりを見比べて、確かに少しだけ顔立ちが似ているかも、と思う。ミラはボーイッシュでスタイル抜群の頼れるお姉さん、ハノンノは甘え上手な妹……という感じだ。


「……って、呑気に話し込んでる場合じゃないか」


 そこで我に返ったのか、ミラは小さく呟くと、「じゃあね」とナナオたちに手を振った。

 そうして何をするかと思えば、未だ混乱した様子の兵士たちに軽く声を掛ける。


「兵士さんごめんなさい、ここを通してもらってもいいかしら」

「え……」

「王都の中で、クーデターか何か起こっているみたいじゃない? 立場的に、私が駆けつけないといけないかなって」


 ぽかん、とする兵士たち。

 だがそんな反応をよそに、ミラの仲間であるらしい女性たちはキラキラと目を輝かせ、両手を組んでミラのことを見つめている。

 まるで、このあとに何が起こるのか、楽しみで仕方が無いというような顔つきで。


 そしてその期待に応えるようにして、ミラは助走をつけ――


「通せないのであれば、力尽くで失礼するわね!」

「なっ――」


 盛大に、ジャンプをした。

 それも、遥か上空にそびえる王都の外壁に向かって、まっすぐに。


「ええ?! この外壁、十メートル以上はあるのに……!」


 信じられない、とティオが呟く。

 だが、誰もが呆然と見守る中、ミラはあっさりとその十メートルの壁の上へとたどり着いてみせる。

 そして王都に向かって、またピョンと軽く降りていってしまった。……その間、わずか三秒ほど。白昼夢のような出来事だった。


 その様子をうっとりと見上げていたミラの仲間の女性たちが、歓声を上げる。

 そして、どこか苦々しげな表情で姉を見送ったハノンノが、ぽそりと言った。


「……こんなの、驚くようなことじゃないですよ。あの人、ミラ様は……"暴星"の異名を持つ、アル―ニャ王国最強の冒険者なんですから」



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