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第73話.青の憤怒

 

 ナナオはレイと生徒会長から、いくつか質問を受けた。

 生徒会長からの質問の大半はフミカとは関係のないようなものばかりで、何の意味があるかもよくわからなかったが、騎士団長という重い肩書き通り、几帳面らしいレイは真面目な問いを何度も繰り返した。


 フミカとはどうやって知り合ったか。

 どういった関係だったか。

 彼女はどういった魔法を使うか。

 近頃、様子がおかしいなどと感じたことはあったか……等々。


 基本的には素直に、ナナオはレイの質問に応じた。というのも、レティシアたちがどこまでレイたちに真実を話しているかわからなかったので、齟齬が生じると困るからだった。

 だが、途中、 


「フミカ・アサイムが魔族だったことを君は知っていたか?」


 と訊かれたときは「いいえ」と首を横に振った。

 数十分に渡る質問が終わると、レイは「ありがとう」と軽く頭を下げた。


「大体の話は、ほかの生徒たちに聞いた話と変わりなかったが……君が言っていた、フミカ・アサイムが最近よく眠っていたという話と、どこか沈んだ様子だったという話はとても参考になったよ」

「フミカがよく眠るのは、いつものことなんですけどね」


 隠し立てするような内容ではないと思って嘘偽りなく話したのだが……この話だけで、レイは何か気づいたのだろうか。

 ナナオが不安そうな顔をしていたのに気がついたのか、隣の席に座っていたレティシアがそっと教えてくれた。


「多くの魔法士は、魔力が切れかけると長い睡眠時間を必要としますの」

「それって……フミカは普段から魔力が切れかけてたってこと?」


 レティシアは目を伏せただけで、それ以上詳しいことは教えてはくれなかった。

 そのことについて問おうとしたナナオだったが、その前にレイが再び口を開く。


「それと君たちが王都地下で捕らえてくれた男たちの件だ。現在は全員、城の牢に収監しているんだが……尋問の際に気になる話をしていたから、念のため君たちにも伝えておこう」

「気になる話?」

「彼らは自分たちを、『青の憤怒』という組織だと名乗っている。今のところわかっているのは、そのくらいだが……この組織名に聞き覚えはあるかい?」


『青の憤怒』……。

 ナナオ含め、全員が首を傾げる。レイも期待はしていなかったらしく、「そうか」と頷いただけだった。


「では話は以上だ。明日の朝、馬車を出すので君たちはそれで全員学院に帰りなさい」

「えっ……でもそれじゃ」

「フミカ・アサイムの行方については我々が調査する。もう君たち学生の出る幕はない」


 突き放すようなレイの言葉にナナオは抗議しようとした。

 だがそれより早く、レティシアが立ち上がる。椅子がガタンッと揺れる音が、やけに大きく響いた。


「ですが、お姉様――」


 レイと目が合うと、レティシアはびくりと肩を震わせた。


「……騎士団長様。フミカ・アサイムはわたくしたちの学友なのです」

「そんなことはわかっている。だが君たちの力は必要ない」

「ですがっ」

「大輪の花のように美しき第九王女。姉君は、あなたを危険な目に遭わせたくないのですよ」


 ふと生徒会長が口を挟むと、レイは鋭くその顔を睨みつけた。


「勝手な物言いはやめてもらおうか、生徒会長。君に私たち王族の感情を語る資格などないよ」

「おや、これは失敬。だが騎士団長、今後のためにも彼女たちにはキチンと説明をしておいたほうがいいのではないかな」


 芝居がかった仕草で優雅に会議室の真ん中に進み出た生徒会長が、その場の全員の顔を見渡して言う。


「お優しい騎士団長殿は事情を伏せるつもりだったようだが――あのね。どうやらフミカ・アサイムは、『青の憤怒』のメンバー全員に魔力の供給を行っていたようなんだ」


 誰も、一言も口を挟めなかった。

 生徒会長の言っている意味がわからなかったのだ。あるいはレティシアやほかの何人かは、察していたのかもしれないが……ナナオには本当に、その言葉の意味が到底理解できていなかった。


「女性が男性に魔力の一部を渡すなんて、今までに見たことも聞いたこともないけれどね。しかし実際に彼女は成し遂げた。男たちが闇の魔力を行使する様子は、君たちだって目撃していただろう」

「えっとぉ、それは……何らかの魔道具を使ってということですか?」


 おずおずとハノンノが挙手をして問うと、「その通り」と上機嫌そうに肯定する生徒会長。


「まぁ、それにしたって未知の魔道具さ。フミカ・アサイムは魔族だから、ガルーダ魔国で開発・製造されたものなのかもしれないね。全員が身につけていた水色のスカーフが、どうやら怪しいようだと――」

「おい」


 ジロリとレイに睨まれ、生徒会長が苦笑する。


「つまりだ。フミカ・アサイムは『青の憤怒』の首謀者――もしくはそれにかなり近しい存在だと言えるだろうね」

「フミカが……?」


 ナナオは呆然としてしまった。

 だがそんなナナオに向けて、生徒会長は酷薄に微笑んでみせる。


「そうさ。だからね、君たちがフミカ・アサイムの行方を追いたいのならば、誓ってもらわねばならない。すなわち、()()()()()()()()()()()()

「おい、生徒会長!」

「でなければ困るでしょう、騎士団長。だって相手は立派なテロリストなんだから。クラスメイトだからと手心を加えられたり、それどころかミヤウチ君――君がやったように、フミカ・アサイムの逃亡を手助けするような真似をされたら、こちらは堪ったものじゃないよ」

「……っ」


 息を呑むナナオを、愛らしい小動物を見守るような目で見る生徒会長。

 ティオが泣き出しそうな表情で呟いた。


「そんな言い方は……あんまりです。目の前で友人が殺されかけたら、必死に助けようとするのはそんなにおかしいことでしょうか?」

「おかしくはないよ、マグネス君。だけど一つだけはっきりと言える。ミヤウチ君が邪魔しなければ、僕はフミカ・アサイムをあの場で仕留めていたんだ。憎きテロリストのうちのひとりを、屠ることができていたんだよ」


 それ以上、誰も生徒会長に言い返すことはできなかった。

 結局、その場は一時間ほどでお開きとなった。ナナオたちはそれぞれ客室に通され一夜を過ごしたが、ゆっくりと眠れた者はきっと誰ひとりとして居なかっただろう。


 そして翌日の朝、ナナオたちは馬車でアルーニャ女学院へと帰った。



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