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第55話.クラス内順位

 

 中間試験、その実技試験が実施された翌日のことである。

 朝から、校舎一階の掲示板前には人だかりができていた。


 言うまでも無く、中間試験の結果発表がその場に貼り出されていたからだ。

 試験も三度目となる二年生より、やはり初めての体験だった一年生たちが中心となり、その掲示へと強い眼差しを注いでいた。

 そこにはこう記されていた。


 …………………………

 ………………………………


 魔法科一年生 中間試験結果発表


 1 キュキュ・サイル

(実技/2位(腕輪獲得数:4) 筆記/3位(得点:392))


 2 レティシア・ニャ・アルーニャ

(実技/3位(腕輪獲得数:3) 筆記/1位(得点:398))


 3 ミヤウチ・ナナオ

(実技/1位(腕輪獲得数:8) 筆記/19位(得点:134))


 4 フミカ・アサイム

(実技/4位(腕輪獲得数:2) 筆記/4位(得点:384))


 5 ニコル・ライトン

(実技/4位(腕輪獲得数:2) 筆記/13位(得点:320))


 6 リュリュ・サイル

(実技/7位(腕輪獲得数:0) 筆記/2位(得点:393))


 7 ティオ・マグネス

(実技/4位(腕輪獲得数:2) 筆記/21位(得点:112))


 …………


 ………………………………

 …………………………


「どうしてわたくしが二位なんですの……!」


 さすがに掲示板前で暴れるのは気が引けたのか。

 魔法科一年生の教室にて、自分の席に座らずうろうろと歩き回るレティシアの姿があった。


 他のメンツはといえば、フミカはいつも通りぼぅっとしていて、ティオはといえばすっかり消沈している。実技の結果が良かっただけに、筆記が足を引っ張ったのが口惜しいようだ。

 ちなみに他のグループでは、リュリュが悄気るのをキュキュが何とか励まそうとしていたり、ニコルが友人たちに囲まれて持て囃されたりしている。魔法科所属の優秀な生徒たちも、今日ばかりはいつもより騒がしい様子である。


 ナナオはどうかといえば、筆記はボロカスだったのにどうにか実技で点数稼ぎできたらしいことにホッとしていた。

 実技試験に関しては、腕輪獲得数のみならず、その過程についても審査対象となっていたそうだが、採点基準の詳細に関しては明らかにされていない。順位に関しても一切の質問や文句の類は受けつけないと、サリバからも試験前に予告されていた。


 だが、レティシアは順位にまったく納得がいっていないようだ。

 向上心の高いレティシアは総合一位の座を狙っていたのだろう。

 その悔しさが伝わってくるようで、そして彼女が二位だった理由の一つでもあるナナオとしては心苦しく、思わず頭を下げてしまう。


「ごめんシア。俺が腕輪何個か盗んだから……」

「はあッ!?」


 しかし胸倉を掴まれるくらいの勢いでキレられてしまった。美少女の怒り顔は迫力もえげつない。

 ちょこっと身の危険を覚えたナナオは窓際までじりじり後退るが、レティシアはそんなナナオの胸に「びし!」と指を突きつけた。


「何を言ってますのナナオ。わたくしは、アナタがわたくしより順位が低いのがおかしい、と言ってますのよ!」

「はへ?」


 驚いて変な声を洩らしてしまうナナオ。どゆこと?


「だってそうでしょう。アナタは実技で一位だったのですから」

「でも、筆記の方が悲惨すぎたから俺は納得してるけど」

「というかそもそもっ! 何故気絶したわたくしから全ての腕輪を奪わなかったのですっ?」


 ナナオは唖然としてしまった。レティシアが何を言っているのか、よく分からない。

 だってつまり――じゃあシアが怒っているのは自分のためではなく、俺のためなの? と、気づいてしまったからだった。


 だとしたら……いや、喜んでいる場合でもない。レティシアのその認識はきちんと正しておかなくては。


「三つも盗ったことをむしろ怒ってよ。もともとシアがゲットしてた腕輪なんだよ?」


 焦ってそう言うと、レティシアが目尻を吊り上げる。


「そんなこと怒るわけないでしょう! どうして全て奪わなかったかと聞いているのです! アナタにはそのチャンスも、権利もあったはずですわ! それともわたくしに同情でもしたのですか!?」

「違うよ。だってそれは――シアが気絶したの、俺のせいみたいなもんだし……」


 ぼそぼそ、と言いかけて……思わずナナオの顔が、赤くなる。

 その反応につられたのか、レティシアもまた口ごもって、もごもご……と恥ずかしそうに言い募る。


「べっ、別にそれは……ナナオのせいでは……」

「いや、俺が悪いって……あんなことの後にあんなこと言ったから……」

「だからあれは……わたくしが悪かったのであって……」

「……何この雰囲気」


 顔を上げたフミカがジト目でこっちを見ている。何やらふたりの間の空気がおかしいのを鋭敏に感じ取ったようだ。

 これ以上この話題が不用意に続いてしまうと、ナナオもレティシアもお互いに保ちそうになかった。


 すると見事なタイミングでサリバが教室に入ってきた。慌てて席に着く生徒たち。

 おかげでフミカの追及を受けずに済んだので、ナナオも安堵してしまった。


「――皆さん試験の結果に色めき立っているようですが」


 が、サリバの冷たい声音を聞いて、そんな安堵もぴしり……と亀裂が入るようにして凍りつく。

 ナナオは急に思い出した。

 そういえば、そうだった。試験結果が悪かった場合、退学になることも有り得る、などとサリバは最初におそろしいことを言っていた……


「――そう震え上がらなくても結構。今回、退学処分となる生徒はひとりも居ません」


 一様にホッとするクラスメイトたち。ナナオも安心のあまり脱力してしまった。ティオなんかは緊張が緩んだのか、ちょっと涙ぐんでいるくらいだ。


「ただ、中間試験結果に追随して、お知らせすべきことがあります。今回、新たな取り組みとして、クローティウス学園と交換留学プログラムを実施することとなりました」

「クローティウス学園?」


 ナナオは目を瞬かせる。


「アルーニャ王国の第二の首都とされる街、イシュバの近隣にある学園です。

 卒業生の多くが冒険者や騎士の道に進む我が校と異なり、クローティウス学園では魔法学を中心にカリキュラムを組んでいます。これまでに数々の魔法学者や研究者を輩出してきた名門校ですね」


 つまりアルーニャ女学院が体育会系なら、クローティウス学園は理系……みたいな感じかな、と納得するナナオ。


 サリバは常以上に淡々とした説明を終えると、生徒たちの顔を見回した。

 どうやら、ざわめきを聞き取るにクローティウス学園のことを知らなかったのはナナオくらいのもので、他の生徒たちが気になっているのは「交換留学プログラム」のようだった。

 サリバもそれを把握したようで、次はそちらについての説明に進む。


「プログラムに関しては、お互いの学校で代表生徒を一名ずつ選出する、という話で既にまとまっています。本日中にこのクラスから代表生徒を選出し、来週からはクローティウス学園にて一ヶ月ほど過ごしていただきます」


 随分と急な話だった。

 一ヶ月というと、ちょうど夏期休暇前までくらいか。留学、ちょっと楽しそうだけど……

 そんなことを考えながら、ナナオは友人たちの顔をちらっと見てみる。


 フミカはサリバの話を聞いているのかいないのか、眠そうに瞬きをしている。

 ティオは空腹なのか、お腹のあたりを懸命に擦っているようだ。なんだか小動物っぽい。

 そしてレティシアは――何故か、妙に固く強張った顔つきで、じっと視線を正面へと向けていた。


「…………?」


 不思議に思うナナオだったが、隣の席でもないレティシアに話しかける術はない。

 レティシアの様子が気になっている間にも、サリバの説明は続いていた。


「文化交流を目的としての行事となりますので、私としては相応の実力が伴った生徒にこの大役をお願いしたいと考えています。今回の試験結果も考慮して――」


 サリバの視線が、彼女を見る。

 他の生徒たちも吸い寄せられるようにして、そこに視線を集めた。


 赤い癖のある髪をツインテールにした、その少女の元に。


「――キュキュ・サイル。私は、貴女を推薦したいと思います」



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