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第43話.宿屋シエスタ


本日はちょっと短めのお話になります……!

明日は少し長めに更新できるようがんばります。


 

 ドアの外から、室内の様子をそっと覗き込んでみる。

 忙しそうであれば、また時間を変えて来てみるか、後日立ち寄ってみるつもりだった。


 だが運良く――というべきか。

 目当ての人物であるケータはちょうど、食堂から出てきたところだった。その手に特に荷物はないようなので、食器の片づけも終えているのだろう。お昼時を少し過ぎている時間帯だったのが、功を奏したようだ。


 それなら突撃しちゃおうかな、などと目論んでいると――気配を察したのか、ケータがくるっと振り返った。

 ……あっ、というように、その目と口が開かれる。


「ナナオさん!」

「よっ」


 慌ててドアを開け放つ少年に向けて、軽く手を挙げるナナオ。

 入学前の三日間を過ごした宿屋『シエスタ』。そこの一人息子のケータは、特にナナオがお世話になった人物だ。


「久しぶり! びっくりした。急にやって来るんだもん」

「ずっと会いに行こうとは思ってたんだ。ケータは元気にしてた?」

「変わりなくって感じだよ。ナナオさんは? 学院生活はどんな感じ? って――」


 目を輝かせていたケータだが、ふとナナオの隣を見て、


「――す、すみません! ご友人が一緒だったんですね!」


 と、いくらか畏まった口調で頭を下げる。

 ナナオ相手には気安いケータだが、それは基本的に周囲に人が居ないときに限られる。

 フミカとは初対面なので、ケータはいくらか緊張した面持ちだ。そしてフミカの方も、大した説明をしていなかったのできょとん、としている。

 ナナオはふたりの間に立った。ここは自分が仕切らねば。


「ケータ、紹介するよ。この子は俺のルームメイトのフミカ。学院でもクラスメイトだから、いつもお世話になってるんだ」

「……初めまして。ナナオ君をお世話しているフミカです」


 ぺこり、と形の良い頭を下げるフミカ。


「フミカ、この子は宿屋の息子のケータ。学院に入学する前は、よくお世話になってたんだ」

「初めまして! ナナオさんをお世話していたケータです」


 ぺこぺこ、と笑顔で頭を下げるケータ。……なんだこの不思議な自己紹介。

 しかし事実なのでまぁいいか、と流すナナオ。そこでケータが「そうだ!」と手を打った。


「ナナオさん、ちょうど食堂も空いてるから良かったら昼食はどう? もちろんフミカさんも一緒に」


 待ってました、とばかりに頷くナナオ。しかしフミカはその提案に、ひっそりと難色を示した。


「……まだ食べるの?」

「ここの食堂で出るテーブルロールとヤギの乳が、それはもう美味しいんだよ」

「……しかたない。付き合う」


 そして納得までが素早いフミカ。なんだかんだ彼女がけっこうな食いしん坊なのは、十二分に承知しているナナオである。

 ケータに先導され、ふたりは宿屋へと入っていく。ケータの言う通り宿屋の一階はほとんどがら空き状態だ。

 お客のほとんどは王都に立ち寄る冒険者だというから、彼女たちがみんな出払っているところなのかもしれない。といっても、冒険者なる身分についてはほとんど知識のないナナオなので、詳しいことはよく知らないのだが。


「……どこの席がいいかな」

「お好きな席で大丈夫ですよ」


 広い食堂内をきょろきょろ見回していたフミカに、営業スマイルのケータが言う。


 フミカは小さく頷くと、左隅のテーブルを選んだ。偶然ながら、ナナオがよく選んでいたのと同じものである。

 ほとんど音を立てず、ひっそりとした無駄のない挙措でフミカが着席する。

 顔を上げた弾みに頬にかかった、短い横髪を掻き上げるようにして耳にかける仕草にも、優美さがあった。


 そしてそんな様子を、控えめながら――じっ、とケータが盗み見ていたかと思えば、実感のこもった声音で呟く。


「……やっぱりちゃんとした女学生のひとって、ナナオさんとはぜんぜん違うんだね……!」


 余計なお世話だぞ、ケータよ……。

 ナナオはその小さな頭を、腹いせ混じりにぐりぐり軽く小突いたのだった。



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