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第34話.フラグ回収

 

「【光跡流星(シューティングスター)】!」

「……【水冷弾(アクアショット)】」

「えいえいえーい!」


 襲いかかってくる魔物やゴーレム相手に、次々と必殺魔法を繰り出す少女たち。


 レティシアとフミカはそれぞれ得意な魔法を放ち、隙が生まれたところをすかさずティオが叩く。

 ナナオはといえば、近接戦闘で相手の動きを攪乱し、時には一撃で仕留めてみせたりなどの活躍を見せていた。


 普段の学校生活は別として、課外訓練という場で四人でチームを組むのは初めてのことだ。

 しかしそうとは思えないほど、四人の連携はうまく行っている。


 前に出て過激に振る舞うレティシアを、後ろからフミカが支えるように寄り添い。

 観察力に優れたティオは、火力のあるふたりの邪魔をしないよう行動しつつ着実に敵を仕留める。


 阿吽の呼吸――と呼ぶにはまだ遠いだろうが、全員がお互いのことを考えて動いている。

 それをお互いがよく分かっているので、次の一手を打つのにも躊躇しないでいられるのだ。


「せいッ! ……よっしゃ、これで終わり!」


 遺跡の隙間に偶然出来たような暗い小道から飛び立ってきた、不気味な蝙蝠の群れ。

 その最後の一話を斬り伏せたナナオが、ふぅと頬を膨らませて息を吐いた。


 死屍累々の蝙蝠の死骸を横目に、レティシアが溜め息を吐く。


「ここ、遺跡のどのあたりなのでしょう? だいぶ進んだ感じがしますが……」


 鈴の鳴るような声には多少、疲労が滲んでいるようだった。ここに来るまで既に三戦連続で戦ってきているので、それも当然のことである。


 現在、リーダー・ナナオを据えたチームは、キュキュチームを抜きトップに躍り出ている。

 あのまま天井をナナオの剣でブチ抜き、行けるところまで一気に登る……という案もあったが、この先に何が待つかわからないということでその案は敢えなく却下された。二階に上がってからは、ナナオたちは周囲を警戒しつつ歩いて移動してきたのだ。


「……わからない、けど。階数でいえば五階くらい……かな」


 ほんのり首を傾げながら、フミカ。その後ろでナックルダスターの両手をぽんぽん、と打っていたティオが激しく頷く。


「そうだと思う! 階段や、たまに緩い坂道みたいになってたりしたけど……上に上に、登ってる感じ」

「うーん……砂時計の残りの砂は、二分の一くらいなんだよね」


 胸ポケットに突っ込んでいた砂時計を手に、ナナオは呟く。

 この砂時計自体は三時間のタイムリミットを表すそうなので、だとするとナナオたちが遺跡に突入してから既に一時間半ほど経過しているという計算だ。


 そもそも、ここに辿り着くまでにはいくつもの別れ道があった。

 この遺跡、不思議なことに突き当たりというものがないため、途中何度か立ち止まったりしながらも、引き返すことなく進んできた。

 だが、この道が正解という確証はない。遺跡の中にはヒントらしきものは見つからなかったし、そして歩いている道にも大した変化がないので、不安にならない方が難しいくらいだった。


 そして四人の眺める先には、いよいよ六階(推定)に到達しそうな――これまた段数の多い階段が待ち受けていたりする。


「……とりあえず、登る?」


 ナナオが振り返って問いかけると、悩みつつも、三人が各々のタイミングで頷いた。

 突入の頃とは少し変わり、隊列はナナオ、レティシア、ティオ、フミカの順番。

 ここまでの道とは違い、一直線上に伸びる階段の付近には洋灯の類は吊されていなかった。そのため、レティシアが指先に光魔法を灯し、その光を頼りにナナオたちは暗い階段をおっかなびっくり登ることとなったのだった。


 壁や地面と同じ、岩によく似た色合いの物質で形作られた階段を、周囲を警戒しつつ登っていく。


「シア、怖くない? 手繋ごうか?」

「ふんっ。その台詞、そっくりそのままお返ししますわ」

「ほんと? ありがとう」

「きゃああ!? 皮肉を言っただけなのに手を握られた!?」

「……む。私もナナオ君に、手握られたい」

「ぼ、ボクもボクもっ! あ、でもナックルダスターしたままだと感触がわからないかも……!」


 ……周囲を注意深く警戒しつつ、登っていくナナオたちである。


 しかしその途中、ふとフミカが立ち止まった。

「ぎゃん」とその背中に鼻をぶつけたティオが潰れた悲鳴を上げる。それを聞いて、前方のナナオとレティシアも立ち止まった。


「どうかした?」

「……ごめんティオ。わざとじゃなく」

「ぜんぜん平気だよ! でもどうしたの? フミカさん」

「……レティシア王女。いちど、光を消してくれる?」


 フミカにそう言われ、レティシアが瞬時に光魔法の発動を解く。

 フッと一瞬、全員の姿が闇に呑まれる。数秒が経ち、闇に目が慣れてくると、三人ともがフミカの居るあたりを無言で見遣る。


 フミカはといえば、右手の親指と人差し指の間に何か小さな、欠片のようなものを挟み込んでいた。

 そしてその欠片は、数秒に一度、ほんの少し――鈍い黄褐色に、発光しているようにも見えた。


「……たぶん魔石」

「魔石?」


 何だそれ、という顔をしてみせるナナオ。

 そのポカーンとした表情はほとんど見えないながらも雰囲気で察したらしく、フミカは抑揚のない声で説明してくれた。


「……魔石は、主にダンジョンで採掘できる石。このままだとちょっと光るだけのただの石……だけど、対応する魔法属性を持つ人が一度魔力を込めると、その魔力量に比例して簡単な魔法を発動させ続けることが可能」

「簡単な魔法?」

「たとえば街の明かりとか、水の浄化とか……公共の目的のため半永久的な魔法の使用が必要とされる場合、魔石が利用されることが多い。それに、だいたいの魔道具にも魔石が組み込まれてる。

 そして魔石には、無属性を除く六元素――即ち自然属性とされる炎・水・風・土・光・闇の六つの種類がある。これは茶色に光ってるから土属性の魔石……発光は弱いから、そんなに物は良くないみたいだけど」

「そもそも授業で習いましたわよ、ナナオ……」


 レティシアに呆れられ、「そういえばそうだったかも?」と照れ笑いで誤魔化すナナオ。週末の稽古や特訓が楽しくて、休日明けの授業はわりと居眠りしがちだったりするのだった。


「確かに、遺跡では何度か魔石の発掘例がありますわね。【中央第二遺跡】に関しては、そういう噂を聞いた覚えはありませんが」

「……魔石は魔力の密度が急速に高まると、唐突に発生することもあるって聞く。今回もそうなのかも」

「へえ。物知りだねぇ、フミカさん」


 ティオの感心したような呟きには答えず、フミカは上方――階段の先を見上げて、ぼそりと呟いた。


「……それと関係ないかもしれないけど。この世界には、魔石を大好物とする生き物が居る」


 あまりに唐突な発言だった。

 だからこそ――そのとき、それを聞いたナナオの胸は何やらざわついた。

 そう。ナナオの生まれた国の言葉で言うならば、それは。


「その生き物って……?」


 ごくり、と喉元に迫り上がってきた唾を呑み込みつつ、ナナオが訊ねる。

 するとフミカは、物真似なのか、両手の手首の先をぱたぱた、と顎のあたりで振るって、大きく口を開けてみせた。


「…………ドラゴンだよ。がおー」


 それはいわゆる――()()()、というやつなのでは。


 一拍後に、獣が唸るような咆哮が鳴り響くのを耳にして、やっぱり! と顔を覆いかけたナナオであった。



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