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第31話.仕掛けられた罠

 

 踏み込んだ遺跡の中。

 さっそくの暗闇に尻込みすると、それとほぼ同時に横のレティシアが素早く唱えた。


「【光源玉(ライト)】」


 暗がりの中に僅かに見えていた、壁に取りつけられた空っぽの洋灯(ランプ)

 そこにぽっと明るい光が灯り、周囲を照らし出す。それによってさらに先の様子を確認すると、レティシアは器用にも、見える範囲の洋灯すべてに光を灯してみせた。


 これなら暗い遺跡内部も問題なく進めそうだ。これには思わずパチパチ、と三人揃って拍手。


「そんなことより、先に進みましょう。砂時計はもう動き出しているようですし」


 長い髪を掻き上げたレティシアがナナオの手元を指差す。

 確かめてみると、ナナオの手にしていた砂時計の砂は、指摘通り少しずつ落ち始めていた。

 これが落ちきるまで――つまりは三時間以内に、遺跡の出口へと辿り着く。それが今回の訓練ということになる。


 ナナオは改めて周囲を観察した。

 遺跡内部は、岩で固められた灰色の壁に覆われている。空気はかなり冷たくひんやりとしていて、温度は涼しいくらいに保たれていた。

 地面から天井までは約三メートルくらいだろうか? 外観を考慮すると、内部はかなり階層が分かれているのかもしれない。


 ナナオをリーダーに据えた四人チームは、ナナオ・フミカ・ティオ・レティシアの順番で一列になって遺跡を慎重に進んでいく。


「……私、遺跡に来るのは初めて」


 ぼそりとフミカが呟くと、その後ろをてくてく歩いていたティオがしゅばっと元気に手を挙げる。


「ボクもだよフミカさん! 中はこんな風になってるんだねぇ」

「わたくしの伝聞したところでは、それぞれの遺跡で内部構造はまったく違うそうですわ」

「へぇ、そうなんだ。遺跡っていくつくらいあるの?」


 ナナオが訊くと、背後からレティシアがてきぱきと答えを返してくれた。


「現在確認されているものだと、王国内で十七ですわね。諸外国は発見数を報告していないところもありますので、世界的には正確な数は不明ですが……」

「でも、何かいいねぇ。ロマンだねぇ」

「ロマン……まぁ、分からなくもないですけれど。あっ、ティオさん、そこに小石があるので気をつけ」

「うわわぁっ!?」

「言ってるそばから!?」


 てんやわんやしつつも、何とかレティシアが点灯してくれた最後の洋灯を通過。

 そこで四人は驚き、立ち止まった。


 ――その先から、三方向に道が分かれだしていたためだ。


「うわぁ……これは……」

「脱出に苦労しそうですわね……」

「どの道が正解なのかな? 見た目じゃ分からないけど」

「……正解がひとつとも限らない」


 四人それぞれ、変わり映えのない三つの道の様子をとりあえず確認してみるものの、特に目印やヒントらしきものは見当たらない。結局、進んでみないと何も分からないということなのか。


 うーむ? と三人の美少女が首を傾げている光景を眺めつつ、女装男子なナナオもその後ろで首を傾げた。


「もう他のチームはけっこう進んでるのかな?」


 他のチームが突入してからそう長い時間は経っていないはずだが、どういうわけなのか、先ほどからどこからも人の話し声や足音などは一切きこえてこない。

 この状況にティオはさっそく不安になったらしく、そわそわと落ち着かない様子だ。


「どうするナナくんっ? 走る? 走ろうか?」

「いや……この先なにがあるか分からないし、ゆっくりでも着実に進んだ方がいいかな」


 ティオの提案にナナオはそう返す。

 移動速度を速めた場合、不測の事態への対応が遅れてしまう。その方がゴールへの道のりが遠くなる恐れがあるので、今は速度は度外視した方が無難だろう。


「――で、どうする? どの道に進む?」


 フミカに問われ、ナナオは顎に手を当てた。


「ここは恨みっこなし――多数決でいこう」


 ナナオの提案により、この場は多数決によって決められることとなった。

 そして投票結果はといえば、


 左:レティシア

 中央:ティオ

 右:フミカ、ナナオ


 となった。ここは結果に従って、右に進むことで決定。

 だが驚くべきはこの後だった。


「ま、また別れ道!?」

「……また三本に道が分かれてる。困った」

「うぅっ!? もうどこから来たかおぼえてないよ……」

「こ、これでいい加減――って、また別れ道が見えてきているような」


 別れ道の次は別れ道。

 そして別れ道の後は尚且つ別れ道。

 何と延々と、恐ろしいまでに別れ道が続いている。……しかも、既視感のある、ほぼ同じような構造の道が、である。


 さすがにおかしい、とナナオが気づいたのは、砂時計の残りの砂が四分の三まで減った頃である。


「……なぁ。これ、変じゃないか?」


 ぜえぜえ息を荒げていた三人が、それぞれのタイミングで振り返ってくる。

 いつの間に隊列も乱れて、バラバラになっていた。みんなこの状況に辟易として、余裕がなくなってきているのだ。


「変って、なにが?」

「外観の感じからして、いくら広い遺跡といってもここまで平坦な道が続きはしないと思うんだよ。途中で突き当たりに出ないのは不自然だと思わない?」

「ですが、グルグルと同じ場所を回ってしまっているだけかもしれませんわ。多数決でも、気がつかない間に選択が偏ってしまったのかも」


 グルグルと同じ場所を……レティシアの言葉に、ナナオはしばし考える。

 ……そうだ。そういえば、この遺跡に入る前に不自然だと思ったことがあった。

 腑に落ちないというか、釈然としなかったのだが、考える時間もなかったので詳しくは聞いていなかったが――


「ねぇ、シア。キュキュとリュリュのことなんだけど」

「? あのふたりが何です?」


 不思議そうに碧眼を瞬かせるレティシアに、頭の中で考えをまとめながらナナオは問いかける。


「俺が近寄る前――キュキュたちとは、どんな話をしてたの?」

「どんな話って……ここに入る前に話した通りですわ。自分たちのチームに入らないかと誘われて、結構ですとわたくしがお断りして……その後に、ナナオがやって来て」

「それでキュキュたちはシアを誘うのを諦めて、大人しく離れた……ってことだよね」


 ふむふむと頷いてから、ナナオは黙って聞いているフミカとティオに視線を向ける。


「俺はその後のキュキュたちを見てなかったんだけど、ふたりは何か知ってることってあるかな?」


 質問の意図がよく分からないのだろう、当初は首を捻っていたふたりだったが――やがて「あ!」とティオが拍手を打った。


「関係あるか分からないけど……キュキュさんは、すごいスピードで遺跡の入口に近づいてたよ。たぶん遺跡に入るのは、キュキュさんのチームがいちばん早かったと思う」

「それは誰と?」

「リュリュさんと――あと、何人か一緒に居たかな」

「……三人連れてた」


 フミカが小声でつけ加える。

 それでナナオの疑いは確信へと変わった。


「だとすると、やっぱり……キュキュがシアに声を掛けたのは、時間稼ぎだったんだ」

「どういう……ことです?」

「俺たちがチームを組むのを遅らせるためだよ」


きょとんとするレティシアに、ナナオは早口で説明する。


「キュキュとリュリュ、それに三人が一緒に遺跡に入ったってことは、シアに声を掛ける前からキュキュたちは五人組のチームを編成してたってことだ。

それなのにわざわざシアに声を掛けた。あれは、俺が誘いに来ると分かってたからだ。わざと会話を引き延ばすことでキュキュたちは、俺たちが最後に遺跡に入るように仕向けたんだ」


 つまり、とナナオは言葉を続ける。


「遺跡を迷宮化させてるのは――きっと、あの双子の魔法だ」


 ナナオの言葉に、全員が同時に目を見開く。

 ただし否定の声は上がらなかった。この場にいる全員が、少なからずキュキュたちが魔法を使う様子を目にしたことがある。詳しい魔法名こそ思い当たらないが、それくらいの芸当はアッサリやってのけそうなほど、あの双子の姉妹が使う魔法の種類は多岐にわたっている。


「でもでもっ、それってルール違反なんじゃ?」

「……サリバ先生は、相手チームの妨害については特に明言してなかったから。ルール違反には当たらないかも」

「そ、そっかぁ。でも、じゃあ……どうしよう? これじゃあずっと、遺跡から出られないよね?」


 ティオが表情を曇らせる。

 砂時計の砂は、刻一刻と減りつつある。ティオの心配するとおり、このままここで足踏みしていたら、ゲームオーバーになるのは間違いなかった。

 そしてそれが、キュキュたちの狙いでもあるはずだ。今頃きっと、迷路の中を右往左往と彷徨うナナオたちを想像して密かにほくそ笑んでいることだろう。そんな様子も目に浮かぶようだった。


 だが、もちろん――何もかもキュキュたちの思い通りに運ばせるわけにはいかない。

 だからこそ、そこでナナオはひとつの提案をすることにした。


「それなら俺に考えがあるよ」


「えっ」という目線を三人分受け止めながら。

 ナナオは岩の壁をこんこん、と軽く叩いてみせた。


「壁をブチ破るか、それか――」


 にやり、と笑ってもう一言。


「――天井、ブチ破ってみる?」



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