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【翻訳英語版③巻発売】悪役アリス  作者: 来栖千依
第六章 鏡写しのアリス

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五話 ガラス越しにつながる世界

 空はどんどん暗くなり、辺りは夜になった。

 リデル邸への道はないから屋敷には帰れない。


 どこで夜を明かそうか悩んだ私の足は、自然と公文書館に向いていた。情報を得るにはここに行けばいいと、前世から染みついているのだ。


 衛兵はいないので、まっすぐ裏門へと向かう。

 錠前は今夜もかかっていなかった。


 資料室に入ると、カタ、と物音がした。

 窓を見た私は、夜の闇を背景にしたガラスに映りこむダークを見つけた。


 彼は、私の名前を呼んで周囲を見回している。


「……ここにいるのか、アリス?」

「ダーク!」


 私は、窓に手をついて呼びかけた。

 しかし、こちら側の声は届かないようだ。


 ダークは気づかずに目の前を素通りしていく。

 ドンドンとガラス窓を叩いても、向こうには響かない。ダークと私の生きる世界は分断されてしまった。


「そんな……」


 寂しくて、悲しくて。痛む胸を手で押える。

 すると、襟元のレース地を通して、地肌の温もりがじんわり伝わってきた。


(そうだ。私には、ダークに焼きつけられた烙印があるわ!)


 両手を組んで祈ると、胸元に三日月型の模様が浮かび上がった。


「どうか彼に報せて。私はここにいるって!」


 烙印から白い光の帯が伸びた。

 幾重にもたゆたって繭のように絡まる光は、窓へと飛び込んでいき向こうへと抜けた。


 突如として光に襲われたダークは、窓を見て目を見開いた。

 探していた少女の姿が、ガラスにうっすらと映っていたからだ。


「アリス?」

「そうよ。私はここにいるわ!」


 気づいてもらえた私は、窓に両手をついて必死に訴える。


「テムズ河に落ちた拍子に、鏡の悪魔が作った世界に迷いこんだの。鏡の悪魔は、シャロンデイル公爵夫人よ。街道に鏡の術をかけて、あなたをロンドンに留めたのは、彼女だったの!」


 黙って私を見つめていたダークは、美しい顔に失望の色を浮かべた。


「口の動きは見えるよ。けれど、君の声は聞こえないようだ」

「やっぱりそうなのね……」


 こんなに近くにいるのに言葉一つ届けられない。

 私が失意に飲み込まれていると、ダークがデスク上の紙とペンを指さした。


「書いてこちらに向けるんだ。そうすれば、鏡越しでも読みとれる」

「分かったわ」


 私は、ペンを持ち上げた。

 鏡の世界のこと、事件現場のメッセージのこと、そして、プリンセス・アリス号との事故の前にあったことを紙に書いて、ダークに見えるように持ち上げる。


 メッセージを読みとったダークは、険しい表情でステッキを床に下ろした。


「まさか公爵夫人が『鏡の悪魔』だったとはね。こちらも、新たに判明したことがあるよ。リーズ君の烙印の能力で、公爵から事件について聞き出そうとしたところ、悪魔の紋章が浮かび上がって邪魔されたそうだ。恐らく、鏡の悪魔の紋章だと思われる」


『シャロンデイル公爵は、公爵夫人に操られているってことね。だとすれば、真犯人は決まったも同然だわ!』


 公爵夫人が、公爵の不倫相手だった被害者ケイト・エドウッドを刺し、公爵を操って『ジャックを見た』という証言をさせたのだ。

 そして壁にメッセージを残した。


(ということは、二人目の被害者って――)


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