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夢界の創造主  作者: クスクリ
95/95

95話 時の流れ

 今からA界に帰って、起きたらまだ夕方、嫁に買い物に連れ回される。

 ――まぁええか。二日間眠りっ放しで迷惑掛けたやろうし。

 別れるとき名残惜しそうに、「伯父さん、今度いつ会いに来てくれるん?」と、俺に哀願するような美穂ちゃんの表情が無性にかわいかった。

「そやな、この二回は真知子に会うためと俺の歓迎会のためやったが、今度は純粋に美穂ちゃんに会うためだけにB界に行こうかいな」

「伯父さん嬉しい!」

 俺は確認するが如くもう一度、「俺にどんな姿で来て欲しい?」

「じゃぁ、22歳で義足じゃない伯父さんで、MR飛ばして私を迎えに来て」

「がっくり。やっぱり今のままの俺じゃだめか」

 美穂ちゃんはうふっと微笑んで、「若い伯父さんやったら大学の友達紹介しても違和感ないやろ。男子も居るけどみんな気の良い私のサークル仲間だよ」

 俺は大袈裟に涎を拭き取る仕草で、「そりゃ楽しみや。ほんじゃ大学時代の気分に戻って羽目外したるかいな。どんちゃん騒ぎじゃ」


 二度目のB界行きはA界の2013年4月16日だったが、現実、この「夢界の創造主」を書き上げた今日はA界の2015年5月、B界の二日がA界の二年に相当してしまった。

 初め、A界の一日はB界の数十年・数百年にも相当するとか偉そうに書いてB界を貶めたが、単に俺がこの部分を書き上げるのに、体たらくして二年も掛かってしまっただけだ。その間、俺を取り巻く環境・状況は大きく変わってしまった。

 最大の変化は10年過ごしたMBの八幡東店から、入社以来18年在籍した北九州支店に出戻り移動させられたことだ。松田との確執で鬱一歩手前だった俺は、一応救われた形だ。これでもう鬱陶しい松田の顔を見ずに済むが、定年までの七年間は名ばかり課長の一兵卒に決まった。なぜなら、ついた直属の上司は俺より二つ年下だったから。統括部長も変わって、俺と同い年の奴になった。益々俺の立つ瀬はない。


 32年居て改めて思うに、この糞会社は非常に奇妙だ。現代の日本にはまだ受験戦争は存在する。一般的な高校生は、少しでも良い大学に進学して将来の不安をなくそうと受験勉強に邁進するが、この会社の首脳陣に関して言えば、世の中の常識は通用しない。車を売る能力さえがあれば、例え無試験入学大学卒でも社長になれる。

 今の社長は俺ら鳥巣の同窓生がポン大と嘲っていた大学卒だ。だが、十何年も会社に嘱望されているという自覚が本人に風格と貫禄をつけさせたみたいだ。ポンにしては振る舞いが実に堂々としている。他の管理職も然り、ほとんどが私立のポン高校出身で占められている。

 こんな悲惨な環境にあって俺は、いつか小説で認められてこいつらを見返したる、仕事では負けたが、まだ人生で負けた訳じゃないと自分を鼓舞してあと三年半、ひたすら耐え抜くしかない。


 今年2015年3月、俺は親父に続いてお袋も亡くした。親父が亡くなったのが2011年1月12日。四年間、パーキンソン病で恍惚状態のまま、何も分からず、寂しく施設で亡くなった。俺は涙を禁じ得ない。

 俺もいつかあの世に足を踏み入れたときは、葬儀に参列できなかったことを、米搗き飛蝗のごとく頭を下げて、ひたすらお袋に謝らねば。肺肝も砕くほどに懊悩した俺の心情、できたら分かって欲しい。


 二年前、俺は弟二人と奴らが住む佐世保と縁を切る決心をした。ただ、もしお袋が亡くなった場合、あらゆるしがらみを無視できるかどうか今一つ確信が持てなかった俺だが、何とかできてしまった。

 これで俺にはお袋の葬儀への参列を拒否した人非人という烙印が押された。その汚名を一生引き摺って生きていかねばならない。一生といっても長くて15年くらいだろうが。

 時の流れは残酷だ。兄弟と確執を作り、両親は居なくなり、仕事で人の上に立つ可能性を断たれ、あと三年半の悲惨な車売り生活が確定してしまった。もう俺に残された憩いはB界の癒しだけだ。

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