92話 心残り
美穂ちゃんのヘヤースタイルは耳朶が半分隠れたボーイッシュショートだ。洗い晒しのジーンズを大腿の上部で切った美脚で、運転席の俺の目の保養をさせてくれる。
「美穂ちゃんはラフな服装が多いよね」
「うん。バイク乗りやから」
「バイクかぁ」と俺はわざと沈んだ振りをする。
「伯父さん何ブルーになってんの?バイクで嫌なことでもあったん?」
「聞いてくれるん?」
「うん」
「実を言うと俺の高校時代のことで後悔することって言うたら彼女が居らんやったことと自動二輪の免許取れんやったことなんや」
「取れんやったって挑戦はしたん?」
「今は小型と大型に分かれとるけど、二年後大型が二つに分かれて、400CCまでの中型免許が新設されて初めから大型が取れんごとなる筈なんや。美穂ちゃん知っとった」
「初めて聞いたよ」と美穂ちゃんは鳩が豆鉄砲食らったような顔。
「やけん俺ら33年生まれは高校二年までに大型取らないかんち焦ったんや」
「美穂ちゃんはいつ取ったん?」
「大学一年のときだよ」
「高一のとき原付取ってある程度バイクに馴れてから試験場に行ったんよ。どうしても単車が左に倒れたときの左足の支えが不安やったけん小型に絞ったばって、コースの半分も走らんうちに、はい戻って、やけの。打ちのめされて諦めた」
俺はしみじみと、「羨ましかったなぁ」
「バイクに乗ってる人が?」
俺はにっと笑って、「普通はそうくるよね」
「何?伯父さん感じ悪いぃ」
「俺は正直言うとバイクが一人乗りなら必要ないんよ。原チャリは二人乗りできんやん。バイクの大小は関係なく後ろに女の子乗せとる奴がただ羨ましかったんよ」
美穂ちゃんはげんなりとした口調で、「おじさんやっぱりそうくる?」
俺は聞かん坊の如く口を尖らせて、「だってよう、単車って二人乗りのとき女の子の胸とぴたっと密着できるやん。あの感触ば一度でええけ体験して見たかったんやもん」
「もう、いい年して伯父さんのスケベ!」
「そげん言いながら美穂ちゃんかわいいけ、高校のとき二人乗りの経験あるんやないん?」
「う、うん」
「伯父さんにカミングアウトした高校時代の彼氏がSL3半持っとったけん」
「へっやっぱりね。不幸は俺だけやん」と不貞腐れる俺に、「ご免なさい。でも私正直後ろはつまんなかった。自分で好きなときに好きなバイクに乗りたくて免許取ったん」
俺は投げやりな言い方で、「まぁ、高校時代の俺には彼女ができる可能性なんか0やったけ、実際単車なんかあっても意味ねぇし、無用の長物に過ぎんやったんよね」
「ばって大学生になって、逆に単車があったら可能性0から脱却できるんやないかち考え直して、今度は実技免除の自動車学校に行ったんよ」
「それで」
「今度は自動車学校の適性試験で落とされてジ・エンド」
「美穂ちゃん俺ってかわいそうやろ?」
「おじさん私に同情して欲しいん?」
俺は瞳を輝かせて、「うん」と小さい子が母親に甘えるが如く頷く。
美穂ちゃんは目一杯笑いを堪えながら、「伯父さんかわいそう!」
「頑張ったんやね。いい子いい子!」と頭を撫でてくれる美穂ちゃん。
「よっしゃ!俄然元気でたでぇ。小倉までひとっ走りじゃ」
「行っけぇ!」
何も怖いものがないB界の俺、20代の女の子に、よくもまぁ恥ずかし気もなくこんな甘えた振る舞いができるものだ。感服してしまう。




