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夢界の創造主  作者: クスクリ
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91話 小倉へ

 俺は味噌汁を啜って、「美味い!さすが奈津子」

「でしょ。お兄ちゃんは昔から私のお味噌汁以外、受付ないんやから」と満足そうに微笑む。

 美穂ちゃんが不思議そうに、「受付ないってどういうことなん?」

「今お兄ちゃん私が作ったお味噌汁は飲んだやろ」

「他所では絶対飲まないよ。中の具だけ摘まんで食べるだけだよ」

「そうでしょお兄ちゃん?」と奈津子は当然のように俺に同意を求める。

 A界の俺は4年の期間を置いて親父に続いてお袋も亡くした。お袋の味と良く言うが、正直、味噌汁だけは不味かった。だから俺は飲まずに具だけ摘まんで食っていた。外食先での味噌汁は除外して、一番美味いと思ったのは父方の勝代叔母の味噌汁だ。奈津子の味噌汁はその勝代叔母の味噌汁に匹敵する。

 それにしても無意識の力の野郎、俺の意向無視して面白がって、勝手に奈津子の記憶操作してやがる。今の俺は味噌汁は全部飲んでるって言うのに。


「あのねお母さん…」

 美穂ちゃんは言い難そうに、「大学の図書館利用して卒論も仕上げないといけんし、自動車学校も再開せんといけんし、サークルの仲間とのこともあるし…そろそろ小倉に帰らんと…」

 意に反して奈津子はあっさりと、「美穂ちゃん、10日も居てくれて親孝行もしてくれたし、良いよ」

「ありがとうお母さん!」

 美穂ちゃんが、「伯父さんは!」と俺に助け舟を出してくれた。

 俺はバツが悪そうに頭をかきながら、「実を言うと俺も小倉に帰らにゃいかんのや。本当はこの無茶居心地の良い家で、奈津子に世話焼いて貰いながら長逗留して作品書きたいのはやまやまなんやが…」

「いいよお兄ちゃん。ちゃんと私との約束守って帰って来てくれたし、世界の木村大悟をいつまでも独占出来ないしね」

 俺は破顔一笑、「ありがとう奈津子!」

 返す刀で、「でも条件がある」

「うへっまた条件かよ」と俺が渋い顔をすると、奈津子は睫毛を伏せて、「私と浩ちゃんお兄ちゃんのことが心配で堪らんの」と浩二と目を合わせる。

「お兄ちゃん小倉に居るなら1週間に1回は元気な声聞かせてね」

 俺はついほろっとくる。ソファーから立ち上がって奈津子の頭を抱いてやった。

 A界の俺にもし、糞ムカつく弟ではなくかわいい妹がいたら、こんな感情の発露もあったのだろうか?


 俺は暑さで蒸す帽子を被らず、奈津子に貰った新品のタオルを額に巻いていた。無意識の力が、側頭部と後頭部にしか髪が残らない酷い文化禿げのレベルを、旋毛も含めて、額に5センチ三方の生え際が残るレベルにしてくれていた。タオルを四つ折りにして頭に巻くとちょうど禿げが隠れる。

 夏草茫茫の野中家の空き地から小倉に向かおうとするGTO・MRの助手席側で、「美穂ちゃん、合格発表あったらすぐ連絡してよ」も奈津子と浩二。

「分かってるって」

「あっそれからこれ」と奈津子は封筒を渡した。

「美穂ちゃんお金が無いって言ってたやろ」

「お母さん気にしなくていいよ。ちゃんと仕送りして貰ってるしバイトもしてるんやから」

「いいから取っとって。お兄ちゃんを引っ張って来てくれたお礼としてね」

「お礼っちゃなんか俺紹介貰って決まった車みてぇやな?」

 運転席から口を尖らす俺に、奈津子はにこっと微笑んで、「そうだよ。これくらいの紹介料、お兄ちゃんに会えた喜びからしたら端金だよ」

「ほんとお母さん、じゃぁありがたく貰っとく」

「浩二」

「はい兄さん」と運転席側に回った浩二に、「美穂ちゃんのGTOが修理から戻ってきたら時折走らせてやってくれや」

「というより通勤に使って貰ったほうがええかな。美穂ちゃんが免許取るまでな」

「お父さんぶつけんでよ」と真顔の美穂ちゃんに、「俺を見縊るなよ。俺は美穂ほど下手じゃないからな」

「言ったなお父さん、私が免許取ったらいざ勝負だぁ」

「あちゃ、俺のオヤジギャランがMRに勝てる訳ねぇよぉ」と項垂れた浩二に3人、声を上げて笑った。


 明治通りに出て、西鉄久留米駅から3号線に入る。今日は日曜日、わざと街中はゆっくり流す。70年代の街の光景、女性ファッションを楽しみながら。

 山口百恵・森昌子・桜田淳子の中3トリオ、天地真理・南さおり・小柳ルミ子の新3人娘、西城秀樹・郷ひろみ・野口五郎の新御三家全盛のこの時代、街中ファッションは華やかとは言い難い。A界の現代と比べて見てしまうから。

 膝上ワンピース、薄手のブラウスにパンタロン、ミニスカートにハイソックス、ジーンズ、久留米は田舎街のせいか、かぶり付きたくなるような美脚のいい女はあまりいない。

 サマーファッションの筈だが、身体の線がきゅっと出る奇抜な服装の子も見当たらない。ワンレンボディコンのディスコ時代はまだ10年先だ。ショート・ミディアム・ロングヘヤー、ロングソバージュ・ショートパーマ・ボブ・ヘアバンド、茶髪にした子がいないから髪型がみな野暮ったく見えてしまう。でも、良い女は時代を問わず良い女だ。

 美穂ちゃんが口を尖らせて、「おじさん、何にやにやしながら歩道ばかり見てんの?」

 俺は助手席の美穂ちゃんに視線を移して、「日曜日でこんだけ女の子が歩いとって、美穂ちゃんよりかわいい子はいないなって。かわいい美穂ちゃん助手席に乗せて俺は果報者やなって」

 美穂ちゃんは、「もうおじさん口が上手過ぎるぅ」と俺の肩を叩いて、「薄着の女の子見て鼻の下伸ばしてたやろ。本当のこと言いなさい」と俺の頬をぐいっと右手で抓った。

「ご、ごめなざい。ほんどのごといいまず。ぞのどおりでずみぼひべ」

「聞き取り難かったけど何となく分かったから許す」

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