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夢界の創造主  作者: クスクリ
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88話 特上松坂牛

「大吾お~じさん」

 美代子が嬉しさを隠しきれないように抑揚をつけて俺を呼ぶ。今日の美代子は中学生らしいフリル多めのかわいい服だ。

「甲子園の試合結果、おじさんが言った通りのスコアだったよ。これで私も4月から晴れて鳥巣高生だよ」とにこにこ顔の美代子は、「ルンルンランラン」と鼻歌まで出ている。

 そんな美代子がかわいくて堪らない俺はちょっと意地悪してみたくなる。

「美代ちゃんそいはち~と気が早いなぁ。一応勉強してある程度は点数取れるようになっとかんと。試験用紙に出鱈目な解答しか書けんやったら俺の力でもさすがに無理かもしれんぞ」

 美代子はかわいく口を尖らせて、「え〜!だってぇ、おじさんの予言通りだったら鳥巣高合格やってもう信じ切ってたよぉ」

 康太が美代子に助け船を出してやる。

「ほら見てん。やっぱり俺が言うた通りやん。大悟おじさん三浦は大丈夫だよ。毎日朝から俺んち来て勉強しとるよ。で、特に苦手な数学は姉ちゃんが時間作って家庭教師してやるって言うとるけん」

「でも勉強しに来とるんか姉ちゃんと喋りに来てるんか解らんばってん…」と美代子をちくっと刺す。

「もう康ちゃん大悟おじさんに余計なこと言わんの」

 美代子は康太の口を手で塞ぐ。

 俺はかわいいからしょうがないな、という仕草で、「分かった。なら間違いなく美代ちゃんは4月から晴れて鳥巣高生や」

 言った途端、喜色満面の美代子は俺に飛び付いてきた。

「大悟おじさん大好き!」

「大悟先生今度は美代ちゃんに抱き付かれてるぅ」

「中学生の無邪気さには敵わん!」

 うんうんと納得している美咲に美穂ちゃんが、「美咲もどさくさ紛れに抱きついてみたら。おじさんスケベだから喜ぶよ」と皮肉る。

「もう美穂、確かに私は大悟先生に抱き付きたいほどの大ファンやけど、これだけの人目がある中、中高生のようには大胆になれんよ」

「だよね」と舌を出して美穂ちゃんも納得する。


「美代ちゃんは寿司と牛肉どっちが好きなん?」と俺。

「私はお寿司が好きなんやけど、康ちゃんがお肉の方に行くけん彼女としては従うしかないし」と不満顔だ。

「けっ三浦、隣やし別に俺に合わせる必要ねぇやん」

 美代子は済まし顔で、「私が嫌なんやもん」

 俺はにやっと笑って、「美代ちゃん、康太がなんで寿司より先に肉に行くか知りたい?」

「うん知りたい」と美代子は円らな瞳で俺を見て大きく頷く。

「康太は握りは一回食ったことあるばってん牛肉は食ったことねぇんだよ。真知子がカレーに入れる肉も豚肉やしよ」

 美代子は目を丸くして、「じゃぁ康ちゃん焼き肉もしたことないん?」

 康太は、「三浦馬鹿にすんなよ。焼き肉ぐらいあるくさ」

 俺は笑いながら、「確かに焼き肉には違ぇねぇが安い豚肉かマトンよ。しっかり者の真知子らしいわ」

 美代子が怪訝な顔で、「マトンってなぁに?」

「羊」と康太。

「羊さんって食べられるの。毛を刈るだけやって思っとったよ」

 美代子は唖然とした顔で康太を見る。

 康太は憮然として、「三浦完全に俺を馬鹿にしとろ?」

 美代子は慌てて眼前で手を振って、「そんなことないよぉ。私が食べたことないお肉を食べてる康ちゃんって凄いなぁって思ってるだけだよ」と言いながら、目は笑っている。

「三浦きさん!」

 美代子はさっと俺の後ろに隠れる。

「大悟おじさん助けて。康ちゃんが虐めるぅ」

 今度はちょうど寄ってきた由起の後ろに隠れ直して、「由起姉助けて。康ちゃんが虐めるのぉ」

「三浦きさん、ちょこちょことみんなの後ろに隠れ捲りやがって」と康太。

 由起は美代子の頭を撫で撫でしながら、「こんなにかわいい美代ちゃんなのにね」と康太に、「めっ!」

 俺は、「美代ちゃんのかわいさにゃ俺ら大人はメロメロじゃ。康太すまんな」

 康太はちぇっと舌打ちして、「別にいいよ。かわいいんは事実やけ」

 美代子は由起の陰から耳をダンボにして、「えっ康ちゃん、今美代子に嬉しいこと言ってくれたぁ?」

「よく聞こえんかった。もう一回言ってぇ」

 康太はへ~んという感じで、「忘れたぁ」

 美代子は康太の身体を揺すって、「もう康ちゃんの意地悪!」

 オヤジの俺には何とも微笑ましい光景だ。やっぱり女の子はかわいい。二人目に女の子をつくっておくべきだったな、と改めて後悔するが、俺と嫁のDNAを受け継いで果たしてどんな娘が生まれたか。ブスだったら眼も当てられない。


 ステーキ担当はホテル・ニュー中谷の料理長だ。軽やかなヘラ使い、程好く焼き色のついたステーキ肉の表面に、手際良くカリッカリッと調味料を振りかける料理長の手元を、康太はごくっと喉を鳴らして身を乗り出すようにして凝視する。

 美代子はそんな康太に、「康ちゃんお腹空かせたワンちゃんみたい」とくすくす笑う。

 康太も言い返す。

「三浦お前ステーキ食ったことあんのかよぉ?」

 美代子は平然と、「ないよ」

 康太は胸を張って、「なら俺と同じやねぇか」

「料理長、何とも堪らない良い匂いですね」と俺。

「大悟先生、こんな特上の肉よほどのコネと金がないとおいそれとは売ってくれませんよ」

 料理長は驚きを隠せない。

「確かに松阪肉牛共進会チャンピオンのフィレですからね。ほいでも俺にゃ仲間の喜ぶ顔を見るためやったら大したことありませんよ」


「おっ康太美代ちゃん、料理長がナイフ持って切り出したぞ」

 料理長は手際良くさくさくと、まだ色んな料理を味わわねばならない招待客のために小振りに切り分ける。眼前に、夢にまで見たは大袈裟か。別に牛肉でなくとも文句はないし拘泥もしない。マトンは臭くてちょっと抵抗あるが、豚肉で満足できる節約慣れした康太のことだから。ステーキとは、康太にとってのイメージは、トムとジェリーに出てくるブルおじさんの大好物、分厚いアメリカ式牛肉だ。


「康太、一切れ500円の特上肉やけ味わって食えよ」と冗談めかして、俺は無造作に口に放り込んだ。

「おっ!さすがに美味ぇわ」

 康太は箸で摘まんだまま動きを止めて、「おじさんこの一切れが500円!」と目を点にする。

 料理長が笑いながら、「松坂牛って言うたら日本で一番高い牛肉なんだよ。滅多に食べられるもんじゃないんやから、君たちは幸せ者だよ」

 美代子が先に口に入れた。

「美味しい。舌の上で蕩けるよぉ。これがお肉なのぅ。チョコみたい。康ちゃん早く食べてみて」

 おうと康太。

 俺が、「どうや贅沢の極みの牛肉は?」

「大悟おじさん美味い!これが本当の牛肉なん」

「おうよ。真知子がケチるなら俺が定期的に腐るほど贈ってやるよ」

「そのときは私も食べに行く」とちゃっかり者の美代子だ。

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