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夢界の創造主  作者: クスクリ
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8話 神を超越した力

「ほんじゃ美穂ちゃんそろそろ行こうか」

 ここから久留米までゆっくり走っても一時間掛からない。一緒に居る間、かわいい美穂ちゃんと喋れるだけ喋りたい。

 俺は美穂ちゃんから見たら創造主様なのに全然創造主慣れしてないし慣れるつもりもない。これから初中訪れることになるだろうB界だから、居心地が良いB界にするためにも俺はA界に居る俺のままずっと謙虚でいる。でないと、創造主とはいえ、俺に破滅が来ないと誰が言える。

 俺は後方を確認するとゆっくりGTOを発進させた。二車線の走行車線を制限速度の50キロで走らせる。軽自動車やトラックが俺に一瞥くれて、追い越し車線からぼんぼん抜いていく。

『この格好だけ野郎が!ちんたら走りやがって』ってな感じか。

 その内、雨粒がフロントガラスを叩きだした。

「やっぱり降り出しやがったぜ」

 俺は運転席窓ガラスを閉めてワイパーを作動させた。美穂ちゃんも俺に合せて助手席窓ガラスを閉める。雨は激しさを増す。夏特有の大粒の雨だ。

「やっぱ窓締めたら蒸して堪らんぜ」と俺はファンを最大にする。

「何かおじさん変だよう」

「どしたん?」

 美穂ちゃんは怪訝な顔で、「運転大人し過ぎるよ。どうしたん?」

「確かに時速50キロちゃ俺には有り得んな」

「そうよおじさん」


「もう久留米まですぐやん。何か名残惜しゅうて、美穂ちゃんと出来るだけ長く居りてぇち思っちまった」

「なぁんだ、そんなこと考えてたん」

「私もおじさんと話したいことたくさんあるけど、もう久留米まですぐやもんね」

 俺はにっと笑う。

「何、おじさん感じ悪いぃ」

「いや、俺の能力の一例出して美穂ちゃん喜ばしちゃろう思うて」

「おじさんの能力?」

 美穂ちゃんはふ〜んという顔だ。

「美穂ちゃんの家、車あるぅ?」

「あっそいから車庫も」

「お父さん三菱だよ。ニューギャラン乗っとる。車庫って言うより、実家の横に空き地があって、10台くらい停められるかな。勿論うちの土地だよ」

「もう何年乗ってあるん?」

「6年にはなるかな」

「ならええな」

「もしかして車のセールス?」

 へっ?と俺。

「な訳ないよね。おじさん、なんてったって創造主様やもんね」

 俺は真顔で若干怒気を混ぜて、「美穂ちゃん、創造主様を茶化すと罰当てるぞ」

「ごめんなさい」と美穂ちゃんは両腕で頭を庇う。

「何で頭庇うん?」と俺が口を尖らせると、「おじさんの罰、上から降ってくるんかなって思って」と舌を出す。

「美穂ちゃんには敵わんっちゃ」


「ほいでも、俺が持っとる名刺は一応北九州MBの営業課長やし、向こうの世界じゃ30年も車売りよった。セールスが染み付いとるで。条件反射でつい年数聞いちまって親父さんに新車売ろうっちしよった」

 俺は自虐的な笑い方をした。

「おじさん、向こうの世界では車売るん辛かったん?」

 俺を思い遣る優しい眼差しだ。

「美穂ちゃん止めようぜ。湿っぽくなるけな」

「ほいでさっきの話の続きやけど、美穂ちゃんが朝起きるとするやん…」

「私が起きたら…」

「空き地にGTO・MRの新車があったりして」

 美穂ちゃんは自分を指さして、「えっ私の車?」

「決まっとるやん。こんくらい俺には朝飯前や」

 どうや!えへんと胸を張る。

 創造主としての物のプレゼントくらいだったらまだ無邪気だ。

「おじさん凄い!」と手を叩いて喜ぶ。

「ちっちっ」

 俺は眼前で艶に人差し指を振る。

「美穂ちゃんこんくらいで驚いて貰っちゃ困るなぁ」


「ほんじゃぁもう一例出して美穂ちゃん悩ましたるかいな」

 彼女は口を突き出して、「どんな?」

「実家の自分の部屋で夕方ちょっと昼寝しとった美穂ちゃんが眼を覚ますと…」

「私が実家で目を覚ますと…」と美穂ちゃんが食い付く。

「居間から自分の歌声が聞こえてくるんちゃ」

「あれっと居間に行くと、美穂ちゃんが黄色い声援ば身体いっぱいに浴びてヒット曲歌いよるんじゃ」

「ヒット曲を私がテレビで?」

「テレビのカラオケ大会?」

「な訳ねぇじゃん。そん曲は水色の恋、俺が美穂ちゃんの人生と天地真理の人生ば入れ替えた。テレビ見た美穂ちゃんは途端、自分の天地真理としての記憶とスキルが蘇るんじゃ」

 美穂ちゃんは唖然として言葉を失う。

「飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドル、天地真理は久留米が生んだ大スター・野中美穂っちゅう訳や」

「お、おじさん…」

 美穂ちゃんの声が震える。

「いったいおじさんの力ってどれほどなの?」

「俺の辞書に不可能って文字はねぇ。ナポレオンなんか問題外や。俺はA界で崇拝されている神より万能や。A界の神てろ居るか居らんか分からん。姿見たもんなんか居らんけんな。なんて言うたっちゃ、俺は美穂ちゃんの前にこうして居るけな」

「ドラマとか映画とか、超能力者や魔法使いの出来ることって、物を出したり破壊したり、空を飛んだり消えたり瞬間移動したり、人を念力で殺傷したり、死んだ人を生き返らせたり病気を治したりしか知らない。おじさんの力って想像を超えてる気がする」

「おじさんなら歴史を造り変えることだって造作ないことなの?」

 …しもうた、調子に乗り過ぎた。やっぱり俺はしょうもないオヤジや。かわいい美穂ちゃんの前でついカッコ付け過ぎた。余計なこと、言わんでええことまでペラペラ喋っちまった…


 得体が知れない者に感じるような怖れを抱きつつある美穂ちゃんに俺は気付いてしまった。フォローだ。

「出来るけど、美穂ちゃんこれだけは信じてくれちゃ」

「俺は自分で言うのもなんやけど良心的な人間なんや。権力を持った者の常道、独裁的猜疑的にゃ絶対ならん。美穂ちゃんば困らせること、悲しませること、力ば過信することは断じてせんで」

「まだたった数時間やけど、私おじさんが自制心の強い人だということくらいは分かるよ」

 …水爆の起爆スイッチの前には常時二人配置されて、一人が精神異常を来しても大丈夫なように互いに監視させてるって聞いたことあるよ。もしかしたら、おじさんには私が必要なんかもしんない。おじさんがこの世界で暴走しないように、また豹変しないように、わたしがおじさんの箍になってあげなければいけないんじゃないの…


「私おじさんのこと忘れたくない。記憶そのままにしておいて」

「よっしゃぁ!」

 俺は右手を突き上げた。

「美穂ちゃん決心してくれたんやな。ありがとう」

「おじさん私が辛いとき頼りにしていいんだよね?」

 美穂ちゃんが俺の表情を窺う。

「あたりきよー」

「おじさん顔に似合わず剽軽。可笑しい」

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