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夢界の創造主  作者: クスクリ
70/95

70話 試走

 妹宅、この辺りは小高い丘陵の住宅地だ。家の裏手は竹林になっている。つくつく法師の鳴き声がクマゼミの鳴き声に混ざりだした。夏の終わりに俺が感傷的な気分になるのはおかしい。行こうと思えばどの季節でも自由自在なのだから。

「おっ!来とるやんけ」

 駐車場に停まっていた車はオレンジのギャランGTO・MR、納められたばかりのバリバリの新車だ。俺が関わる車にノーマル状態は考えられない。初心者の美穂ちゃんには無理があるから、一応、アルミ・タイヤ・マフラーで、スタイルだけは決めてやった。

 達己並みの隣近所を顧みない爆音を響かせながら、駐車場に竹林にノーズを向けて進入した。二度空吹かししてエンジンを切った俺は徐に車を降りた。昼下り、気温は30度、タオルで額の汗を拭き取って首に掛け、ハイライトを取り出して火を点ける。

 ふ~…大気に煙を吐き出す。物事の区切り区切りに煙草を吹かす。一日一箱平気で吸えた頃の俺の行動パターンだ。B界では何本吸おうが身体には問題ない。


 「おじさん!」「お兄ちゃん!」の声に降り向くと美穂ちゃんと奈津子の顔、たった十日ぶりなのに妙に懐かしく感じる。美穂ちゃんが、「おじさん流浪人やけん、本当に来てくれるか私もお母さんも相当不安だったんだよ」とにこっと笑う。

「馬鹿か!」と俺は美穂ちゃんと奈津子の頭に手を置いて、「かわいい姪っ子とたった一人の妹ば裏切ったりはしねぇ。俺もそこまでの人非人やなぇよ」

「二年間も音沙汰なしやったお兄ちゃんのことやけん、また何も言わずにいなくなっちゃうんやないかって心配やったけど安心した」とにっこり微笑む奈津子。

「奈津、約束するわ。もうそんなことは二度としねぇ」

 奈津子はこっくりと頷いて、「信じるよお兄ちゃん!」

 昼下りの目映い陽光を浴びる奈津子はとても40過ぎには見えないほど若々しい。いい女だ。街歩いてたらナンパされるんじゃないか。我が妹ながら誇らしい。

 美穂ちゃんが改めて、「おじさん新車ありがとう。長居し過ぎたけん早く小倉に帰って教習所行かんと」

 美穂ちゃんがぺろっと舌を出す。

 奈津子が申し訳なさそうに、「お兄ちゃんこんな高い車買って貰っていいのぉ?」

「俺は独り身の金持ちや。他に遣うこともねぇしかわいい姪のために遣えるんなら本望や」

「美穂ちゃん、納車んとき傷がねぇか確認したや?」と、俺は目を凝らしてぐるっと回る。

 美穂ちゃんが、「ねぇおじさん、同じ車なんやけど何か迫力が違う気がするんやけど…」

 美穂ちゃんは違いを探そうと二台のMRを交互に眺める。

 俺はにやっと笑って、「久留米三菱にTSレーシングに持って行かせてドレスアップさせたんやが弄ったんはエクステリアだけや。俺んMRは徹底的に弄っとるけん車高が美穂ちゃんのMRより低いんよ」

「あっほんとだ」と美穂ちゃんは納得顔。

「走りば確かめちみようや」

 うん、と美穂ちゃんは朗らかな返事。

「じゃぁお兄ちゃん私は家に戻っとくよ。あまり遠出せんでね。浩ちゃん5時半には帰るって言うとったけん」


「美穂ちゃんこんMR、エンジンはノーマルやけど4ピニオンのLSDぶち込んどる」

 美穂ちゃんは怪訝な顔で、「LSDってなぁに?」

「まぁ百聞は一見に如かずや。よう見とき」

 俺はステアリングを切ってスロットルを煽りクラッチをちょんと繋ぐ。車は前輪を支点にくるっと180度回転して駐車場出口にノーズを向けた。

「こういうことよ」

「まだ分かんない」と美穂ちゃん。

 俺は美穂ちゃんを指差して、「いいか美穂ちゃん、免許取っても最初の一年はできるだけ過激な運転はせんごと(しないように)。特に雨んときはテールが左右に振れてスピンし易いけんアクセルは注意深く踏むこと」

 俺は住宅街の細い路地をふり飛ばし、コーナーではLSDをぎんぎんに効かせてテールを振って曲がった。明治通りまで抜けるつもりだ。

「さすがTSレーシングのワンオフマフラーじゃ。抜けもええし官能擽るエキゾーストノートや」

 擦れ違う一盛りいくらの大衆車の奴らが眉を顰めてこっちを見る。注目されると俺は益々増長するぞ。

「おじさん、このMR調子いい?」

「まだエンジンに当たりがついてねぇけ吹け上がりがち~と重てぇが、まぁ新車ならこんなもんやろ」

 明治通りに入って片側三車線になる。車間を縫いながらのジグザグ運転でステアリングの応答性を確かめる俺に、「ねぇおじさん、今日の歓迎会のことなんやけど」と美穂ちゃんが言葉を濁す。

「何も気にせんでええで。美穂ちゃんの言うこと何でも聞くけぇ」

 気が軽くなった美穂ちゃんが、「私の高校時代の親友三人連れて行ってもいぃい?」

「ええよ」と俺は二つ返事で承諾する。

「実を言うとね、数日前丸星ラーメンで偶然達己おじさんと会ってお願いしたらいいって。でも主賓はおじさんやろ。ちゃんと許可貰っておかんと。達己おじさんは兄貴は太っ腹やけん断る訳ないって笑っとったけど」

「俺は金が有り余っとるけ賑やかなんは大歓迎や」

 美穂ちゃんはにこっと微笑むと、「でね、その中に美咲って言っておじさんの大ファンがおるん。おじさんのためなら彼氏も捨てるってぇ」

 お~!と俺は目を輝かせる。

「で、その子かわいいん?」

 ――やっぱりおじさんスケベだぁ!

「おじさん好みのすっごくかっわいい子だよ」

「益々いいねぇ」

 ――おじさん鼻の下伸びてるぅ。


 B界での俺はやりたい放題だ。久留米豊前屋の辺りでカマロZ28の前に割り込んだ俺は、すぐまた車間を縫って前方に出る。途端、カマロがいきり立って執拗に俺を追い掛けだした。バックミラーで確かめる。助手席の男はアイパーヘヤーに黒シャツ、金のネックレス、スモークサングラス、典型的なヤクザファッションで、一目でそれと分かる強面だ。運転しているのは下っ端のチンピラか。

 ちっ!と俺は舌打ちした。

「美穂ちゃん、ち〜と面倒片付けるわ」

 俺は自分を指差して、「俺は誰?」

 美穂ちゃんはちゃんと乗ってきてくれる。

「人気作家木村大悟にしてこの世の創造主様やろ」

「そうや。俺は創造主や」

「おじさん急にどうしたん?」

「後ろからこん車ば煽るあいつらヤクザや」の俺の言葉に美穂ちゃんの表情が強張る。

「大丈夫や。何も心配するこたぁねぇ。俺に怖いもんなんかねぇよ。俺の力の一端見せたるわ。この世で美穂ちゃんだけが俺の秘密ば知り俺の暴走ば抑止できる唯一の人間やから見とく必要がある」

 俺は手前勝手に断定する。

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