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夢界の創造主  作者: クスクリ
67/95

67話 遭遇

 店の外観は経年劣化した倉庫のようだ。

「あちゃ~、車多いわ」と拓海。

 店側の駐車場はいっぱいで、仕方なく店の対面の駐車場に右折して入れた。

 店に入ったら券売機で食券を買う。ラーメン屋で自動券売機を導入しているのは丸星だけだ。床は目が粗いコンクリートで、若干波打っている。客席は入口より低い。灰皿は無い。床に落として踏みつけて消す。

 女の子四人は豚骨ラーメン、拓海はラーメンとライス。ご飯に大中小はなく、腹一杯になりたければ、小サイズの飯椀のお代わりが必要になる。

 公立学校の木製机を四つ合わせたような粗末なテーブル、椅子は三人掛けの薄いビニールを張っただけのベンチ。買った食券はテーブルの通路側に置いておくと、いづれおばさんが確認する。わざわざ確認だけには回らない。あくまで何かのついでだ。だから、ラーメンが来ないと声を荒げる客は無粋だ。おばさんはあくまでもマイペース。

 そう言っている端から、通路を行くおばさんに、「おいラーメンまだか!もう相当待っとんじゃぁ」と注文をつける美穂ちゃんたちと通路を挟んだ隣の客。視線が合ったら因縁をつけられそうな見るからに柄の悪そうな男女、男は左脚をだらしなく通路に投げ出して煙草を吸う。間が悪いことに、あとから来た美穂ちゃんたちのラーメンが先に来る。

 スープに右手の親指を突っ込んで、盆に載ったラーメンを美穂ちゃんたちのテーブルに一杯づつ置くおばさんに、「何じゃぁ?何であとから来た奴らのラーメンが先に来るんじゃ」と男が憤慨する。

「はいはいすいませんねぇ。もうちょっと待って下さいねぇ」といつも通りの言葉を吐くおばさんに、男は、「ババア、好い加減にせぇよ」と怒り出した。男の目が気になって、美穂ちゃんたちは箸が付けられない。困惑するおばちゃんに、男は、「今すぐ持って来いや」と煙草を通路に投げ捨てて、足で揉み消す。


「こりゃー!」

「ごちゃごちゃ煩ぇんじゃ!」

 美穂ちゃんの背中越しにドスの利いた男の声がした。

「何じゃ!」

 売り言葉に買い言葉、後ろを振り返った男はがたっと席を立つと、奥の席に肩を怒らせて向かう。女は余裕をかませて脚を組み、煙草を指ににやにやしている。

 とばっちりが来ないとも限らない。客がみな固まる。でも、おばちゃんは何事もないかのように動いて、ラーメンを運ぶ。美穂ちゃんたち五人もラーメンを前にその場で固まる。

 声をあげた奥の席の客は、肩を怒らせて近づいてきた男の直前で無表情にすっくと立ち上がると、そいつの首を取るなり強烈な膝蹴りを鳩尾にぶち込んだ。げふっ、男は悶絶してその場に蹲る。そうとう喧嘩慣れしている。

 後ろ向きの三人には申し訳ないが、美咲と拓海にはリアルタイムで初めて見る生の本気の喧嘩殺法だ。

 奥の席の男は屈んで、跪いた男の首を右手で締めて前後に揺すると、「おらチンピラ、相手見て突っ掛かって来いや。折角の俺らのラーメンタイム邪魔しやがって。お前ぇラーメン食い終ったら外で待っとれや。直ぐ殺しちゃる」と、奥の男はどんと男を押し遣った。

 美穂ちゃんの背中越しに聞こえるこれ以上ない脅し文句。肝が据わっている。格が違う。

『まさか本物のヤクザ!』

 五人とも思った。

 男は顔色蒼白だ。

「す、すいませんでした」と奥の席の男にぺこぺこ卑屈に謝った男は、鳩尾を抑えながら席に戻って、「おい行くぞ」

 女が、「あんたラーメンは?」

「とにかく出るんや」と女を促す。ちょうどおばちゃんがラーメンを盆に載せてやって来た。

「あらお客さんどこに行きんしゃるね。ラーメンできたよ」

「おばはん要らん。捨ててくれや」と男は逃げるように店を後にする。

 痛快だったが、奥の席の客が本当にヤクザだったら笑いごとでは済まない。ヤクザは堅気の人間に馴れ馴れしくされるのを嫌う。触らぬ神に祟りなしだ。何か喋りたいが喋れない。重苦しい空気の中、無言で五人とも食べ終わった。折角の丸星ラーメンが味気ない。


 重い足取りで店を出て、対面の駐車場に目を遣ってみんなぎょっとした。そこには目を覆いたくなる光景が展開されていた。

 新車の117クーペの左横のスペースには、エンジンを掛けたままの派手に改造された130ローレルと五台の暴走バイク、ヤンキー座りで屯するのはいかにも危なそうな奴ら。釘を打ちつけたバットと木刀を肩に、モヒカン刈りにマスク、地下足袋に腹には晒。誇示する特攻服の背に入れられた文字は久留米狂走連合。いったいいつ湧いて出た?カツアゲするカモを物色しているのか?

 照代がぶるぶる震える。恐怖で五人とも足が竦む。117クーペの右横に乗用車が一台、それに大型トラックが一台。爪楊枝を銜えたオヤジが鼻歌を唄いながら道路を渡ってトラックのキャビンへ。族は動かない。狙いは若い奴か?

「狂走連合だよ。滅多に遭うことないって言ったじゃん」と照代が美咲の腕を両手で掴んで揺する。

「まさか今日に限って!」と唸る美咲。

「斉藤君どうするん?」と夏希の声も震えている。

 美咲が拓海に確認するように、「だた屯ってるだけだよね?女の子には何もしないよね?」

「あいつら狂犬や。何するか分からん。ばって車んところに行かな帰れん」

 照代が、「警察に電話しようよ」

「パトカーまで攻撃したっていう狂走連合が素直に従うとは思えんしもしかしたら乱闘になるかもしんないよ」と冷静に考察する美穂ちゃん。

「怖いよぉ!」

 照代は今にもべそを掻きそうだ。

 拓海が、「とにかく車に戻ろう」とみんなを促す。

 意を決して道路を渡る。片側一車線のこの3号線は九州の大動脈だ。熊本を貫いて鹿児島まで伸びる。九州縦貫自動車道のないこの時代、交通量は半端ない。行き交う車の合間を縫うのも神経を使う。


『どうぞ何事も起こりませんように』

 祈りながら平静を装って車に近づいた。

 ほっ!

 拓海がポケットからキーを取り出す。

「おい待てや」

 畏怖させるには十分にドスの利いた声。瞬間世界が凍りつく。 後ろ向きに背中の久留米狂走連合の文字を誇示していた族の一人が徐に立ち上がった。

「俺らの前を素通りちゃちょっと虫がよすぎるわな。ええ女四人も引き連れた色男さんよ」

 拓海は恐怖で振り返ることができない。年の頃は拓海より間違いなく下の未成年の筈だ。族は二十歳で引退だ。それからあとは本職の見習いだろう。

 男は仲間を呼び集める。

「おいお前ら、いい獲物が掛かったぜよ」

 得物を持った族がぞろぞろ続いて、117クーペと五人を取り囲んだ。

 拓海が、くそっ!117なんか乗ってこなければ良かった。目立ち過ぎた。混んでなかったら店の横の駐車場に停めて目を付けられることもなかったのに、とか後悔しても後の祭りだ。

 優男金と力はなかりけり。優男でなくてもこの状況で蛮勇を見せるなんて無理な相談だ。女の子の前で格好付けなければとか考える余裕なんて拓海にはない。相手は自分が未成年で少年法によって守られていることを熟知している。どんな非道なことをやったとしても、たとえ殺人を犯したとしても、鑑別所か少年院止まりで長くて二年だ。少年院はこいつらにとっては箔以外の何物でもない。

 照代は恐怖でその場にへたり込む。


「なぁ色男さんよ、もう十分女と楽しんだやろうや。今度は俺らに回してくれや。ついでに金も頼むわ。五万ほどでええわ」

 最初に声を上げたこいつがリーダー格らしい。拓海の肩を掴んで前を向かせる。この人相、とても自分より年下とは思えないほど厳つい。つい目を逸らしてしまう。

 拓海も年上の意地を見せて丁寧語を避ける。

「今から送って行かんといかんけん無理や。金なんか持ってねぇ」

 リーダーはにやっと笑うと、「なら俺らがこいつら送って行ってやるわ」

「金はこの車で勘弁してやるわ」と拓海の手からキーを奪い取った。

「返せ!」と掴み掛ってきた拓海に、リーダー格が強烈なボディーブローを一発見舞う。瞬間、息ができなくなった拓海はその場に崩れ落ちる。

「いや〜!」

 美咲が叫び声を上げた。

「助けて!」

「誰か警察呼んで!」

 夏希もあらん限りの声を振り絞って叫ぶ。

「煩ぇ女どもじゃ」

「おいお前ら、女ば車に乗せろや」

 丸星にはひっきりなしに客が入って行く。勿論、対面駐車場の異常事態は誰の目にも明らかだ。130ローレルには大きく久留米狂走連合とペイントされている。関わりあって怪我などしたくない。みんな見て見ぬ振りだ。子供が興味津々にこっちを見る。親が慌てて、「ほら急いで。見ないの」と子供の目を手で塞ぐ。

 リーダー格が、素知らぬ振りで店に向かう客に向かって脅しを掛ける。

「おらお前ら、サツが来たら真っ先に乗り込んでお前ら一人残らず血祭にしたるぞ」

 丸星を素通りするトラックは夜でもあるし気付かない。気付いてくれれば無線で通報することもできように。

 族は女の子四人の腕を掴んで130ローレルに乗せようとする。三人は懸命に抗う。

「助けて!」

「誰か助けて!」

 さっきまでは四人と同じように族に慄いていた美穂ちゃんだったが、こうなってみると何故か冷静でいられる。族に抗うこともなく従容としてローレルに乗り込もうとしていた。

「何やこいつ、俺らが恐ろしゅうないんか?」と訝る族。

『伯父さんはこの世界がB界だと私に教えてくれた。私はB界の伯父さんにとって大事な存在。なら、今私に起こっていることは伯父さんの無意識の力がちゃんと見ている筈』

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