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夢界の創造主  作者: クスクリ
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65話 100万ドルの夜景

 チョコレートパフェをぱくっと口に入れて美咲が切り出した。

「美穂ぉ…」

 コーヒーフロートのストローから口を離して、「なぁにぃ?」と美穂ちゃん。

「今彼氏おるん?」

「おらんよ。フリーだよ」

「なら話し易い」

「拓海からねぇ、美穂に確かめてくれって頼まれたん」

「何を?」

「森尾君のこと…」

 元彼の森尾の名前を聞いても美穂ちゃんの表情に変化はない。

「森尾君頑張って商社の内定取ったらしいん」

「へぇ凄いじゃん。実際森尾君は野球の特待で明治行った訳やないけん能力ある筈だよ」と主観を交えず話す美穂ちゃん。

「でね…」

 美咲は言い出し難そうに、「美穂に会いたいって拓海に相談したらしいん」

「拓海と森尾君親友やろ。私と美穂も親友やから頼んでくれんかって」

「いいよ」と軽く応える美穂ちゃん。

「美穂ありがとう。拓海に顔が立つよ」

「ちょっと美咲それ虫がよくない?」と夏希。

「そうよ。美穂っていう彼女が居ながら浮気したんは森尾君だよ。遠距離が難しいんは分かるけど、全く音沙汰なしでいづみの口から浮気を聞かされた美穂の身にもなってよ。何を今さらって感じだよ」と、かわい子ぶりっ子で普段穏やかな照代も怒りを隠せない。

 夏希が、「美咲さっき斉藤君でも美穂の伯父さんに会うためなら棄てるかもって言った割には斉藤君に厚いじゃん」

「もう夏希ったらマジに取らんでよ。言葉の綾だよ。私の覚悟のほどを拓海に掛けただけなんやから。一応拓海は彼氏じゃん。いい顔したいじゃん」

「私も美穂の涙忘れとらんよ。森尾君を絶対許せんって思ったよ」

「でもあれから三年も経ったし、いつまでも過去引き摺っとっても仕方ないやろうし、もう時効かなって思って引き受けたん」

「美穂は森尾君に対してもう特別な感情は持っとらんのやろ?」

 美穂ちゃんは頷いて、「懐かしい同級生かな」

「やろ」と美咲。


 女の子が四人集まれば、他愛のない話題で盛り上がって笑いが絶えない。時折窓の外に目を遣れば、通りを歩く制服姿の高校生の姿が。中には明善高校の制服も。そこはOG、自然に目が行く。数日前の鳥巣高校での出来事が美穂ちゃんの脳裏を過る。

『でもあの五人青春しとったな。高校三年生かぁ。いいなぁ。受験は嫌やけど今が人生で一番楽しいときなんやろうな』

 対面の夏希が、「美穂どしたん?ぼ〜っとしちゃって」

「明善の制服見たら高校時代思い出しちゃった」

「私も」と照代。

 夏希も、「私たちも来年は社会人かぁ。なんだかんだいってもやっぱり高校時代は楽しかったよね。いっつもみんなで一緒に居って馬鹿もやって男の子のことで盛り上がってさぁ」

「あ~あ、結局今彼氏がおるん美咲だけかぁ」と照代が肩を落とす。

「みんな湿っぽいよ。私たちはまだ学生なんやから遊べるときに遊ぼうよ。もう少ししたら拓海がバイト終わって迎えに来るけんみんなで夏の夜のドライブと洒落込もうよ」と美咲。

「行こう!行こう!」と照代がはしゃぐ。

「もうこの夜遊び大好き娘が」と美咲が照代のおでこをちょんと突く。


 通りに目を凝らしていた美咲が、車から降りた拓海を見つけてウインドー越しに手を振る。

 斉藤拓海は同窓生、美咲と同じ福岡大学で商学部、身長175、髪はイケメン好みの今風の真ん中分け、短パンにTシャツ姿で現れた。艶にサングラスを外すと、「ようみんな久しぶり」と白い歯を見せて爽やかに笑う。

 拓海は美咲の横に身体を入れ込む。

「もう狭いのにぃ」

「いいやないかすぐ出るんやけん」と拓海が口を突き出す。

 照代が羨ましそうに眺める。

「いいなぁ、彼氏彼女って。私も彼氏と美咲のような掛け合いやってみたいなぁ」

 夏希が、「もう照代ったら私たちはまだ若いの。彼氏くらいすぐできるよ」

「でもできんもん」と照代が口を尖らせる。

 美咲が、「照代は選り好みが激し過ぎるの。あれだけナンパされて合コンやってまだできんのが私には不思議だよ」

「でも妥協したくないもん。理想の彼氏が欲しいもん」

 照代は指折り数えて、「イケメンでぇ、背が高くてスラッとしてて優しくてぇ、私を一番大事に思ってくれてぇ、お金があってぇ…」

 夏希が、好い加減憤り気味に、「もう止めぇ!」

「げっ、理想高ぁ!」

「照代、理想の彼氏もいいけどさっきも言った通り暫くは一人での夜遊びは控えるんだよ」と美咲。

「ほんと最近の久留米は物騒やで。俺の大学の友達、そいつ久留米高校なんやけど知り合いが狂走連合にボコられたっちゅう話や。手当たり次第に因縁吹っ掛けてくるげな。ほんと狂犬連合やでぇ」と拓海がぶるっと震えてみせる。

 夏希が、「じゃぁ今日のドライブも控えた方がいいんやないん?」

 拓海は胸を張って、「大丈夫やって。あくまでも友達の知り合いの話や。俺の周りでやられた奴はおらんし、初中美咲と夜のドライブデート楽しみよるばって会うたごとねぇしよ」

「夏希心配し過ぎだよ。斉藤君が大丈夫って言ってるんやからぁ」と照代。


 美穂ちゃんが、「斉藤君あの車117クーペやろ。XG?」

「おっ野中、車詳しいな。残念ながらXCや。DOHCは髙いでぇ。親父手が出んやった」

 美咲が得意そうに、「美穂いいやろ。先月納車されたばかりの新車だよん」

「でもXCでもいいやん。1800でツインキャブやけん結構パワーあるやろ?」

「野中益々詳しいやん」と斉藤の頬が緩む。

 言おうか言うまいかちょっと逡巡した美穂ちゃんだったが、え~い言っちゃえ。

「実はね。私もう車持ってんの」

 みんながえ〜っ!と驚く。

 美咲が、「どんな車なん?」

 美穂ちゃんは勿体ぶって、「み・つ・び・し・G・T・O・M・R」

 これには拓海と美咲が目を剥く。

 拓海が堪らず食いつく。

「俺たちの憧れのGTO・MR!」

「納車半年待ちやでぇ。いつ契約したん?」

「えっそんなに掛かるん?でも契約して一週間で昨日納車されたよ。今駐車場に停まっとる」

 斉藤ががくっと首を折った。

 呟くように、「俺も欲しい!」

「拓海、就職内定取れたんやから頑張っていつか買えばいいじゃん。私も助手席に乗れるん楽しみにしとくからさぁ」

 美穂ちゃんはちょっと真顔で、「斉藤君より先に手に入れてしまってごめんね」

 夏希が、「美穂、お父さんに買って貰ったん?」

 美穂ちゃんは笑って、「まさかぁ、うちにはそんなお金無いよ。おじさんなん」

 美咲が、「それなら納得。大悟先生美穂がかわいくてかわいくて仕方ないんや。でも気が早いね。まだ免許も取れてないっていうんにね」と笑う。


 今、若者のトレンドのスポーツはボーリングだ。久留米市内にも数ヶ所ある。冷房がギンギンに効いた屋内で爽やかな汗を流した五人。カーンカーンとボールがピンを倒す小気味よい音に包まれて、みんなコカ・コーラとファンタで喉を潤す。

「照代がビリだよ。ガターの出し過ぎ」と夏希。

「だってぇ、ボール重いんやもん」

「やったら照代に合う軽いボール探せばいいじゃん」

「ぶりっ子なんやから」と夏希は諦め顔だ。

「1位は斉藤君で2位は美咲か」

 えへん、と美咲が胸を張る。

「私は拓海と結構ボーリングデートやっとるけんね」

 夏希が、「美穂、ボーリング初めての割には照代に勝ったじゃん」

 美穂ちゃんは照代の髪を撫でて、「照代ごめんね。ビリになってあげらんなくて」

「もう美穂まで私を馬鹿にしてぇ」と立ち上がって真剣に怒る照代に、みんな声を上げて笑う。

「まだ宵の口だよ。高良山の夜景見に行こうよ」と美咲が提案する。

「夏の夜は高良山の夜景で決まりぃ」

 照代が大乗り気で右手を突き上げる。

「もう照代ったら」

「泣いたカラスがもう笑った」とは美穂ちゃん。


 夏の夜の、仲間と一緒のドライブは半端なく盛り上がる。官能を刺激する。昼間は何でもない通り、どうってこともない道行く人も、夜は違って見えるからついつい窓から顔を出して叫んでみたくなるが、当時のスポーティーティカーは例外なく二ドアクーペだから無理だ。せいぜいガラスの後端が若干開くくらいだ。

「う~ん、窓から顔出してやっほ〜って叫びたいよぉ」と照代が駄々っ子のように身体を揺する。

「もう照代ったら」と、真ん中に座った美穂ちゃんはちっちゃな子供を見守る眼差しだ。

 助手席に陣取るのはもちろん運転している拓海の彼女・美咲だが、「クーラー快適やね」

 美穂ちゃんが、「スポーツカーにはみんなクーラーなんて付けてないけん私たち究極の贅沢してんのかもしんないよ」

 鳥居を潜って七曲がりに掛かる。1800ツインキャブといってもそこはラグジュアリーカー、五人も乗れば鈍重だ。走り屋の車に対抗車線から次々にぶち抜かれる。酷い奴になると、何ちんたら走っとんじゃ!とばかりにパッシングの嵐にラッパホーンのおまけ付きだ。勿論、拓海は端に寄って速度を落とし、大人しく丁寧に道を譲る。美穂ちゃんはそんな拓海に違和感を感じざるを得ない。

『これって、男の子にとっては屈辱的なことだよね。伯父さんやったらもう頭から湯気立ててるやろうなっていうよりこんな場面になることないか』

「くそっ!」と拓海がステアリングを悔しそうに叩く。

『だよね。やっぱり男の子やから当然だよ』

 美咲が拓海の腕に手を置いて、「拓海の気持ち分かるよ」と慰める。

「とにかく一日でも早くMR手に入れて弄り捲ったるんや」

 拓海は美咲の方を向いて、「MR買うたら俺は必殺インスタントラーメン生活やで。デート代ねぇよ」

「いいよ拓海好きにすれば。暫くは私が養ってあげるよ」

 夏希が、「感動的夫婦愛やね」

 美咲が後ろを振り向いて、「もう夏希、まだ早いって言うの。続いてたらの話だよ。別れるかもしんないじゃん」

 拓海が情けない顔で、「美咲、舌の根も乾かん内にそりゃぁ殺生やでぇ」

 三人が笑い転げる。


 高良山中腹の高良大社前駐車場には結構な数の車が停まっている。街灯が数本立っていて、人の顔が判別できるほどに明るい。

 ほとんどの車の名前が言える美穂ちゃんが、「斉藤君、車の見本市みたいだよ。117クーペは斉藤君だけやね」と微笑み掛ける。

 拓海は頭を掻きながら、「こげな走り屋のメッカにゃ恥ずかしゅうて117クーペのごたるオジン車にゃ乗って来れねぇよ」

 美穂ちゃんは一台一台指差して、「27レビン、セリカGTV、ベレットGTR、ブルーバード510スリーS、スカイライン2000GT…あれはアメ車…ええとカマロZ28…」

「あっFTO・GSRもおるよ。でもさすがにGTO・MRとスカイラインGTRはおらんね」

「美穂、車に見惚れとらんでこっちで夜景楽しもうよ」と夏希の声。

「今行くぅ」

 ベンチはアベックで埋まっている。一組のカップルが人目も憚らず抱き合ってキスを交わしている。

 照代が興奮して、「ねぇねぇ見てぇ」

「キスしとるよ。恥ずかしい」とわざとらしく目を覆う。

 夏希が、「照代には刺激が強すぎるから見らんの」

「子供やないもん。経験あるもん」

「信じられないぶりっ子だぁ」と夏希が呆れる。

 美穂ちゃんは背伸びして、「うわ~凄い絶景!」

「夜風が気持ちいい。心が洗われるよぅ」

 夏希がにやにやしながら、「美咲と斉藤君もう何回ぐらい来たん?」

「私たちだけ幸せでご免。もう数えきれんくらい来たよ」と舌を出す。

 防護柵に掴まって、五人とも暫し美しい100万ドルの夜景に見惚れる。

「あ~あ、私も早く理想の彼氏とこの夜景眺めたないなぁ」と照代。

 夏希が、「照代は理想が高過ぎんの。条件を少し落としなさい」と叱るように言う。

「できな~い」の照代の答えに美穂ちゃんが微笑む。

「でも照代のような子に限って一目惚れしやすいかもよ」と美穂ちゃん。

「え~、考えられんよ~」

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