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夢界の創造主  作者: クスクリ
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44話 爺

 二階に上がって床に就く。美穂ちゃんのような若いかわいい女の子と一日中一緒に過ごすなんて、昭和57年10月1日の紀子とのデート以来だ。俺は、心地良い疲労感に、ゆっくりと瞼が落ちて深い眠りに入る。気付いたとき、俺は一人掛けのソファーに座り、辺りは白い霧に包まれていた。

 …何となく分かった。勿体ぶって爺さんのご登場か…

 ぼんやりと人影が見えたかと思ったら、爺さんが想定通り現れた。

「ご主人様お帰りなさいませ。B界は十分にお楽しみ頂けましたでしょうか?」

 バーチャル仙人はにこやかな笑みを湛えている。

 俺も笑みで返して、「ああ爺、存分に楽しめたわ。礼ば言うぜ」

 バーチャル仙人は眼前で右手を振って、「お礼など滅相もございません。B界はご主人様が創造された世界でございます。主でいらっしゃいますご主人様が行かれるのは当然でございますから」

 俺ははにかみながら、「ここ数年精神的にも肉体的にも疲弊しとったけん一日ばこげなふうに有意義に過ごしたんは久方ぶりや」

「それはようございました。A界に戻られましたらまた精力的に創作活動をなさって下さいませ。それが爺を含めたB界の住人たちの糧でございますから」

「ああ分かっとる」

「ところで今日一日でB界での能力に目覚めてしもうたんやが俺の認識に間違いねぇやろうか?」

 バーチャル仙人はにっこり微笑むと、「はい相違ございません。私の想定内でございます」

「一緒に危うさや弱点にも気付いてもうたぜ」と俺は口の端を歪める。

「そのご主人様の謙虚さゆえ爺は心からお仕えできるのでございます」

「俺が無意識の力って勝手に想定してもうた能力と爺の関連はどうなんや?」

「ご主人様のご明察にはこの爺、感服いたしております。確かにこのB界はご主人様の世界ではございますが、ご主人様が人体に例えられて美穂様にご説明された通りでございます。無意識の力=爺と考えられて結構です」

「俺が美穂ちゃんと知り合ったんも爺の為せる業か?」

「はい、御意にございます」

「俺はあまりにも無情な人生に疲れ果てて、夢でもええけ俺が生み出した理想の女の子真知子に会ってみたかったんやけど、今日一番の収穫は美穂ちゃんやったわ。あの子はこれからの俺の宝やな。ありがとうよ爺」

「そこまで喜んで頂けるとは…。爺もご主人様に会いに来た甲斐があるというものでございます」


「爺、質問やが。B界に来てとてつもない力に目覚めた俺やが俺の本体はA界にある。謂わばB界の俺は幻のごたる存在ち思うんよ。やったらこの世界で俺ば殺すことはできんのと違うん?」

「よくぞお気付きになられました。その通りでございます。ご主人様はこのB界にどんな影響でも及ぼすことができる何人たりとも犯すことができない尊い存在でございます。言い換えれば何人も自然さえもご主人様を殺め傷つけることはできないのでございます。例えばナイフの鋭い刃も銃の弾もご主人様に掠り傷一つ付けることは出来ません。空気を切ることができないのと一緒でございます」

「やっぱりそうか。リアリティーはあるばってんB界は俺の夢の世界やし夢で死ぬ訳ねぇよな。納得や。頭上に水爆落とされても死なねぇてろ傑作やな。いっそのこと1941年に飛んで半身不随のルーズベルトの首絞めたるかいな」

 バーチャル仙人は怪訝な顔で、「ご主人様、ルーズベルトに何か個人的に怨みでもお有りでございますか?」

「あの男が日本ば太平洋戦争に追い込んだ張本人や。そん癖宣戦布告無しの卑怯な奇襲攻撃やち世論ば盛り上げて、アメリカ国民ば欺いて戦争に向かわせやがった。そいに自分は車椅子の障害者でありながら世界一流の指導者でございますち聖人君主みてぇな面しやがってムカつくんじゃ。日本人ば猿と人間の中間の奇妙な生き物とか抜かして蔑みよった。例えばB界で本当にルーズベルトの首絞めちゃるちしたら俺はまずA界でワシントンまで行ってそこで眠りに就かんといかんのよな」

「御意でございます。そこがB界にリアリティーを求めた末のご主人様の弱点でございます」

「1941年にこの家は無かろうけん、B界で俺の家が建つ筈の原っぱで目覚めてアメリカまで首絞めに行くとしたら日数が掛かり過ぎて俺の本体が餓死してまう。馬鹿らしいことは止めや。そいに後の歴史がややこしゅうなって無意識の力も歴史の収拾に苦労するやろうけな」

「ご主人様、賢明な選択でございます」とバーチャル仙人は頭を垂れる。

「で例えばB界の美穂ちゃんがA界に居る俺と連絡取りたいち手紙書いたら届くやろうか?]

「大丈夫でございます。住居表示は変われども無意識の力がこの家を守護しますので。周辺の住民にはこの家を気にしないように意識操作いたします」

「承知じゃ爺」


「おっともう一つ。21世紀のものは悉く1973年当時に存在しとったものに置き換えられとったんやけど、財布と携帯はそのままやった。何か意味あるん?」と俺はにやっと笑う。

 バーチャル仙人は珍しくコミカルに、「あれっ、財布そのままでしたか?無意識の力の単純ミスでございます。申し訳ございません」

「携帯はこの爺が意識的にやりました」

「ということはB界で撮り捲った写真や動画がA界でも見れるっちとってもええんやな?」

 バーチャル仙人はにこやかな顔でゆっくり頭を下げると、「ご主人様のご理解の通りに」

「よっしゃ―!」

 俺は右手を突き上げた。

「安心したわ。単なるリアルな夢で終わるんやったら俺は爺ば疑うところやったでぇ」

「ご主人様に見捨てられず爺も嬉しゅうございます。A界で目覚められたら携帯の画像をお確かめ下さいませ」

「ところでご主人様、爺の写真は撮って下さらないんですか?爺はこういうシチュエーションでしかお目に掛かることができませんが、もし携帯に画像として残していただければ携帯のモニターを通してA界でもご主人様とお会いしてお話することができます」

「ほんとか爺!」と俺は頓狂な声を上げた。

「はい、爺はバーチャル界に住む仙人でございます。携帯はB界では写真機能だけの無用の長物ですが、A界ではネット機能が使えてバーチャル界に繋がっておりますので」

「ならB界のみんなの消息は爺に聞けるんやな」

「はい、当然でございます」

「分かった」と答えた俺は、携帯カメラのシャッターを押した。

「どうですか、ちゃんと撮れましたか?」と寄って来る。

 俺はモニターを向けてやる。

「これで爺はお守りすべきご主人様といつも一緒に居られます」

 バーチャル仙人は嬉しそうに何度も頷く。

 俺はにやつくと、「爺はB界じゃほんとに崇拝されとんやな。吃驚したわ。俺が爺ば茶化そうちしたら里絵ちゃんに真剣に怒られたわ。A界じゃ神頼みっち言うが、B界では爺頼みなんやな」

 バーチャル仙人は長い白髭を触って、「ご主人様にそう言われると爺は面映ゆくございます。爺はこのB界を創造なされた偉大なご主人さまの忠実な僕に過ぎませんのに」

「それではご主人様A界にお戻り下さいませ。奥様と息子様が大変心配なされておられます」

 バーチャル仙人がその姿を次第に薄くしていき、完全に視界から消え去ったとき、俺は目覚めた。


 真夏のB界から2月のA界へ。俺は冷え込む室温に布団を手繰り寄せて丸まる。

 …A界に戻ったんか?…

 携帯を弄った。

 …あった!…

 確か、昨日床に就いたときは、携帯は一階のテーブルの上に置いたままの筈だったのに。やっぱり単なるリアルな夢じゃなかったようだ。携帯のデジタル時計は12時を指している。B界で眠りに就いて数十分しか経っていない。俺は上半身を起こした。

 …画像確かめにゃ…

 俺はシャープ製携帯電話、SH01Cのメニューからデータボックス、そしてマイピクチャを出す。

 …本当に画像てろあるんかいな?…

 恐る恐るマイピクチャをクリックした。 

 出たぁ!はち切れんばかりの真知子の笑顔だ。井本も、成沢も、お佐和も、里絵子も、赤坂さんも、正美も、美穂ちゃんも、康太も、美代ちゃんも、坪口も、大塚も、みんな写っている。動画も声も完璧だ。


 ぐぅ…腹の虫が鳴いた。そりゃぁそうだろう、24時間食ってない。嫁と息子は下に居るようだ。パソコンでもやっているんだろう。

 階段を降りたら右に玄関、雑多な車関係の部品を置いている。玄関というより倉庫だ。だが、飼い猫が入り込んで糞尿をするため臭い。時折、部品を出して掃除する。

 廊下を挟んで右手に四畳半、台所、勝手口だ。玄関は使えないから、出入りは専ら勝手口からだ。左手は六畳の居間、食事はここで摂っている。俺のデスクトップパソコンと嫁のノートパソコンは四畳半の部屋に置いている。俺はナフコで買ったパソコン専用台で、嫁は嫁入り家具のテーブルで、二人並んでやっている。

「腹減ったでぇ」と俺の第一声。

 嫁は目を丸くして、「起きたん!もう心配したよ。息はしとったけど全然動かんけん」

 嫁は現金だ。心配する必用がなくなったら、いつもの皮肉でちくりと俺を刺す。

「今日は休みやけん車でナフコに連れて行って貰おうって思ってたんに」

「心配で高松のお母さんに電話したよ。明日になっても起きんやったら119番に電話しなさいって」

 嫁は居間でゲームに熱中しているらしい息子を大声で呼んだ。

「康ちゃんお父さんが起きて来たよ」

 四畳半に出て来た息子は、「父ちゃん寝過ぎばい」

 俺は意味深ににたっと笑うと、「ち~と夢の世界ば楽しみよったんじゃ」

 息子はきょとんとして、「夢…?」

「あ、そいから父ちゃん、携帯が鳴りよったけん二階に持って上がったんやけどいくら揺さぶっても起きんけん枕元に置いとったばい」

「何か、ちゃんが持って来たんか」

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