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夢界の創造主  作者: クスクリ
37/95

37話 携帯録画

 楽しい時間はあっという間に終わってしまったが、来たいと思えばまたいつでも来れる。俺のブログがバーチャル上にある限りは。だが、A界に戻った俺の時間とB界の時間の流れは違う。一気にB界の十数年後、数十年後に飛ぶこともできるが、なるべく計画的にB界のみんなの成長を見守れる形で行きたい。それと俺の自制心だ。これほど強大な力を持つと驕ってしまうことが無いとは言い切れない。客観的に俺を導いてくれるのは美穂ちゃんだけだ。彼女だけは失わないようにしなければ。


 鳥巣高校を去る俺と美穂ちゃんをみんなが見送ってくれる。陽が傾いても相変わらずの蒸し暑さだ。クマゼミの鳴き声は疎らになった。第二グランドで練習に汗を流していた部活の生徒も見えなくなる。

 校門に向かう陸上部一年生の小柄な女生徒が、「成沢先輩!」と瞳にハートマーク付の黄色い声を掛けてくる。里絵子が敏感に反応する。成沢はそんな里絵子を勿論、承知だ。

 振り向いて、「おう柴田」

 彼女は怪訝な顔で、五人組お揃いで何かあったんですか?」

「湯村の知り合いのおじさんが学校に訪ねて来られたんや。校長先生の先輩でもあるんやでぇ」

「そうなんですか」

「で、成沢先輩、明日も私たちの練習見て頂けるんですか?」

「時間があったらな」

「期待してますから」

「おう」と成沢。

 彼女は、「じゃぁ校長先生、赤坂さん、成沢先輩、井本先輩、真知子先輩、里絵子先輩、佐和子先輩、お疲れ様です」と頭を下げた。

「ああ気をつけて帰れよ」と成沢。

 里絵子が横目でわざとらしく、「成沢君かわいい子やね。鼻の下伸びてるよ」

 成沢は頭を掻きながら、「そんなんじゃねぇって」

 様子を観察していた美穂ちゃんが五人組って下級生の憧れなんやね。気を使ってみんなの名前挙げたよ。それに真知子ちゃんたちは下の名前で呼んでた」

 お調子者の里絵子が、「私は一・二年生の憧れ、里絵子先輩なるぞぉ!」

 佐和子が、「里絵子良かったねぇ、五人組に入れて」とからかう。里絵子は腕で涙を拭く仕草で、「そうなん。ありがとう佐和子。私を五人組に入れてくれて。でないと何の取り柄もない私なんかの名前覚えてくんないよぉ」にみんな大笑い。


「みんな記念に写真撮らせてくれや」と俺はポケットから携帯を取り出す。

 真知子が不思議な顔で、「おじさんもしかしてそれカメラ?」

「普通の人間じゃねぇ証明の、世界で俺しか持たない逸品や」

 佐和子が、「おじさんそれちょっと見せて」

 みんなが佐和子の周りに集まる。チンパンジーが初めて手にするものに興味を示して弄り捲る如く、開いたり閉じたり釦を押したり、それぞれ触り捲る。

「ちょっと貸してん」と俺がデータボックスから画像を取り出して見せると、一同目を見張った。

 井本が、「写真ってフィルムでしょ。なんでこんな風に撮ったもの保存していつでも見れるんですか?」

「すまんな。説明すると長くなる上に俺の秘密にも関わってくるんじゃ。ここは黙ってこげなものを俺が持っとるちいう事実だけ把握しとってくれや」

「ほんなら撮るぜ」

 みんな納得いかない顔ながらも従ってくれる。真知子、佐和子、里絵子、成沢、井本、美穂ちゃん、堺校長、赤坂さんの集合写真を撮って、今度は俺と堺校長が入れ替わる。

 堺校長は、「達己さん何とも不思議なカメラですね」と首を傾げながら俺に携帯を返す。

「よっしゃー、今度は一人づつ頼むぜ」

「まずは真知子!」

「はいおじさん」と真知子が前に進み出る。 

 モニターを通して見る真知子も生と全く遜色なくかわいい。普段の顔も、怒った顔も、笑顔も、泣き顔も、性格も。その上、現役で東大に入れる秀才ときては、井本は超のつく幸せ者だ。大事にしないと罰を当てたくなる。それにしても二枚目は得だ。高校時代の俺では井本の足元にも及ばない。現代のA界で一世を風靡しているAKB48でも裸足で逃げ出すアイドル性を真知子は持っている。普通かわいいと評されてもそれは評価する側の個人差・時代差があるだろうが、真知子には関係ない。間違いなく最高の国民的アイドルになれる逸材だ。

 全員取り終わったあと、写りを披露した。里絵子が頬を膨らませて、「するい!おじさんどうして真知だけ三枚もあるん?」

「里絵子僻まんの。今日おじさんは真知に会いに来たの。いうなれば私たちはオマケなんやから。真知のお陰で美味しい特上握りも食べられたやろ」と嗜める佐和子に、「それはそうやけど…」

「里絵ちゃん今度は25日にみんなに会いに来る。そんときは主役や」


 俺は携帯を動画モードにして、「最後にいつものように仲間同士で和気藹々のところ見せてくれ」と携帯を手にみんなの周りをぐるぐる回る。

 真知子が、「おじさん何してんの?」

 俺は構わず真知子に近付いたり離れたりする。

「もうおじさんったら」と真知子は膨れっ面。

「まぁええけ。あとで教えたる」

 俺はヤマダ電器で二時間録画のマイクロSDカードを手に入れていた。話に夢中になり過ぎて教室での様子を録画し忘れていた。

 井本が、「おじさんのMRのエンジン見せて下さい」

「ああええでぇ」とは言ったものの、俺もまだエンジンを見てはいない。口から出任せ言うたら俺の無意識の力が何とかしてくれるだろうよ。でも、A界に戻ったらこの車とも暫くお別れだ。中を覗き込む井本と成沢。女の子たちも寄ってくる。俺は様子を録画し続ける。

 佐和子が、「男の子って超が付くほど車が好きだよね」と呆れる。

 真知子も、「私たちとは生態が違うから理解し難いよ」

「成、このエンジンルームピッカピカやで。ハイテンションコード、CDI、ウェーバーツインキャブ、シリンダーヘットなんかカラフルやし、ほんと高性能エンジンちゅう雰囲気有り有りや。速いやろうな。乗ってみてぇな」

 真知子が、「井本君見ただけで分かんの?」

 井本は、「ご免」と舌を出す。

「おじさんにエンジン見せてっち言うた手前、わざとらしい薀蓄でも語らんととは思うたもんの見た目の印象しか言えんやった。中身は全く分からん」

「井本君分からんで当たり前や。まだ高校生やけんな。毎食インスタントラーメン啜っててめぇで大金注ぎ込んで弄ってみな価値感は備わらんもんや。自称大金持ちの俺の作品の詳細教えてやるよ。俺は達己ほど腕がねぇけA73ランサーたぁ金掛けた分の性能で勝負や」


「井本君、このエンジンのベースは4G32DOHC1600CCエンジンや。達己のエンジンはOHCでC-2フルキットで組み上げて推定170馬力や。ほいでも俺の車は金の掛け方が違うでぇ。エンジン、足回りは全部ワンオフの特注品や。車重はFRPで強度を保ったまま極限まで軽くしとるでぇ。オーバーサイズピストンとストロークアップで排気量400CCアップの2000CCや。こんままでワークスチーム組んでレースに出れるでよ。推定250馬力や。ちなみに俺が最後に乗っとった零戦五二型のエンジン栄21型は1130馬力じゃ」

 井本が、「ワンオフって何ですか?」

「通常市販車は何万台単位でどんどん造ろうが。やけん100万円くらいで買えるんやが、これが一台しか造らんで部品の一品一品の精度ば上げてバランスば取って作って売ったらその価格は途轍もないで。WRCのグループBでもホモロゲ取るために200台は生産するんや」

 …この時代にゃまだグループBはなかったか。まぁええか…

「凄ぇです」と井本が感心する。

 15分ほど録画して止めた。

「ほら見てみぃや」と俺はみんなに披露する。

「凄い!凄い!」

「ちゃんとビデオが撮れてる」

「こんなことできるん8ミリカメラしかないって思ってたのにぃ」

「いろいろ訊きたいこつがあるたぁ思うばってん、さっきも言うたごつ、こげなもんを俺が持っとるっちゅう事実だけ把握して言い触らさんでみんなの胸にだけ仕舞うとってくれや。いづれ謎解きしたるけん」

「ええや?」

「おじさん分かったよ」

「あっそいから赤坂さん、また連絡するけん楽しみに待っとってね」

「はい大悟さん」と彼女は俺に明るく微笑んでくれる。

 俺の予想ではB界には携帯だけは持ち込めるようだ。そうでなければ俺がB界に行ったという証拠が残らない。あとはA界に戻ったとき、ちゃんと画像が残って動画が再生できるかだ。できなかったら非常にリアルな夢だったと諦めるしかなない。

 もしちゃんと真知子の画像が残っていれば元気百倍、携帯を開きさえすれば真知子に会える。北展がどんなに辛くても勇気が貰える。

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