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夢界の創造主  作者: クスクリ
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34話 美千子

 真知子が怪訝な顔で、「おじさんごめんなさい。ずっと思ってたことなんやけど…」

「何や真知子。ええで言うても」

 真知子は言い難そうに、「おじさんその頃佐世保には居なかったよね。失礼な質問なんやけど、おじさんの話し方、誰かに聞いたことやなくてその場に居たみたいなんやけど…、まさか作り話じゃないよね」

 佐和子も、「私も不思議に思っとった」

 美穂ちゃんを除いてみんな真知子に同調する表情だ。

 俺は、「そう思うんは当然や。ばって俺が普通の人間じゃねぇっちことはみんな感じ取ってくれとるよな」

 真知子が、「今までのおじさんの確信に満ちた話し方から、おじさんの不思議な力は信じざるを得ないけど…」

「真知子、そいにみんなすまん。訳あって俺の秘密は美穂ちゃんしか知らねぇんじゃ」

 美穂ちゃんが引き継ぐ。

「私からも…みんなごめんね。おじさんの秘密は私しか知りえないの。やから部外者の私が一緒に居るん。私は確かにおじさんの姪なんだけど、年頃の女子が出身校でもないのにのこのこ付いて来ておかしいって思っとったやろ?」

 美穂ちゃんの問い掛けに五人とも頷く。

「おじさんの話はみんな本当だよ。違和感はあると思うけど信じて聞いてあげて。おじさんがその場に居たと思って」


 真知子は美穂ちゃんに微笑んで、「分かったよ美穂ちゃん。じゃぁおじさんお母さんの話聞かせて下さい」

「ああ聞かせたる。こんとき達己は二十歳、美千子は17歳や」

 真知子は自分を指差して、「17歳って私と同い年!」

「俺が今日会いたかったんも正真正銘17歳の真知子や。髪型服装は違うても美千子と生き写しやでぇ」と俺は思いが昂じてちょっと目を潤ませる。

「達己はフェミニストではあったけどドライや。確かに美千子のかわいさにはびっくりしたごたるが、どうこうなりたいとかは全く思わんやった。こん頃の達己は喧嘩以外での面倒臭いことは避けとった。やけん組織関係の女の所に入り浸っとったばって心は決して移さんやったちゃ。言わずもがな堅気の女に手ぇ出そうたぁ全く考えんやった」

「達己は美千子ば山崎に任せてさっさと消えちまった」

「真知子は美千子んことばどんくらい知っとん?」

「おじいちゃんは戦争中下士官で硫黄島で戦死したこと。おばあちゃんは佐世保空襲で亡くなったこと。お母さんには身寄りがなくて、お父さんと知り合うまで教会の施設に居たことくらい」

「真知子には美千子の記憶あるん?」

「お母さんが亡くなったとき私はまだ3歳で、康ちゃんが産まれる半年前から入院してたっていうから、記憶ってほどのものはなくて微かな面影って感じかな」と真知子は睫毛を伏せた。

「足らない部分はアルバムで補ってるん。写真のお母さん幸せそうに笑ってる、それだけで私胸が安らぐよ。お父さん物臭だから断片的な事しか教えてくれないん。ねぇおじさんお母さんってどんな女の子だったん?」

 真知子の瞳が真っ直ぐ俺を捉える。

 俺は微笑んで、「美千子はどんなときも笑顔を絶やさない情熱的な女の子やった。教会の孤児院で戦災孤児の面倒ば健気によう見よったでぇ。何ちゅうたっちゃ人生ば投げたごたる生き方ばしとった達己に希望ば与えて好きにさせたんやけんな、凄ぇぜ」


 達己の気持ちを自分に向けさせる参考にしたいとでも思ったのか、今度は佐和子が俺に訊いてきた。

「真知のお母さんってどんな風にして達己おじさんを好きにさせたん?」

「そん前にお佐和から見た真知子ってどんな女の子なん?」

「えっ私のこと」と真知子。

「真知って…真知って…めっちゃかわいいのに憎たらしいほど頭が良い」

「もう佐和子ぉ」

 真知子が冗談っぽく膨れる。

「冗談冗談」と佐和子が笑う。

「おじさん」と佐和子。

「真知はどんなことがあっても私の一生の大親友だから」

「お佐和、どんなことがあってもって具体的に言うてん?」

 俺の意地悪な質問に、「恋敵!」と言って笑う。

 間髪入れず、「私が先に引くもん」と真知子。

 井本が試しに、「焼肉パーティーのときお佐和が一人で帰って俺が追い掛けて行ったじゃん。あんとき俺がちゃんとお佐和送れんやったら湯村は俺ば捨てたん?」

 真知子は躊躇いながらもこっくりと頷く。

「酷ぇ!」と笑う井本。

「ありがとう真知」と佐和子。

「おじさん、質問の答え」

「真知は混じりっ気なしの純な心の持ち主。困った級友が居たら助けないではいられない。良い意味一図、悪い意味頑固。こうと思ったらどんな障害があろうと一歩も引かない。でも感動し易くて泣き虫」

 真知子が口を尖らせて、「泣き虫じゃないよぉ」

「康ちゃんのことになったらすぐ泣くじゃん」と真知子を横目で見る。

 真知子は俯いて、「う~ん…否定できない」

「ほ~ら」と佐和子はしたり顔で髪をかきあげる。

「お佐和分かったわ。母娘やけんやっぱり性格は似るよな。美千子は初対面の達己を自分の運命の男やと見初めちまった。そいから初中達己を訪ねてキャバレーにやって来たぜ。薄汚れた暗い悪の巣窟にお下げ姿の可憐な乙女が一人の図やでぇ。17歳の女の子が近付くにゃ危な過ぎる所でんこうと決めたら何の躊躇もなしや。海千山千の屈強な手下どもを顎で動かす達己としちゃ、堅気の子に好かれました、はい分かりましたっちゅう訳にゃ行かねぇよな。奴にも面子っちゅうもんがあるけな。そいに美千子のごたる清純な子を自分に関わることで汚したくなかったんじゃ。一回目は、キャバレーの入り口付近をうろうろする美千子ば偶然山崎が見つけて達己に引き合わせた。このときはわざわざ訪ねて来てくれてありがとうぐらいにあしらって、俺より良い男が現れるさってなことで言い聞かせて帰らせたんやが美千子は頑固やでぇ。奥に秘めた芯の強さっちゅうか、私には達己さんしかいません絶対諦めません必ず振り向かせてみせますち捨て台詞吐いたわ。これにゃ達己も呆気にとられたごたるな」

 佐和子が感動する。

「真知のお母さん全く真知そのものだぁ」

「でも今の私が一人でこの前の高良山みたいなところに行く勇気あるかな。おじさんには真知のお母さんのとった行動教えてやなんて簡単に言ったけど…」と項垂れる。

「佐和子、時代が違うて。美千子は戦争経験しとんやけん」

 真知子も、「佐和子は佐和子」

「有言実行。美千子は諦めんやった。会わんやったら諦めるやろうち達己は姿ば眩ましたわ。店の女は入り口付近で捨てられた子犬のごつ佇んで達己ば待つ美千子に露骨に嫌がらせやりよったわ」

 里絵子が、「真知のお母さんかわいそう」と目を瞬かせる。


「美千子は全然めげねぇ。どげん奇異な目で見られたっちゃ、達己に対する気持ちは折れんやったでぇ。その一途な恋心が見兼ねた達己の一の子分の山崎の気持ちば動かしたんや。こいつも地元じゃ狂犬ち恐れられた奴や。確か歳は達己より上やったんやなかったかいな。タイマンで達己にぼこぼこにされよった。そいから達己命や」

「達己としても美千子と懇ろになるなら相当の覚悟がいったろうや。組織の重要なポストは全部仲間に渡して身軽と思われがちの達己やがまだ組織が達己離れしとらんやったちゃ。半島人の反抗も予想できたばってん山崎が命掛けで組織ば守るち達己ば説得したんや。他の仲間も達己ば暖かく送り出した。通常、任侠界でトップが全てを捨てて抜けるちゃ考えられねぇ。これが下の構成員なら腕の一本も組織に差し出さにゃ抜けられんめぇや。さもなければ組織の目を掻い潜っての逃避行や。組織は仲良しグループじゃねぇけな。固い結束と絆、規律があるけん命がけで組織ば外敵から守っていけるんや。まぁ中には達己が居らんごとなって目の上のたんこぶが取れたちほくそ笑んどる奴も居ろうがよ」

「美千子の持つ純な心が世捨て人のごたる任侠道に生きとった達己の頑なな心ば溶かして真っ当な人生に戻したんや。ほいで一念発起。国鉄に入って真知子が産まれたっちゅうことや」

「こいで終わりじゃ。そろそろ時間が迫ってきたけのぉ」

「すまん真知子、終わりの方は駆け足になっちまった」

 真知子は首を振って、「う~ん、おじさんありがとう。お母さんのイメージ膨らんだよ。アルバム見るんがまた楽しみになっちゃった」

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