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夢界の創造主  作者: クスクリ
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32話 フェミニスト

「戦後アメ公が進駐して来たんも九州じゃ佐世保が最大規模や。何ちゅうても帝国海軍の軍港やったけんな。そいにデカい造船所もあったけん戦時中は空襲も酷うて一面焼け野原や。焼け跡の所有者が分からんごとなった土地に勝手にバラックがどんどん建っていって、配給以外の違法な流通ルートの品物ば扱うて法外な値段で売り捌いた。通称・闇市や。進駐軍の基地の周りにゃ金持っとるアメ公目当ての店が立ち並んでパンパンが溢れとったでぇ」

 真知子が、「パンパンってなぁに?」

「娼婦の事や。アメ公との間に多くの子供が生まれた。日本人の子供たちから合いの子ってバカにされよったな」

 里絵子が、「今はハーフって言われて格好良いよね。ゴールデンハープってグループも居るし今テレビ番組に引っ張りだこだよ」

 佐和子も、「男性のハーフって長身で二枚目だよね。モード雑誌にはハーフモデル多いよ」

「まぁ時代が変われば価値観も変わるっていうことよ」と俺。

「そいで炭鉱内じゃ達己ばリーダーに同世代の者が集まり出した。こげな田舎に居ってもしょうがねぇっちゅうことでみんなで根城ば佐世保に移すことにしたんや。達己が18のときかいな」

 真知子が、「アメ公ってアメリカ兵の蔑称でしょ。おじさんの年代ってそんなにアメリカが憎かったん?」

「戦争に負けた腹いせもあるんやが単なる負け犬の遠吠えや。そいにアメリカ兵が日本兵ばジャップち呼ぶお返しや」

「でも軍国日本がアメリカに負けたお蔭で日本でも民主主義が根付いたし戦後復興もできたんだよね」と真知子。

 佐和子も、「アジアで酷いことしてきた私たち日本人だけがこうして男女共学で楽しく平和に学園生活送れるんも、アメリカのお蔭だよ」

 ちょっとカチンときたがそこは堪えて、「ああ重々承知じゃ。ほいでも俺も達己も頭では分かっとるばって天邪鬼的思考っちいうか日本人としての本能が受け入れば拒否するんや」

 俺は戦前戦中の歴史の真実を、戦後生れの日本人が戦勝国アメリカとその手先の中韓工作員のマスゴミに、共産党の息の掛かった日教組に、放送・教育の下、小学・中学・高校の12年間ずっと洗脳され続け、自虐史観に陥っていることを一気にぶちまけたろうと思ったが止めた。

 A界のネット社会に生きている俺は、溢れる情報を取捨選択しながら取り込むことができた。だが、戦後まだ27年、重要な情報が遮断されたこのB界に生きる者たちに不用意に下手な知識を与えたらパニくってしまう恐れがある。鰯の頭も信心から。彼らが今幸せなら暫くはそれで良い。

 黙って聞いていた美穂ちゃんが一言、「おじさんと私たちとでは世代のギャップが有り過ぎるから仕方ないよ。分かってあげなきゃ」

「そうだよね」と女の子四人に同情の目を向けられて、「はいはい分かりましたよ。どうせ俺は戦前生まれの50過ぎの古臭いオヤジですよ」

 俺の不貞腐れ方に真知子の笑いが止まらない。下を向いて笑いを噛み殺そうとする仕草がどうしようもなくかわいい。やっと収まって顔を上げた真知子が、「じゃぁおじさん続きお願いします」と俺ににこっと微笑む。

 俺はふ〜っと天井に煙を吐き出して、「ああ続けるわ」


「闇市・飲み屋街・色街ば仕切っとったんは地回りのヤクザと半島人や。店のみかじめ料にシャバ代の取り立て。そいに娼婦たちの上前跳ねる奴らや。ばって達己たちが現れてから勢力図が一変した。奴らは若いけ限度・加減っちゅうもんば知らねぇ。虱ば潰すごと片っ端から壊滅させていった。現場に居った者が暴れるときの達己は薄ら笑いば浮かべとったち俺に言よったな。まさに血に飢えた野獣や。喧嘩達っちゅう名が一躍近隣に鳴り響いたでぇ」

「炭鉱を辞めたお父さんって喧嘩が仕事だったん?」と真知子が惚ける。

 俺はパンと手を叩いて、「あっ確かに達己の仕事は喧嘩じゃ。そいで飯食っとったけんな」

 佐和子が井本の方を向いて二ッと笑うと、「日出夫、喧嘩が仕事って羨ましくない?腹一杯喧嘩できるよ」

「お佐和、馬鹿言え。俺は達己おじさんほどの喧嘩の腕も度胸もねぇよ。刃物持った相手やで。喧嘩のレベルが違うで。命がいくつあっても足りねぇ」

「おお怖!」

 井本は両手で身体を抱き込んで震えてみせる。


「ばってその内組織的に抵抗するもんが居らんごとなってしもうた。ゲリラ的に襲ってくる半島人は除いてな。達己の組織もデカくなって奴は暇ば持て余すごとなった。潰した組の資金源から金は潤沢に達己たちに流れ込んできたけん遊んで暮らすにゃ十分やったばって、達己は金には全く執着せんやった。代表になってくれっちゅう要請も断わって仲間に権益全部渡しちまった。そいでも仲間内のごたごたは達己が締めんと収まらんやったけフィクサー的立場だけ保って女の部屋にしけこんで遊び人稼業や。気の向いたときにゃ組織の息の掛かったキャバレーで飲むついでに用心棒やってやりよった。この頃の達己はまだ若干二十歳や。そいつが太ぇ顔して裏社会の顔役の中に居座っとんぜ。想像できるか、この有り得ねぇ絵図…」

 井本が頭の中で達己のイメージを追う。

 佐和子が訊き難そうに、「ねぇおじさん、達己おじさん女の人の家に入り浸りだったって言ってたけど真知のお母さんと知り合う前の女性関係って乱れてたの?」

『お佐和にとって一番気になるところやろう。良い表情しとるぜ。恋する女子高生お佐和か。自分で作ったキャラクターながらかわい過ぎるぜ。顔立ちは当時の芸能人で例えたら石川ひとみ似やな。身長は165くらいか。達己の野郎、お佐和の胸がデケ〜デケ〜ち嬉しそうにからかいよったごたるが、どんくらいかって会うんば楽しみにしとったばってん、俺のソープ経験から言うたらウエスト56でバストはEカップか。ウエストとバストはまさに黄金比やな。オーバーじゃのうて乳がエベレストのごつそそり立っとるぜ。バストが薄ぃ夏服の生地ば目一杯押し上げとるせいで短い丈が益々短うなってスカートとの隙間が開き過ぎとるわ。俺のごたるオヤジにはほんと目の毒やで。くそっ達己、今年は40のくせしてお佐和に告られた上に現役女子大生の美千子ちゃんにも慕われとる。なんて幸せな野郎や。いっぺん痛い目合わせたらんと気が済まねぇ。真知子は見たところCカップやな。ヒロインは真知子ばってんバストじゃ完璧にお佐和に負けとるわ』

 俺は意味無くにやにやしていた。

 お佐和が怪訝な顔で、「おじさんどうかしたん?」

「おっとすまん。ちょっと考えごとしとったわ」

「あの野郎無茶苦茶女にモテやがるんや」と俺は忌々しそうに吐き捨てた。

 佐和子が、「当然でしょ」とほくそ笑む。

「くそっ、腹立つなその言い方」

「だって達己おじさん以上に魅力的な男性に私お目に掛かったことないもん。対抗しようとか思っても無駄だよ」

「けっそれは俺のことか。お佐和の言うことに反駁しょうとは思わんけどよ、俺も同じ男やし思うところはあらぁよ。まぁ達己は弟のようなもんやし俺に頭が上がらんっちゅうことで溜飲下げるしなねぇか」


「お佐和安心せぇや。達己は若かったし喧嘩にしか興味なかったけん特定の女ば好きになることはなかった。言い換えればそんだけ魅力のある女が居らんやったっちゅうことか。ばって女の方が許さんやったな。達己の取り合いよ」

 佐和子が繰り返す。

「取り合い…?」

「あぁ、キャバレーの踊り子に女給、果ては娼婦まで。達己は超然としたフェミニストや。男には畏れられるばってん女には優しいんじゃ。そのギャップが女心ば擽られるんやろうな。やけん勘違いした女同士が達己の取り合いになって諍い・喧嘩にまで発展した。そいが店の営業にも支障ば来すごとなったもんで頼まれて期間ば決めて女の家に居候してやるごとなったんや。今やったら有り得ねぇことなんやけど、当時はまだ戦後のどさくさやったもんで達己のごたる強ぇ色男がもてたんやろうよ。女は達己に尽くすことで喜び感じてやがったでぇ。つくづく羨ましい奴や」

「お父さんの性格って井本君に似てんの」

 真知子がぼそっと呟く。

「俺が達己おじさんに。冗談やろ。俺なんか全然モテねぇよ」

 佐和子が疑わしそうに、「日出夫君ご謙遜を」

「ほら井本君初めてのデートんとき言ったじゃん。男には恐れられたいけど女の子には優しくありたいって」と真知子。

 井本は頭を掻きながら、「確かに言うた」

 成沢が指笛を鳴らしながら冷やかす。

「ヒュ〜ヒュ〜、フェミニスト井本ぉ」

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