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夢界の創造主  作者: クスクリ
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30話 未来を変える力

 俺は閃くと同時にパンと手を打った。みんなが一瞬びくっとする。

「里絵ちゃん」

 俺は呼び掛けた。

「今真知子に言うた仙人様でも何でもないのにという言葉、実は俺は仙人様の友達なんじゃ」

 …仙人様の友達って無理があるよ。この世界の人間にはそんな冗談通用せんってこと、おじさん分かってないよ。でも、実は仙人様のご主人やなんて、これだけはみんなにカミングアウトできんよね。おじさんのヒロイン、真知子ちゃんにも。知ってんのは私だけ。何にも勝る優越感…

 美穂ちゃんは内心ほくそ笑む。


「おじさん冗談にも程があるよ」と里絵子が真剣に怒る。輪を掛けて、「言っていい冗談と忌避すべき冗談があるんだよおじさん」と真知子も目を怒らせた。

 …ヤバい!ちょっと試しに言うてみたが、爺さんに関する冗談はタブーやな…

「調子に乗って要らんこと言うてもうた。みんなごめん」と一応謝ったあと、俺は真顔になる。

「みんなに公言する。俺の能力は単純な予言だけじゃねぇ。ここに集うみんなば幸せにできる力じゃ。信じる信じんはみんなの自由や。ほいでも信じるに足る事例と証拠ば示すわ。俺は今日小倉から来たち言うたばってん真っ赤な嘘や。実はこの世界の人間が入り込めん遠くからやって来たんじゃ。美千子の忘れ形見、信じられない美少女、そいも誰からも好かれ聖母のような心を持った真知子に会うためにな。勿論、真知子を囲むみんなにも会えたらええなち思とったら希望が叶って無茶気分がええわ」

 真知子は俺の美辞麗句に頬を赤く染め上げながらも、「この世界?わざわざ私に会うために人間が入り込めない遠くから?」

「俺の言う事、荒唐無稽過ぎてみんな理解できんたぁ思うが暫く黙って聞いてくれや」


 俺は続ける。

「実を言うと、さっきボーリング場で美代ちゃんと話して、どうしても康太と一緒に鳥巣高に通いたいっちいう美代ちゃんの願いが切なくて叶えてやることにした」

 みんな怪訝な顔で俺の言葉を繰り返す。

「叶えてやることにした…?!」

 真知子が、「おじさんにそんなこと出来んの?」

 俺はさも当然の如く、「ぁあ出来る」

「口から出任せち思われんごと美代ちゃんに証拠ば与えた。そいが明日の第55回夏の甲子園四試合の完璧な試合結果や」

 俺はにやっと笑って、「成沢君井本君、野球賭博したら大金儲かるぞ」

 二人は滅相もないという顔で、「そんなこと出来ませんよ。だいいち元手がありませんき」

「そうか勿体ねぇな」

「真知子、今から言う仙人様のみぞ知る結果ばしっかり書き留めろよ。そしてそいが100%見事的中したら俺がみんなに約束したことが完璧に叶うっちゅう証拠になるけな」

「第一試合の盛岡第三高校対八代東高校は延長11回1対0、第二試合の広島商業対双葉高校は12対0、第三試合の日田林工対糸魚川商工は1対0、第四試合の丸子実業対簑島高校は9対4じゃ。止めに第四試合の経過も付け足しとく。1回表、丸子実業1点先取、2回3回両校無得点、4回裏簑島1点返して同点、5回表丸子実業4点入れて5対1、6回表丸子実業4点入れて9対1、6回裏簑島1点返して9対2、7回両校無得点、8回裏簑島2点返して9対4、9回両校無得点で丸子実業の勝ちや。どうや完璧やろ。全試合の勝敗も完璧に分かるが明日の結果だけで十分やろうや。こいは美代ちゃんにも伝えとる」

「うっそ~!」

 真知子に刷り込んだいい加減な記憶から、みんな俺に未来を予言する力があるとは知っていたが、まるで結果を見て来たかのような詳細なデータに驚きを隠しきれない。


 里絵子が恐る恐る口を開く。

「私今鳥肌立ってる。これが当たったらさっき言ってた仙人様の友達っていうおじさんの冗談信じざるを得ないよ。私の望み叶えるくらいお安い御用って感じみたい。私たち凄い人と話しとんやね」

 佐和子が、「おじさんは本当に私たちを幸せにしてくれそう」

 真知子は書き留めた大学ノートに視線を落したまま、「これが的中したら本当に里絵子の願いが叶うんやね」

 俺は念を押す。

「ただこれだけは守って欲しいんじゃ。俺はここに居る五人に幸せを運ぶ。達己たちにはこの力、教えてねぇ。誰にも言わんでくれや。ほいで今回は1人につき1つだけ願い叶えたる。みんなが調子に乗って何でも叶う、取り返しがつくち勘違いしたら人生失敗しちまうけんな。分不相応な願いも聞かんぞ。そいと今日みんなと別れたら一切俺とは連絡つかん。甘い考えはせんで欲しい」

 五人はそれぞれ頷いて、「おじさん分かったよ。人生は自分で切り開けってことやね」と佐和子。

「そうや」と俺は微笑む。


「ほんじゃ里絵ちゃんから聞いたるか」

「私は西南の英文科に行きたい」

「分かった叶えたる。はって里絵ちゃんには条件付けないかんな」

 里絵子は、「えっ私だけ」と膨れっ面になる。

「そう、里絵ちゃんだけ」

「お調子者の里絵ちゃんのことやけ、安心して全然受験勉強せんやった、単位取りきらんで進級できんで自信喪失してまう。里絵ちゃんのことは真知子に委ねるわ。さっき私が保証するち言うてくれたけんな。真知子に里絵ちゃんの学力ば試せとは言わん。真知子が見て里絵ちゃんがちゃんと受験勉強頑張っとるち認めたら合格や」

 真知子は里絵子に微笑み掛けて、「里絵子い~い?覚悟してよ」

 里絵子は小学生のように手を挙げて、「は~い分かりました。真知先生」

「やっぱり里絵子はお調子者だぁ」

 みんなが笑う。


「さ~てお佐和はどうや?」

「私は西南の英専に行きたい」

 美穂ちゃんが、「へぇ、佐和子ちゃんの志望は英専なん。私は北九大の英語学科なんよ」

「えっ美穂ちゃん英語学科なんや、奇遇」と佐和子。

「でもね」と美穂ちゃん。

「私、第一志望西南の英専だったんやけど落ちちゃった」と舌を出す。

「北九大は公立やけど外国語学部は三科目受験で英語が200点満点なん。英語に救われた感じ」

 俺が、「お佐和だったら頑張ればICUも狙えるし俺が希望叶えたるぞ」と鎌を掛けると、「おじさんがさっき言ったように私は身の丈に合った幸せでいいん。西南は外国人講師も多いし交換留学制度を利用して生きた英語を身に付けるんだ」

 俺は拍手で、「さすがお佐和、気が強ぇだけやのうて考えもしっかりしとるわ。何も手助けせんでも俺の予知能力は西南大生の佐和子ば保証するわ」


 俺は意味有り気にニッと笑うと、「西南でいい理由はほんとにそんだけか?」

 佐和子はびくっと身を竦めると、「何?おじさん、そんだけだよ」

 俺は腕を組んで艶に机上に視線を落とす。「お佐和、隠さんでも俺にはお見通しや。達己から離れたくねぇんやろ?」

「う、うん」と佐和子は恋する女子高生の顔になってこっくりと頷いて、「達己おじさんに対する気持ちが変わんこと証明するためにも私は地元に居なくちゃなんないんだ」

「佐和子!」

 真知子が佐和子の切ない気持ちを察して声を掛ける。

 顔を上げた佐和子は、「達己おじさん私に言ってくれたん」

 佐和子は胸に仕舞った大切なものを引き出しから大事に取り出すように反芻し始めた。

「俺はお佐和が真知と同じくらい大事や。もしかしたら俺への気持ちは思春期の一時の気の迷いかもしんない。時間が掛かってもいい。お佐和には自分の気持ちとしっかり向き合って貰いたい。お佐和が淋しくて俺に会いたいって言うならいつでもランサー飛ばして迎えに行く。あんまり俺のことで思い悩むな。俺はお佐和から逃げやしない。やからお佐和の気持ちが固まるまで誰とも付き合わん」

 好きで好きで堪らない人が自分に与えてくれた大切な言葉を一字一句漏らすまいとする佐和子の気持ちが痛いほど伝わってくる。喋り終わった佐和子の目が赤くなっているのにみんなが気付く。恋する乙女の真剣で切ない心情がこんな枯れたオヤジの胸にも染み入った。達己に掛けて佐和子を茶化そうと思っていたが止めた。女の子四人の顰蹙買ってしまう。俺は一言、頑張れよと言うしかなかった。


 一呼吸おいて、俺は正面の真知子を見据えた。

「真知子の志望校は九大って言よったばってんみみっちぃ考えは捨てたがいいんやねぇか」

「何で?おじさん。九大は難関校だよ。私でも受かるかどうか分からんのに」

 俺は両手を広げて呆れたという素振りで、「まさか?ご謙遜を、真知子姫」

「おじさん真知子姫だって…おかしい」と里絵子がくすっと笑う。

 俺はずばっと、「真知子、東大行けや」

「私が東大に…?!」

「驚き方が満更でもねぇっち感じやな。勝算あるんやろ」

 佐和子も俺に賛同する。

「佐賀県一の秀才が九大じゃ役不足だよ」

「真知が家を離れたくないのは康ちゃんのせい?」

 図星を刺された真知子は、「佐和子には何でもお見通しかぁ」

「真知子、もう康太離れしてもええんやないか?美代ちゃんがべったり付いてくれとうけ何も心配ねぇぜ」

 佐和子も、「そうよ真知、おじさんの言う通りやん。康ちゃんと美代ちゃんは大丈夫。真知は真知でもう思った通りの道進んでもいいんじゃないん」


 俺は隣の井本に目を遣って、「井本君はさっき早稲田行くって宣言したばってん勝算あるんか?」

 自分の学力に不安のある井本はこう答えるしかなかった。

「受験勉強頑張って早稲田に行きます」と。

「真知子、遠距離は辛いでよぉ。さっき美穂ちゃんと話しよったばってん、美穂ちゃんの高校時代の彼氏東京行ってよ、遠距離失敗したって言よったけんな」

「真知子が東大行くなら井本君も早稲田受かるぜ。交換条件や、どうや?」

 ちょっと口籠った真知子だが、「自分の学力がどこまで通用するか試してみたい気はする」

「ほんなら何も問題ねぇやないか。俺は何もせん。真知子は秀才の正之の血ば引いとるけんな。挑戦してみぃや」

 井本は、真知子の肩に手を置いて一言、「湯村なら出来るぜ」と後押ししたあと、俺を見据える。

「おじさん俺も実力で早稲田行きます。例え今年落ちてもまた来年挑戦します。そうでないと湯村の彼氏としての資格がないです」

「そうくるやろうち思うたぜ。それくらいの気概がないと真知子ばずっと守ってやることは出来んわ。分かった。俺は井本君にも何もせん」


 俺らのやり取りを興味深く聞いていた里絵子がみんなを見回して、「だったらおじさんの力を借りるんは私だけぇ」

「何か悪い気がする」

 俺は笑いながら、「里絵ちゃんは正直やな。悪い気がするっていうより自分だけ俺の力ば借りて惨めやないかっていう気持ちの裏返しやろ。ばってさっきも言うたごつ、人生ば切り開くんは結局自分自身や。たかが人生の一コマの大学四年間くらい俺の力ば利用したっち後ろめたい気になる必要はないで。里絵ちゃんとしては五人の友情ば生涯大事にしてぇっちいうことやろう。それも立派な将来の目標や」

 里絵子は女子高生らしい屈託のない笑顔で、「うん」と頷く。

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