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夢界の創造主  作者: クスクリ
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3話 ヒッチハイカー

 今はモノレールが小倉駅に乗り入れて平和通りから国道322号線を志井まで走る。昭和48年は西鉄路面電車の全盛期だ。北九州市を貫いて門司から折尾まで、そして、小倉駅からは平和通りを経由して北方線が延びていた。

 俺のGTOは三萩野から電車通りを外れて国道3号線に入る。40年前といえど、さすがにこの辺りまで来ると小倉の中心地、ビルが多くなる。片側二車線の交差点には平和通りと3号線を跨いで大きな歩道橋。小倉の風物、丸源ビルも見える。平日というのに人が多く活気がある。現在とは大違いだ。それもそうだろう、今はあらゆる面で福岡市に後れを取っているが、この頃の北九州は日本の四大工業地帯の一つ、北九州工業地帯として教科書に堂々と載っていたのだから。

 車のフロントガラスが過去を映すモニターと化す。俺の視線の先は昭和48年のリアルな光景だ。通りの女に目が行く。女性のファッションは時代を映す鏡だ。今のファッションに比べればどん臭いのは否めないが、いい女は時代を問わず良い女だ。


 ふと…、ここはB界よな。

 遠い世界…、旅の恥は掻き捨て。俺はもっとリアルさを感じてみたくなった。B界の女と話してみたい。なら、ナンパしかない。やってみるだけタダだ。穴があったら入りたいほどの恥を掻きそうだったらその場で眠ってA界に戻れば良い。ここはまだ10キロ以内だ。俺のようなよれよれのおやじの口車に乗ってくる珍妙な女が果たして居るかどうか?

 片側二車線の国道3号線の走行車線をゆっくり流す。前方視界右側には北九州三大企業、TOTOの工場と社屋。その先の紫川に架かる木船橋の左手歩道に段ボールのプラカードを持った女の子、ヒッチハイクだ。


 ――私を話し相手に久留米まで連れて行って下さい――

 身長は150センチちょっと。髪はボーイッシュショート。黒いペイント柄のTシャツに所々破いて色落ちさせたジーンズ。デニム地の上着を腰に巻いたラフな恰好の女の子。背には赤いナップサック。

「あちゃ~、良い女!」

 引き寄せられるようにぐっと速度を落として近づく俺に彼女は満面の笑顔。彼女は停車したGTOの運転席に回り込んで来て、「ラッキー!おじさん私を乗せてくれるん?」

 俺は苦笑いで、「姉ちゃん、俺のようなおやじの車でええんか?姉ちゃんくらいのいい女やったらナンパ目当ての男共が押し合い圧し合いやねぇんか?」

 彼女は訝って、「良い女ってもしかして私のこと?」

「姉ちゃんに決まっとるやねぇか」

 彼女は嬉しそうににっこり微笑んで、「面と向かって言われたん初めて。おじさんありがとう」

 彼女は颯爽と助手席に乗り込んできた。


 車を発進させた俺に、「自己紹介します。私北九州大学外国語学部英語学科四回生野中美穂って言います。どうぞ宜しくお願いします」

 俺も応える。

「美穂ちゃんか、良い名前や」

「俺は湯村って言うんや。50超えちまったしがない三菱の新車のセールスマンや」

「がっくり!」と大袈裟に頭を垂れると、彼女はすかさずフォローしてくれる。

「おじさん」と快活に呼び掛けてくれて、「そう悲観することないよ。確かに見た目はおじさんやけどやってることが若いよぉ」

「この車三菱のギャランGTO・MRやろ。街中で滅多にお目に掛かれん車やん。今男の子の間で大人気なんやから。それにおじさんの車他と違って何か決まってるぅ」

 俺は得意気に、「美穂ちゃん詳しいな。ほうなん大人気なん」

「私もいつかこんな車乗りたくて、カタログいつも見てんだ」

 彼女はふふっと笑って、「実はね、こっちにやって来るこの車が見えて慌ててプラカード出したん。ヒッチハイク初めてで恥ずかしかったんやけど、GTOって分かったけん思い切って」

 俺は納得顔で、「そうか、俺ん車が最初やったんか」

「ほんで何でまたヒッチハイクしようっち思うたん?」

「青春の思い出に閃いたん。それと今流行りのスポーツ車にもしかしたら乗れるかなって」と彼女は舌を出す。 


 俺が車に乗り出したのは遅く、ランサーターボの年代からだ。GTO全盛期から10年も経っている。当時の評判なんか全然知らない。彼女の情報は正直嬉しい。

「私今バイク乗ってんの。中古で買ったんやけど、ホンダのCB250よ。バイク好きやけど車も好き。今夏休みやろ、バイトしながら教習所に通ってるよ」

「250っちゃ、当時は大型免許やねぇか。女の子にゃ珍しいな」

 彼女は怪訝な顔で、「当時…?」



「うん、友達によく言われるん。もっと女の子らしい趣味持ったらって」

「ほいで美穂ちゃん、教習所って試験場で実技受けなならんのやないん?」

「うんそうなん。だって実技免除の自動車学校って高いんやもん。やったら教習所行って車買うお金貯めたほうがいいよ」

「両親には頼らんの?」

「大学行かせて貰ってるし仕送りもして貰ってるからもう十分」

「美穂ちゃん偉いな」

「就職活動はどうなん?」

「私ね、教職取ったん。高校の英語の先生になるつもり」

「そうか、美穂ちゃんやったら生徒に慕われる型破りのいい先生になるやろうな」

「ありがとうおじさん」

「ねぇおじさん、プラカード見てくれたぁ?」 

 彼女は申し訳なさそうに訊いてくる。

「ああちゃんと見たで」

「で、おじさんは何処まで行くん?」

「鳥巣までや」

 俺はにやっと笑って、「美穂ちゃん心配御無用じゃ。途中で降ろしたりせんで。久留米まで行ったるぞ」

 彼女は手を叩いて喜ぶ。

「ありがとうおじさん」

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