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夢界の創造主  作者: クスクリ
25/95

25話 康太の場合

 美穂ちゃんがきょとんとして、「康ちゃんの…」

「あとからボーリング場に康太ば追い掛けてやってきた坪口と大塚、康太はもう完全にニ人ば飲んで掛かっとったばって、奴らは鳥巣でも札付きのワルや。集団暴行・傷害・虐め・万引き・恐喝・単車の無免許運転、何でも御座れや。教師なんかへとも思ってねぇ。奴らのグループは下級生も含めて数十人は居るわ」

 美穂ちゃんは直ぐに合点がいった。

「あの格好・顔付き・話し方見たら分かるよ。真面目な生徒は怖くて眼も合わせられんやろうね」

「でも康ちゃんってどんな子なん?あのニ人に一目置かれてた」と美穂ちゃんは目をぱちくりさせる。

「康太はニ年のときの転校以来、ずっと奴らにびっこのくせに生意気やと目付けられとった。そいで修学旅行んとき、大塚に因縁付けられて殴られた上に学校に戻ってからも坪口たちに袋叩きにされたんじゃ」

 美穂ちゃんは色をなして、「どうして?!康ちゃん何も彼らの気に障ることしてないんやろ」

「大塚に殴られたんは康太が青島の海岸に落ちとった空き缶ば偶然踏んでそん水の大塚のズボンに掛かったんが発端や」

「康太はすぐに謝ったんやが康太ば目の敵にしとった大塚はこれ幸いと引導渡したんや。お前学校に帰ってから楽しみにしとけちよ」

 俺はしれっと、「美穂ちゃん楽しみにしとけっち何か分かる?」

「一緒に万引きしようとかバイクに乗って遊ぼうとか?」と美穂ちゃんがぺろっと舌を出す。

 俺は手を叩いて、「おっ、美穂ちゃんに座布団一枚」

「康ちゃん茶化してごめんなさい」

 美穂ちゃんは康太が居るであろうボーリング場の方に手を合わせる。

「相手はつっぱりで康ちゃんは大人しい生徒、謝っただけじゃ済まないってこと?ズボンにちょっと水が掛かっただけで謝ってんのに帰ってから仕返し?理不尽、納得できんよ」

「つっぱりは沽券ば大事にするけんな」

「康太はそん頃やっとヌンチャクば使い熟せるごとなっとったんやけど気は弱いままやったんや」


 俺は美穂ちゃんに目を遣って、「康太の部屋で見たあのヌンチャクヤベェやろ?」

「まさか…あんな危ない物人に使ったん?」

「あぁそのまさかや。気が弱いっちいうんはいざっちゅうときにゃ武器になる。一度キレちまったら手がつかん。康太、大塚に殴られてとうとう面前でヌンチャク抜いちまった」

「美穂ちゃん、大塚の下顎に傷痕んあったやろ?」

「もろに不良っぽかったから喧嘩かなって。相手を怯えさせるには十分に箔が付いとった」

「箔ちゃぁ美穂ちゃん…」

 俺は笑いながら、「大塚も喧嘩だけが生き甲斐じゃあるめぇし女の子にも好かれたいやろうし好きで傷作る訳ねぇよ」

「そうよね、グレてる格好しとったけど年頃の男の子やから」

「元来気の弱ぇ康太のこつ、素面に戻っててめぇのやったこつば頭抱えて後悔したところで後の祭りや。転校生がキレて棒切れ振り回して人に大怪我させてよ、ただで済む筈ねぇ。坪口たち番長グループから狙われて学年の者にゃ総スカン食らって完全村八分や。ほいでも康太は俺と違って開き直りが早ぇ。どっちにせよほとんど学校じゃ口利かんやった康太は今更クラスメートに無視されたところでへでもねぇっちことよ。ただちょっかい出す奴だけは居らんやったな。ヤバい奴っちゅうんば証明したけな」


「美穂ちゃん中学は弁当やった?」

「うん」

「弁当一人で食べきる?」

「私には無理!」

「淋しいし耐えらんない。友達居ないことの証明やし」

「康太には友達は居らんやった。転校以来つい最近までずっと一人で食っとったで」

 美穂ちゃんは心から、「康ちゃんかわいそう」

「康太の開き直りはこうや。例え学校がどんなに居心地が悪かろうと除け者にされようと一日中学校に居る訳じゃねぇ。この鳥巣中にも永久に居る訳じゃねぇ。熊が穴倉に冬眠するごつ、学校てろ黙って机に着いとりゃ義務は果たせるっちね。こう考えられるんは真知子のお蔭や。康太にとっちゃ真知子の存在は精神的支柱や。母親みてぇに口煩ぇけど頭はキレるし容姿は芸能人以上、いつも大きな愛で包んでくれるけのぉ」

「未来社会で自殺した子達は精神的な支えになってくれる人が誰も居なかったんやね。その子の両親でさえも」

「親はゼネレーションギャップがあって子供の微妙な感情まで入り込めんし入って行こうちせんけんな」

「クラス編成のある小学校中学校高校は6・3・3のたった12年我慢すればいいじゃん。社会に出たら最長40年や」と俺。

「そうだよね。私も来年は社会人かぁ。学生時代なんてあっと言う間だったよ」

「あっという間やったってこつは美穂ちゃんは充実した楽しい学生生活やったっちことやな」

「未来の自殺した子供たちごめんなさい」と美穂ちゃんが真顔で頭を下げる。

「誰かが悪い訳じゃねぇ。時代の犠牲者なんや」


「ねぇおじさん、康ちゃんと美代ちゃんの馴れ初めは知ってんの?」

 俺はにやっと笑って、「恋愛の力って偉大やで。1人の彼女っていう味方が居ったら世界中敵に回したっちゃいいって思えるけんのぉ。ましてや学年400人敵に回ったくらいへのごたるもんやで」

「その言い方身につまされてるみたい」と美穂ちゃん。

「鋭いぜ美穂ちゃん。豊前屋で経理やらされとるとき嫌で嫌で堪らんで辞めるこつばっかり考えとったばって、彼女が居ったけん何とか踏み止まっておられた。ばって別れた途端何もかも嫌になって即行で逃げた。俺の場合彼女に入れ込み過ぎや。酒は飲んでも飲まれるな。要するに適度にっちゅうことやけど俺は彼女に完全に飲まれとった。ほんと情けねぇ。ばって康太は違うごたるな。さっきのニ人ば見とったら」

「確かにそうやね。もうニ人息ぴったりやったもん。運命の赤い糸が康ちゃんと美代ちゃんを結び付けたんだよ。ニ人が別れることなんて私には考えられんよ」

 俺は口の端を歪めて、「女の子って運命の赤い糸っちゅう言葉好きのごたるな」

「だってぇ…ロマンチックやない」と美穂ちゃんは虚空に視点を泳がせる。


「運命の赤い糸…ニ人を繋げる物…」

「やったらあのニ人の赤い糸はヌンチャクやな」

「どうして?あんな危険な物。気分が壊れるよぉ」と美穂ちゃんが唇を蛸のように突き出す。

「康太が青島でヌンチャク振り回したとき美代ちゃんも見とったんよ。そいまで美代ちゃん、康太の存在なんか眼中になかった。康太は美代ちゃん意識しとったごたるばってん。しゃぁねぇよな、クラスで存在感全くねぇんやけん。凶行で総スカン食らった康太やけどたった一人、美代ちゃんだけが康太ば見直したごたるんよ」

「馴れ初めがヌンチャク…」

 美穂ちゃんは美代子が大事に自分の手提げ袋に入れていたヌンチャクを思い返した。

「康太の手元にはヌンチャクねぇよ。美代ちゃんが管理して持っとる。やけん美代ちゃんが一緒に居らな何も始まらんのや」

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