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夢界の創造主  作者: クスクリ
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12話 康太と美代子

 その昔、鳥巣には二ヵ所のボーリング場があった。鳥巣工業高校前のボーリング場は結構後まで残ったが、鎗田町のこの建物はボーリングブームが終わってすぐ取り壊された。

 自動ドアの内と外はまさに天国と地獄。

「うわー涼しい!もう外に出たくない」と美穂ちゃん。

「極楽やぁ。美穂ちゃんもういっそのことここで一日過ごすか?」

「おじさんのその提案魅力的ぃ」

 カーンカーン…ボールがピンに当たる軽快な音の響く中、俺と美穂ちゃんは広いフロアの数脚ある背凭れのない長椅子の一つに落ち着く。

「喉渇いたやろ。何か飲み物買ってくるわ」

 自動販売機で買ったビン入りコカ・コーラを二本、手に持ってテーブルに戻った俺は、「ありゃ…?」

 右奥の長椅子で寛ぐ中学生らしき男の子と女の子に目が留まる。

「もしかしたら…?」


 この当時、エアコンのある家庭なんて俺の周囲では見たことがなかった。涼むといったら、家を開けっ放しにしての扇風機か、水風呂か谷川に飛び込むかだった。中学生の俺に喫茶店に入る金は無い。でもこの蒸し暑さ、凌げるところが何処かないか?で、俺は見つけてしまった、猪町には無い娯楽施設を。ボーリング場だ。金が無くても誰でも自由に出入りできる。エアコンはぎんぎんに効いている。俺にとっては最高の憩いの場所だった。


 美穂ちゃんが怪訝な顔で、「おじさんどうしたん?」

 男の子の方は何となく俺の中学の頃の面影があるが、当時の俺より断然端正な顔立ちだ。身長は175センチ超、中学生にしては長身だ。俺は左足の足首を注視する。直角だ。恐らく義足だろう。

 女の子の方は多分A界で実在した俺の中学の同窓生と同姓同名だろうが、顔立ちは全く違う。かわいい!

「ねぇおじさんどうしたん?」

「美穂ちゃんまた説明せないかんけど、俺がこの世界に来たんは俺の小説に出て来る真知子っていう絶世の美少女に会うためや。美穂ちゃんにバラしたごつ、俺はこの世界ば作った創造主や。ほいでも、B界に来るんは初めてやけん俺が誕生させた者たちに会ったことはねぇ。俺はこの世界には存在しない人間や。強いて言えば、俺に素性・性格・顔が似た康太っていう中学生が存在する。その姉が真知子や」

「おじさん、私頭がショートしそうなんやけど、要するにおじさんの分身が康太君って訳ね」


 悪戯心がむらむらと湧いてくる。

「美穂ちゃんちょっと話し掛けてみようぜ」

 美穂ちゃんは、「うん行こう行こう」とのりのりだ。

 耳を澄ます。二人の会話が聞こえてくる。女の子はきちんと長椅子に座っているが、男の子は女の子の方に頭を向けて仰向けに寝転び両腕をだらんと垂らしてだらけた格好だ。

「康ちゃんお行儀悪いぃ。もう好い加減に起きてぇ。私たち涼みに来てるだけやからボーリング場の人に変に思われるよ」 

 男の子は女の子の忠告なんか全く意に介さず、「涼しい!気持ちええ!」

「もう康ちゃんったら」

 女の子は何を思ったか、ニッと笑うと、「あっ真知姉さん!」

 途端、男の子が跳ね起きる。

 男の子は周りを見回して、「三浦、ね、姉ちゃん何処や?」

「嘘だよ〜ん」

「三浦きさん!」


 聞き耳を立てていた美穂ちゃんが、「あの子お姉さんがよほど怖いんやね。おかしい」とふふふと笑う。

「あの子たちほんとにかわいい。テレビドラマに出てくる子役みたい。私興味津々。ねぇおじさん早く話し掛けてみようよ」

 俺は頭の後ろに回していた野球帽の鍔を前に持ってきて目深に被ると徐に立ち上がる。二人の前でお調子者の如く右手を上げて、「康太美代ちゃんオッス!」

 二人は俺と美穂ちゃんを見上げてぽかんとしている。

「おじさんいきなりオッスはないよ」

 美穂ちゃんが俺を窘める。

 美代子が、「あのぅ、私おじさんたち知らないんですけど…」

 俺は帽子の上から頭を掻きながら、「すまんのぅ、ちょっと馴れ馴れしかったかいな?」

「俺は達己の死んだ兄貴の戦友で木村大悟っち言うんや。達己とは初中連絡取り合う仲や。家族のこつは何でも知っとるぜ。当然、美代ちゃんのことも聞いとるでぇ」

 俺は即興で木村大吾を名乗る。

 康太が首を傾げて、父ちゃんそげんぺらぺら喋る質かいなと妙に思ったとしても、美代子は素直に俺の言うことを鵜呑みにして、にこっと微笑むと、「な〜んだ、達己おじさんの知り合いなんや。突然名前呼ばれてびっくりしたぁ」

「美代ちゃんの顔は知らんやったばってん康太と夫婦漫才しよったけん美代ちゃんに間違いないち思うたぜよ」

 康太が、「俺と三浦が夫婦漫才?おじさん止めちくれよ」と唇を尖らせる。

「私たち大人になったら結婚するんやろ」と美代子が康太に鎌を掛ける。

 美穂ちゃんがすかさず、「うわぁ美代ちゃんからプロポーズ!大胆…」

 康太が、「そげん先のこと分かる訳ねぇやんか」

「ちぇつまんない」と美代子がぷ~っと膨れる。


「康太座って良いか?」

俺と美穂ちゃんは対面の長椅子に腰を下ろす。

「康太美代ちゃん何か飲むや?」

 美代子が、「私ファンタオレンジ。康ちゃんは?」

「俺はコーラでいいや」

 美穂ちゃんが、「じゃぁ私が買って来てあげるよ」

「ほんじゃ美穂ちゃん頼むわ」と俺は彼女にお金を渡す。

 康太が、「おじさん何処に住んどん?」

「小倉や。熊本への里帰りの途中でよ、暑うで堪らんでついこのボーリング場に寄ったっちゅう訳や」

 康太が突っ込んでくる。

「俺おじさんに会うたことあるん?」

「覚えてねぇやろうな。康太がまだ深江保育所のときや。中学生になった写真は達己に送って貰うたでぇ」

 …へぇ、深江保育所の名前が出てくるんやったらおじさんの言うとることは本当なんやな。そいでも父ちゃんからこんなおじさんが居ること俺全然聞いてねぇや…

 美代子が、「あのう…お姉さんとおじさんの関係は?」

「おっと紹介し忘れたな。美穂ちゃんはヒッチハイカーや。小倉で拾うた。久留米まで行くっち。北九州大学の四年生や。車ん中で意気投合しちまってもう友達以上やでぇ」

「お姉さんを拾ったのぉ?」と美代子が中学生らしい素朴な疑問。

「美代ちゃんはヒッチハイク知らんの?」

「アメリカの若者は車とかバイクとか使わんで、その土地土地で他人の車とか大陸横断のトラックに便乗して旅行するんやでぇ」

「へぇ凄い。やっぱりアメリカって自由の国なんやね」と美代子が感心する。

「で美代ちゃん、美穂ちゃんが言よったでぇ」と俺はにやにやしながら、「康太と美代ちゃんテレビの子役みてぇにかわいくてお似合いのカップルやちよ」

 美代子は両手を頬に宛がい、「嬉しい!私美穂ちゃん大好き。ねぇ康ちゃん」


「お待たせ。はい美代ちゃん、ファンタオレンジ、康ちゃんはコーラ」

「美代ちゃんが美穂ちゃん大好きってよ」

 途端、美穂ちゃんが美代子に抱き付く。

「ありがとう美代ちゃん。私も美代ちゃん大好き」と頬にキスする。

「美穂ちゃんくすぐったい!」

「あ〜あ、私にも美代ちゃんみたいなかわいい妹居たらな」

「美穂ちゃんは一人っ子なん?」

「そうなん。だからたまに里帰りしても淋しくって」

「私も一人っ子なん。じゃぁ私が美穂ちゃんの妹になったげるよ」

「本当!じゃぁ今度からお土産に小倉日記持って美代ちゃんに会いに来ちゃうぞぉ」

「やった~!私小倉日記大好き」

「三浦お前贅沢やな。一人っ子なんに姉ちゃん二人も居ってよ」と康太が揶揄する。

 美穂ちゃんが冗談っぽく、「なぁんだ、美代ちゃんもうお姉さん居るんだぁ、残念。私が美代ちゃん独り占め出来るって思ったんに」

「美穂姉さんがっかりすることないよ。康ちゃんのお姉さんの真知姉さんやから。でも、真知姉さん高校三年生だから美穂姉さんにとっては妹二人になるじゃん」

 美穂ちゃんはパンと手を叩いて、「そっか、そうだよね。こりゃぁ真知子ちゃんにも早速挨拶に行かなきゃ」

「ところで康太、足の具合はどうや?」

 康太は足のことを聞かれてちょっとびくっとしたようだが、「おじさん俺の足のこと知っとるん?」

「あぁ、俺も左足義足や。康太と同じ膝下からのな」

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