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夢界の創造主  作者: クスクリ
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10話 障害者根性

「あんまり人には言いとうないんやけど、足悪ぃせいで俺は性格変わっちまったんやな」

「どんなふうに?」と美穂ちゃんが突っ込んでくる。

「あぁ、一つ縋るもんができちまうと徹底的に頼ってしまう。腹八分で終わらせることが出来んごつなってしもうた」

「おじさん具体的に言って」

「彼女とは四ヵ月で終わっちまったんやけど、経理っちゅう生理的に俺が一番好かん仕事やったもんで彼女とのことばそん捌け口にしちまった。一日中彼女のことばっかり考えとった。足んことばまだ知らんごたる彼女に正直に言うべきかどうかとか…、足んことで嫌われたらどうしようかとか…、良いも悪いも俺は彼女ば精神的支柱にしちまっとった。暫く電話がなかっただけで何も手につかん。頭狂って彼女ば詰る手紙ばニ通も書いちまった。はっきり言うて彼女ジャンキーや。ゆったりと構えることができんやった。そいが破局の原因やったち冷静に考えられる今やから分かるんや」

 美穂ちゃん、「おじさんの性格何となく分かるよ」と優しく声を掛けてくれる。

「大学の学部選ぶとき、みんな就職に有利かどうかが判断の基準やろ。俺はそげなこと全く考えとらん。兎に角彼女が欲しかったんや。彼女さえできれば障害者の俺でも一人前の男になれるっち狂信しとった。女の子の多い文学部に行けばこげな俺でも彼女できるんやないかち淡い期待や。就職なんてどうでもよかったんや。よう友達に言われたわ。文学部で入れる会社なんてあるんかちね」


「おじさん恋愛に飢えてたんやね。就職よりも彼女かぁ…」

「もし私が当時のおじさんの周りに居って、今のままのおじさんと知り合ってたとしたら、私おじさんと付き合っとったよ。好きになったかもしんない。足のことなんか全く気にならんかったよ」

俺は途端に歓喜の表情に変わる。

「ありがとう。なら美穂ちゃん俺が大学4年の昭和56年の西南大学に飛ぼう」

「えっ何…?おじさん…」

俺は自分を指差して、「俺創造主、できねぇことは何もねぇ」と言い切る俺に、「うそっ、本気おじさん!」

美穂ちゃんが慌てる。

俺はふっと間を開けて、「冗談や美穂ちゃん、からかってみただけや」

美穂ちゃんはほっと胸を撫で下ろして、「びっくりしたぁ」

「できねぇことはねぇけど今さら美穂ちゃんと俺の記憶弄るんも面倒やしよ」

「美穂ちゃんの気持ち俺は無茶嬉しいでぇ。ほいでもさっき美穂ちゃんが言うた今の俺のままやったらっちゅうんは的を得とるわ。当時の俺は美穂ちゃんの恋愛対象になる資格のねぇ人間や」


「さてよ、そろそろ美穂ちゃんの質問、爺さんのことに近づくかいな」

「おじさん前置き長かったよぉ」

「ほいでももうちょっとだけ前置き」

「まだあるの?」と美穂ちゃんが唇を尖らせる。

「俺が文学部選んだんはニつの理由の筈やったんや」

「筈やった?」

美穂ちゃんが繰り返す。

「人間ちゃ無意識のうちに本来の自分の道ば進んどるもんなんやな」

「どういうこと?おじさん」

「あぁ、俺は文章はあんまり得意じゃなかった筈なんや。小学校の作文でも褒められたこつはなかったしな。そいが文学部っちゅうことで俺は文章が得意なんや書けるんやち自分に言い聞かせ始めた」

「小説なの?」

「いや、まだ小説とか俺の頭の中じゃ形作られてねぇ。漠然とした書き物や。覚えとるぜ、二十歳のときや。講義の最中何となく故郷のことば書きだしたんや。ノートにびっしり。そいが段々と小説の形ば取っていった」

「自分では小説のつもりやったんやけど当時の俺にはスキルがない。語彙は少ない、自然描写も様態描写も心理描写もなってない、ほんと幼稚なもんやった。ただ情熱と根性で大学ノートに書き殴った。恥ずかしゅうて人に小説書きよるちゃ言えんで、創作って言よったわ」

「おじさん小説難しいよ。私にはとても書けない。だいいち発想も構想も浮かばないもん」

「そっか、でも俺にはびびっと来るもんがあって一作浮かんだんや」

「教えて…」

「俺が義足になったんは昭和45年。小学校五年生の3月20日午後4時くらいや」

「3年前?何か妙な違和感」

「うっ、確かに…俺今53…」

俺は自分を指差す。

「おじさんおかしいぃ」

美穂ちゃんが吹き出す。

「めっ」

「美穂ちゃんここは吹き出すところやないの。真面目な話なんやでぇ」

美穂ちゃんは肩を窄めて、「ごめんなさいおじさん」


「俺は国鉄職員の親父の転勤で鳥巣に引っ越してきたんや。義足ん俺は一学年400人の鳥巣中で大人しく縮こまった学校生活ば送りよった。中学三年の南九州への修学旅行のとき、青島で大塚っていうツッパリに因縁つけられて、それがずっと俺のトラウマになっとったんやろうな、二十歳のとき、『凶悪志願』っていう小説の構想が浮かんだ。稚拙な文体で書き殴っとったその小説に爺さんが住み着いたごたるんや」

「話が見えないよぉ」

美穂ちゃんが首を傾げる。

「そうやな」

「後で順を追って説明せにゃ俺と爺さんの関係は理解し難いやろうな」

「おっとそろそろ鳥巣に入るで」

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