プロローグ
ある日、オルスティア王国王都にあるレーナード公爵家本邸にて。公爵夫婦…特にマリアンヌ婦人が長く待ち望んでいた女児が、ついに産まれた。
『まぁ、見てアーサー!まばたきしたわ!何て可愛いらしいのかしら…』
『そうだねマリア。ふふ。この碧の瞳の色、君にそっくりだ』
『あ!でも見て?目の形はアーサーにそっくりだわ』
『それはね、この子が私達の愛の結晶だからさ』
そしてもう何度目にもなるやり取りを生後数日の赤ん坊の目の前で繰り広げる二人の下には、質の良いベビーベッドの上で途方にくれる愛娘がいた。
「(相変わらず話してる言葉は意味不明だし、その上両親らしき男女はいちゃついてるし…。どうすればいいの…?)ばぶぅ…」
『おや、見てごらんマリア。我らがプリンセスがいじけてしまっているよ』
『まぁ、やきもちかしら。うふふ、きっとアーサーに似たのね』
『やきもち焼きなのは君も同じだろう?勿論、そんな所も愛しているけれどね』
『もう!アーサーったら、子供の前よ?』
『構わないさ』
そう言いながら何度もキスを交わす公爵夫婦。
そしてそれを遠い目で見つめる赤ん坊。そんな彼女に付けられた名前はアリアンヌ・レーナード。そんな彼女には、ちょっぴりオタクで重度の乙女ゲーマーな前世があったりする。
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(んー、今回の乙女ゲーはハズレかなぁ…)
薄暗い部屋で毛布を被りながら、ゲーム機のコントローラーをカチカチと動かす。好きな声優とあらすじのストーリーに惹かれて購入したのだが、いかんせんスチルと機能がいただけない。立ち絵は好みなのだがスチル絵師が違うようだし、そもそも惹かれた要因の一つであるストーリーもはっきり言って普通だ。キャラクターもただ流行りにのっかってみました、みたいなちょっと残念な感じだし…
(うん、ハズレだな)
とりあえず今やってるルートがエンディングを迎えた為、一度電源を切る。それから今度はまた別のゲーム機を手に取り、お気に入りのソフトを起動させた。
(やっぱ乙女ゲーと言えば、君婚だよね)
[君婚]とは、中世ヨーロッパをモデルとした国を舞台に、いつのまにか破産した親戚の借金の連帯保証人になってしまっえいた伯爵家の令嬢が、それを隠しながら十分な財力のある結婚相手を探すというストーリーの、[君と愛ある結婚を]という乙女ゲームだ。
今はあまりメジャーなゲームではないが、最近とある声優さんが進めていたのもあり、じわじわと名を広めていっている。某通信販売サイトではレビューで絶賛されていたし、この分ではアニメ化も近いのではないだろうか。
【どの彼と結婚する?】
と、画面に現れた五人の美男子達。私はなんの迷いもなく、一番大好きなキャラクター…、第二王子のレオンハルトを選んだ。肩口まである金髪と紫の目をした、綺麗な顔の十七才の男の子だ。
(んふふ。この、はじめは只の王子様キャラなのに仲良くなるとクスッと来ちゃうくらい過保護になるのが可愛いんだよね)
もう何度もやってすっかり慣れてきた操作を繰り返し、やっぱり何度目かのハッピーエンドを迎え、きゅんきゅんと悶えながらエンディング動画を見ていたその時。部屋が大きく揺れて、グッズを飾っていた棚が動画に見入っていた私の上に倒れてきた。
「イッ…~たい!!!!」
まぁだがそこは地震に慣れた日本人。余震も過ぎたし、ここは特に海が近いと言う訳でもないため対して慌てることはない。棚の下では身動きが取れないけれども、まぁ明日になったら親も旅行から帰ってくるから今は出れなくても大丈夫か。痛いけど。痛いけど。携帯は遠いし仕方ない。幸いゲーム機は側にあるからゲームをやってれば寝れなくても直ぐに明日になる、なんてアフターストーリーを見ながら考える。
けれどそう楽観視していられたのもそれまでだった。隣だか上だか下だかわからないが、とにかくどこぞの階のどこぞの部屋で火事が起きたらしい。火事だー!なんて声と、悲鳴が聞こえてきた。火の手は迫ってくるけれど、棚の下敷きになっていた私は逃げる事なんてできなくて。
(あ、やば。終わる)
煙で視界も意識も朦朧とするなか、ただ呆然とそう思って。そこからの記憶は、ない。
「オギャア!!オギャア!!オギャア!!!」
だけど気付いたら私は赤ん坊になっていて、どこかで見たことがある様な気がする美女の腕に抱き抱えられていた。
え、なにこれ意味わかんない