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学校。日常。

鐘がなり退屈な授業の終わりを知る。机に突っ伏した低い目線から先生が廊下の向こうに消えるのを確認する。

やべぇなんにも覚えてねぇ。

まぁでもいいか。どうせ数学は小中レベルだ。義務教育を終えている俺としてはやらなくてもいい講義だ。高校レベルだと行ってないので分からんが。

人生というものは本当に予想がつかない。あり得ないと思ってたことが簡単に起こるし、全てのルートの予想を立てたと思ってもいつの間にか知らない場面に遭遇する。

まさか俺が異世界転生するとは思ってもみなかった。まさか俺が再び学校に、まさか俺に妹が、まさか夜中まで魔法の鍛錬を、等。最近人生のフリーダムさを痛感することが多いのだ。

人生設計を立てるなかれ。どうせ一手目で崩れる。今やりたいことをやってこうぜ。

ということで授業中寝てしまったのは悪くない。よし。流石自己弁護界期待の新星だ。ニートはたいていこれ。

……。寝起きって訳わかんないこと考えるよな。


「はふぅ……」


未だ睡魔の残党が暴れている。

午前10時の心地よい太陽光と窓際の後ろの方の席という特殊エリアは奴らを元気にする。負けるな俺。戦うんだ。

平和主義の俺は強大な難敵を前になす術がなかった。抵抗の意思もほぼ薄れて陥落寸前のところで、俺に天使の祝福が付与される。


「兄さん昨日の覚えてますか?」


ネーレイの声だ。MAXフルチャージ起床。

顔を上げ前の席のネーレイと対面する。

「んああうん。覚えてる覚えてる。文化祭の話だろ?あれ続きはパイプイスドミノ地獄くらいしかないなぁ」

言ってから口の周りによだれついてないか確認する。なかった。

近距離でネーレイの紅い瞳に見つめられると何かあるんじゃないかと気になってしまう。


「違います。それはそれで後で聞きたいですが……昨日教えた魔法のことです」

「昨日の魔法……。ああアレか。それがどうした」


アレとは連鎖振動魔法のことだ。この学校では習うことはないのでぼかしている。


「まだイメージ忘れてないですか?難しい魔法でしたので確認したくて」

「ああ問題ないよ。さっき授業中にも思い出してた。初め聞いたときは意味わかんなかったけど一度イメージ出来ちゃえばほんとに簡単だな」

「そうですね。イメージが大事なんです。魔法は。兄さんはそういうの得意なので大丈夫だと思ってましたが……昨日夜遅かったので」

「あーそれな。暗記ものは夜中最適なんだがイメージはなぁ。想像力制限されるあの感じなんなんだろな。案外、魔法の練習は夜中やるのは効率悪いんかね」

「どうでしょう。伝記に残ってる魔法戦は大抵夜中ですし、初心者と上級者で違うのかも知れません。私は殆ど変わりませんよ」

「なーる。流石ネーレイ。それに引き換え俺は全然ってことかー」

「い、いえ魔法力で言えば兄さんの方が上ですし勉強途中ですから!やる気出してください」

「了解。今日も帰ったら教えてくれな」


これが日常。

前の席のネーレイがイスごとくるりと回転し俺と対面する。これが10分休みの基本姿勢。

だったのだが。


「ネーレイさんネーレイさん。さっきのとこ教えてー」

「う、うん。いいですよー」


ちらちら俺を確認しながら答える。別にいいのに。俺としては寂しいけど、それは自由だろうに。

しゅんとしたネーレイが俺に軽く頭を下げる。


「すみません兄さん。あっち行ってきます」

「いいよいいよ。いってらっさーい」


努めて明るく言ってやる。しかしネーレイは更にテンションダウンしたように見える。

どういうこっちゃ。

声かけてくれたクラスメイトの元にてこてこ歩いてくネーレイの背中はなんだか元気がない。


「ネーレイなんか元気ないよなぁ。なんでだろ」

「そうかしら。私はいつも通りに見えるけど?」


答えてくれたのは隣の席のアリヤさんだ。


「ほらあれを見ろよ。今数人と楽しそうにおしゃべりしてるだろ?でも会話の息継ぎの時たまに寂しそうにするんだよ。ネーレイに聞いても誤魔化してくるしさぁ……」

「チハヤさんは気にしすぎだと思うわ。いつもいつも妹さんのことばっかり……。正直、私にはわからないわ。なんでそんなに気してるのよ?」

「そりゃあ妹だからだろ。家族で妹なんだからそれが当然だろ?それに、あんな完璧なんだもん、余計に気になっちゃうっての」

「それって……。もういいわ。気にしちゃうのは認めてあげるけど、他の事にも目を向けなさいよ」

「あん?他の事?」

「例えば、ほら私のこととか」


アリヤの事……。取り敢えず観察してみる。

艶やかな黒髪ボブカットに赤縁眼鏡がチャーミング。背は150cmくらいなのにやたら胸がでかい。前世?含めて実際に見た中では最大……。あいて。

頭に衝撃。アリヤお得意の手刀が落ちたようだ。


「どこみてんのよぉ。あなたたまに破廉恥だわ」

「悪い悪い」


照れながら抱くように胸を隠す。

それもまた良しホトトギス。男なら絶対見ちゃうと思うけどなぁこれ。俺はあからさま過ぎるのだろうか。


「まぁあれだよな。お前は物怖じしないタイプというか、ビシッと言えるのが長所。短所は貴族にも同じ態度で接しちゃうこと。……こんなんで良い?」

「少々ズレているけど……まぁよしとしてあげるわ。それに短所の部分は貴方も同じじゃない」


心の中で同意する。こいつと仲良くなったのもネーレイに絡んできた貴族を2人で言い負かしたのがきっかけだしな。

と、扉から先生が入ってきた。ネーレイもてこてこ戻ってくる。

さて授業が始まる。

この世界に起立礼は無く、先生のタイミングでぬるりと始まる。移動教室の時なんか揃ってないのに始まる時もある。中学までしか通ってない俺としてはすごく新鮮なのだが、どうなんだろ。日本でも高校なら普通か?分からない。

先生が板書をし始めた。

俺もそれにならって手元のノートに書き写す。異世界文字をさらさらと書く。

この世界(国?)には庶民文字と貴族文字というものがある。庶民文字は街中でもよく見かける普通の文字だ。識字率も高い。それに対する貴族文字は選ばれた人間しか使えない。高貴なる文字だか神聖なる文字だと校長が言っていた。使う場面も限られる。例えば貴族同士の手紙、格式高い契約書、歴史書、そして魔法陣を描く時。ここの生徒は、入学式に校長自ら貴族文字使用を許可する魔法がかけられるので使える。

今俺が書いているのは庶民文字だ。

うん。もう周りと比べても見劣りしないな。

もう異世界文字をマスターしたといってもいいんじゃないか?貴族文字は「スローワーム書いてるんですか兄さん」と言われてしまうがこちらはお墨付きを貰っている。そう。これは俺の努力だ。妹の協力あってこそだけど。

ツンツン。右手に感触。アリヤさんか。

この世界では授業中おしゃべりするのは普通だ。

黒板見ながら返事をする。


「なに?」

「いつも思ってたんだけれど、字きたないわよね。後で見てわかる?あ、ネーレイちゃんいるから大丈夫かしら」


…………。


「アリヤって時たま的確に抉ってくるよね」

「どういうことよ」


綺麗な瞳で覗き込んできた。

すごく可愛いので悪い気はしないのだが、どうにも萎縮してしまう。彼女は基本純粋だ。素直だ。悪くないのは分かっているが壁をつくりたくなってしまう。彼女の、人気と友達の数に大きな差があるのはこのせいだろう。

そんなことを思いながら、俺はこの講義を過ごすのであった。

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