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路地裏の横道

「はぁはぁだいじょ、だいじょぶですか?」

「はぁはぁだいじょぶだ。心配してくれてありがとうな」


俺達2人はあの場所から1キロ程離れた裏路地にへたりこんでいる。

路地を走り抜け、家の塀をつたい、透明魔法をかけてもらって大通りをダッシュしここに着いた。

こんなに走ったのは中学のシャトルラン以来だ。

運動不足の身体が悲鳴を上げている。それは隣でぺたんと座っている彼女も同じなようで、


「もう一歩も動けません……」


かなーり大変そうだ。俺はスウェットだったからいいが彼女はゴスロリドレスだ。相当走りにくかったのではないだろうか。実際、端々は土に汚れてしまっている。

這々の体という言葉がこんなにも似合うのかというくらい必死に逃げたのだから仕方ないというものか。


「あの、あのさ。ここは確かに安全だけどさ、ずっとここにいることはできないじゃん?どうするよ」

「えー。ここで別にいいんじゃないですか……」


いかにも面倒です……という表情で答えた。

疲れすぎてダメになってるこの娘。


「良くありません。移動しなければなりません。……まぁ休んでからでいっか……」


俺も大概だった。

あ、これは聞いとかなくちゃ。息を整えながらゆっくりと話す。


「あのさここに来るまでに色んなとこ走ったじゃん?だから色んなもの見たのよ。例えば謎野菜屋とか、牛顔の靴屋とか、ドスジャギィな竜車とか」


異世界転生モノでとても楽しいやつを最悪の形で経験してしまった。中世ヨーロッパ風のくだりもまだ出来てない。


「そうですね。イリスムなのでこんなもんじゃないですか」

「あ、これが普通なんだ」


なんてことなく彼女は答える。

ちょっと適応できる気がしないのだが。

しかし。


「んー。銀髪娘的にはこれ大丈夫?多分暫くはここにいることになると思うけど。バレてないとはいえ敵の只中にいるの辛くない?」


一応心配して聞いてみる。魔王の娘と人間の間にどれだけ溝があるのか、平和ボケした日本人には分からないが。


「あの、ですね」


銀髪娘が苦々しい表情を作った。


「私いつのまにか銀髪娘銀髪娘言われてますけどね、私、ネーレイ・リア・エイングルダムっていう高貴で不変の名前があるんですけど」


いきなり関係ない話をされたのでなにかなと思ったが、そうか。そういえば名前聞いてなかったんだ。


「ごめん。確かに銀髪娘って言われるのはいい気分じゃないよねレイちゃん」

「はいそうで……はい?」


はじめぽかんとした可愛らしい顔だったがそれはどんどん厳しいものになっていってついにマジ睨みになった。

俺睨まれてる。


「あの、そのレイちゃんっての私の呼び名なら色々本気で怒りますよ」

「……ごめんなさい」


結構マジなおこっぽかったのですぐ引き下がる。

うん。名前いじりは良くないよね。俺もやられた時はかなり嫌だった記憶ある。

はぁ……やってしまった。

路地裏に転がるゴミのように小さくなってしゅんとしてると、彼女がオーバー気味にやれやれをした。


「はぁ……じゃあネーレイと呼ぶことは許します。それでいいですね?」

「は、はい。でも良いの?」

「そんな顔されたら頷くしかないじゃないですか。これからずっと一緒にいるんですし仕方ない譲歩です。一応兄様ですし」


とても優しい妹だった。


なんだ、この気持ち。

俺なんかよりずっと大人びている。

昨日父親が殺され、見知らぬ兄様のせいで追い回され、変な名前で呼ばれたのに、許してくれる。なんという強さだろうか。

昨日父親に憧れたが今日は娘にも憧れを抱きそうだ。

俺は彼のような守る強さを、いまだに心配してちらちら反応を伺っている目の前の彼女のような優しい強さを、手に入れることはできるだろうか。否。手に入れなければならない。

そう密かに心に誓って。

話しかける。


「あ、その兄様っていうの。俺、伊勢千早って名前あるけどそのままでお願い」

「はぁ〜〜〜」


呆れられた

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