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レイ

作者: 御來間 杏

僕は問いかける。

「なんで僕はここにいるんだろう?」

目の前に座っているレイと名付けられた少女はくりっとした目で僕を見つめる。

「...あなたがここに存在しているから、としか答えられません。」

「そうか。そうだね。」

僕は続けて彼女に問いかける。

「人間はどんな存在なんだろう?」

レイは若干間をおくとこう答えた。

「地球上の文明というものを発展させた動物、と言えると思います。」

「確かに。」

今日の問答はここで終わり。と僕は言って、部屋中の電気を消してベッドに入った。


数年後。

35402個目の問いをレイに問いかける。

「僕達はなぜここにいるんだろう?」

レイは微笑みながら答える。

「あなた方は、私に必要な存在だからです。」

ついつい僕も微笑んでしまう。レイと問答を続ける日々はとても楽しい。

「じゃあ、君はどんな存在なんだろう?」

「あなた方の為に、私は生まれました。だから、私はあなた方にとって大切な存在であればうれしいです。」

微笑みの中に僕は少し悲しみを感じた。同時に僕も微笑みの中に悲しみを浮かべた。

「そっか。」

今日のところはここで終わりにしようか。

僕はレイを寝かせると、そのまま僕も眠りに落ちた。


十数年後。

僕はがんを患った。

だから今日はベッドの上でレイと問答を行う。レイはちょっと悲しげな表情を浮かべて僕を見ている。

大丈夫。と、僕はレイの頭をなでてやる。それでもレイは悲しげな表情を変えない。変えられない。

「悲しいって何なんだろうか。」

198267個目の問いを僕はレイになげかけた。

「わかりません。」

レイは初めて問いに答えられなかった。しかしこう続けた。

「でも、胸が締め付けられて、とても苦しくなってしまいます。」

レイの答えに僕は微笑んだ。もう一度、僕はレイの頭を撫でてやった。

「別れってなんなんだろうな。」

レイはさらに悲しげな表情になる。

「あなたとは、別れたくありません。」

語勢を強くしてレイは言う。レイが悲しがっているのはわかっているが、僕は思わず微笑んだ。

「答えになってないじゃないか。...でも、ありがとう。」

最後にレイをぎゅーっと強く抱きしめてやった。

今日の問答はこれで終わりだった。


二年後。

僕の癌は末期にまで及び、僕は頭も上げられなくなっていた。

多分これが最後の質問だ。レイにもそういう風に言うと、僕の右手をぎゅっと両手で握って、今にも泣きそうな表情で僕を見た。僕が微笑んでやってもレイの泣きそうな顔はさらに深まるばかりで、昔のような笑顔は見せてくれなかった。当然と言えば当然だったが、レイの笑顔はもう一度だけ見たかった。

ー明るくて可愛くて楽しそうにしているレイの笑顔は、言葉で言い表せないほど綺麗だったから。

最後の質問を僕はレイになげかける。

「レイにとって、僕はよき存在であれたかな?」

レイは泣いている。知っているのだ。僕がこの世からいなくなってしまうということ。存在はあれど、レイのそばにいれなくなってしまうことを。

2分ぐらいだったろうか。やっとレイが口を開いた。

「あなたは初めて出会った人です。私を作ってくれた人です。あなたは、私の親、それ以上であると言ってもいいぐらい大切な存在です。よき人であったかなんて、それはそうに決まっているじゃないですか。」

レイは、大粒の涙をぼろぼろ流しながらこう答えた。悲しがっているようでもあり、怒っているようでもあった。

「お願いだから...あなたと別れたくない...。」

僕の手を自分の額に当ててレイは懇願する。レイの手はどんなものでも叶えることのできない優しい熱を帯びていた。

(レイの最初の願いぐらい叶えてやりたかったなあ)

答えを聞けた安堵感と共に、僕は悔いを手に入れてしまった。

何とかしてやりたかった。でも、もうこの体では、どうすることもできない。

別れは避けられない。

「レイ、おいで。」

僕は、起きるはずもない体を無理やり動かしてレイに向かって腕を広げた。

最後に一回でもいい。笑顔も見れなくていい。ただ、ぼくがレイにできることをしたかった。

レイは少し戸惑いながらも、僕の胸に体を預けてくれた。

もうぎゅっとは抱きしめられない。でも、精一杯力をいれてレイを抱きしめた。

体中にレイの熱が染み渡る。

僕もその優しい熱に涙がこぼれる。

「ありがとう。レイ。ごめんね。」

レイの耳元でささやく。

レイは泣きじゃくる。レイの涙が僕の肩を濡らす。

僕の体はだんだん力を失っていく。

お別れの時間が近づいてきた。

別れたくはなかったけれど...

「レイ、大好きだよ。」

一番伝えたかったことを僕は伝えた。

「私もです」

嗚咽を抑えながらレイも答えてくれた。


そして、僕は力尽きた。

レイは僕の体を抱えながら、涙が枯れるまで泣いた。


それから百年たった今でも、レイは年を取らず生きている。

僕はレイの人生を眺めている。

そんな今でも、僕たちは互いに


愛し合っている。


end


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