プロローグ
初めて見る闇が広がる大空に、意識がどこかへ消え失せてしまったかのような錯覚を覚える。
「真っ暗闇に何かが輝いて…」
天井がガラス張りとなっている異様な車の中で声にならない吐息のようなものが周りから漏れ出ていた。
「太陽が…、ないなんて…」
太陽がない空を見たことがなかった。いや、太陽は常に空にあるものだと思っていたから、ないという認識すらできなかった。
「あれはな、星って言ってな、太陽の光が反射して輝いて見えるんだ」
青い軍服を着た男が星空を眺めながら呟く。
「俺らが住む世界は、陽半球。で、ここは陰半球。裏っ側にいるってこった」
「裏?あんた何言ってんだ?地面の裏っ側なんて地面に決まってんだろ」
「ああ、そうか。お前らはこの地球が球体だってことも知らないのか。まあ、知らなくて当然だよな。じゃあ、もう少し、いいこと教えてやるよ」
「おい、それくらいにしとけよ。一応機密情報だぞ」
「わかってるって。言ったところで誰も記憶に残らねぇ。いつものお遊びだよ」
「それもそうか」
「おいおい、いい加減目的地くらい教えてくれてもいいんじゃねぇか?じゃねぇとぶち殺すぞ」
「まあまあ、落ち着きなよ、6225君。どうせ動けないんだからさ」
軍服を着た彼ら以外の人間は足枷手枷がつけられ、椅子にガッチリと固定されていた。
俺はというと何故だかわからないが、首から上以外は甲冑のような重石を着せられさらに3重ほどの固定具で拘束されている。
「上の命令だかなんだか知らねぇが、こっちは真っ当に刑期こなしてきてんだぞ?それを」
「目的なんてものお前らは知らなくていいんだ。いや、もうわかってるだろ?死刑囚ども。もう刑を執行してもいいんだぞ?」
「イライラすんなって。これからが楽しいところだろ」
「……」
俺はいつから死刑囚になっていたのだろうか。
あの日の鐘の音が俺の全てを狂わせた。
あれが無ければきっと探検家としての夢の続きを……。
「この星空、いつでも観れたらって思わないか?」
軍服の男の目は星空と同じようにキラキラと輝き、夢を語るかのように後に続けた。
「人類が滅亡しかけたあの日から俺たちの世界に星空は無くなった。俺やお前らが生まれるうんと昔の出来事だ」
「太陽が常に天にある現在とは違って、日は昇り沈むもの、それが日常だった」
彼の口から溢れる言葉たちはただの世迷言のようにしか聞こえてこない。
人類の滅亡?太陽が沈む?
「お前の空想に付き合うつもりはないぞ。星ってやつも見飽きちまった」
「人は歴史を学ぶ時、誰かからそれらを教えてもらう。だが、それが真実なのか嘘なのか、当事者の証言以外、証明することは不可能だ。お前らの学んできた歴史は本当に正しいか?この地球が誕生して常にお天道様が頭の上にあって、狭い領土の中で人類皆一つになって仲良くやってる時代が昔から永遠に続くと、本当に断言できるか?」
「お前らは本当のことを何も知らない。この世界の一部もわかってない」
「だから、これから死にに行くんだ」