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須玖寺薫の夢見録  作者: 羽栗明日
13/13

カキコミ

「どう?何か分かった?流石になんかしらの情報がつかめる程の期間があったと思いますが!」

 約束した二日後。俺が夢見堂に到着すると、薫はいつもの席に腰掛けながらこちらに声をかけてきた。

 なんだって?二日間だぞ?そんな短期間で何がわかるんだ?

「ん?なんだか浮かない顔をしているね」

「一応調べてきましたが」

 そう前置きをして、俺は薫に和佐から聞いた話――優香が最近学校に来ていないらしい、という話を伝えた。

 ほうほう、ふむふむ、と興味を持った様子の薫だったが、俺からの話がそれだけだと気づくと、

「え、それで終わり?」

 と驚いた顔をした。

どうも彼女的には情報が少なかったらしい。

「うーんもうちょっと調べてきて欲しかったかなー。彼女の趣味とか嗜好とか、友人関係から家の住所までとか……」

「いや、それ完全にストーカーじゃないですか」

 俺が反論する。

「君は自分が探偵の助手であるということを忘れてます。探偵ですよ?探偵。プライバシーとか言ってる場合じゃないんですよ?」

 薫が頬を膨らました。

 探偵だからってプライバシー守らないと警察沙汰じゃないの?と言いたかったが、ぐっとそれを飲み込む。

「すみません。無理だったんですよ。実はまた彼女が泣いてしまったので……」

 はぁ、と呆れたように薫がため息をついた。

「全く……まあ、情報を仕入れてこなかったというわけではないから良しとします。次からはもっと真面目に頼みますよ」

 そう薫は俺に注意すると、

「さて、私の調べてきたことを話しましょうか」

 と切り出した。

「猿夢っていう話は、本当に最近出てきたもののようです。夢に関する都市伝説は色々あったんですけど、その他にも面白そうなものが沢山あって……って、今話すと長くなっちゃうから今度にしましょうか」

 そう言って彼女は、傍らのカバンから一枚の紙を取り出した。

「これが猿夢の噂の元になったであろう掲示板のカキコミのコピーです。まあ、読んでみてくださいな」

 差し出された紙を手に取る。そこには以下のように書いてあった。


『私は、夢をみていました。昔から私は夢をみている時に、たまに自分は今、夢をみているんだと自覚する 事がありました。この時もそうです。何故か私は薄暗い 無人駅に一人いました。ずいぶん陰気臭いを夢だなぁと思いました。

すると急に駅に精気の無い男の人の声でアナウンスが流れました。 それは 、

「まもなく、電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ~」

 と意味不明なものでした。まもなく駅に電車が入ってきました。

 それは電車というより、よく遊園地などにあるお猿さん電車のようなもので数人の顔色の悪い男女が一列に座ってました。


 私はどうも変な夢だなと思いつつも、自分の夢がどれだけ自分自身に恐怖心を与えられるか試してみたく なりその電車に乗る事に決めました。

 本当に恐くて堪られなければ、目を覚ませばいいと思ったからです。私は自分が夢をみていると自覚して いる時に限って、自由に夢から覚める事が出来ました。

 私は電車の後ろから3番目の席に座りました。辺りには生温かい空気が流れていて、本当に夢なのかと疑うぐらいリアルな臨場感がありました。

 「出発します~」とアナウンスが流れ、電車は動き始めました。これから何が起こるのだろうと私は不安と期待でどきどきしていました。電車はホームを出るとすぐにトンネルに入りました。紫色っぽい明かりがトンネルの中を怪しく照らしていました。


 私は思いました。(このトンネルの景色は子供の頃に遊園地で乗った、スリラーカーの景色だ。 この電車だってお猿さん電車だし結局過去の私の記憶にある映像を持ってきているだけでちっとも恐くなんかないな。)


とその時、またアナウンスが流れました。「 次は活けづくり~活けづくりです。」

 活けづくり?魚の?などと考えていると、急に後ろからけたたましい悲鳴が聞こえてきました。

 振り向くと、電車の一番後ろに座っていた男の人の周りに四人のぼろきれのような物をまとった小人がむらがっていました。

 よく見ると、男は刃物で体を裂かれ、本当に魚の活けづくりの様になっていました。

 強烈な臭気が辺りをつつみ、耳が痛くなるほどの大声で男は悲鳴をあげつづけました。

 男の体からは次々と内臓がとり出され血まみれの臓器が散らばっています。


 私のすぐ後ろには髪の長い顔色の悪い女性が座っていましたが、彼女はすぐ後で大騒ぎしているのに黙って前を向いたまま気にもとめていない様子でした。

 私はさすがに、想像を超える展開に驚き、本当にこれは夢なのかと思いはじめ恐くなりもう少し様子をみてから目を覚まそうと思いました。


 気が付くと、一番後ろの席の男はいなくなっていました。

 しかし赤黒い、血と肉の固まりのようなものは残っていました。

 うしろの女性は相変わらず、無表情に一点をみつめていました。

 「次はえぐり出し~えぐり出しです。」とアナウンスが流れました。

 すると今度は二人の小人が現れ、ぎざぎざスプーンの様な物でうしろの女性の目をえぐり出し始めました。

 さっきまで、無表情だった彼女の顔は、痛みの為ものすごい形相に変わり、私のすぐ後ろで鼓膜が破れるぐらい大きな声で悲鳴をあげました。

 眼かから眼球が飛び出しています。血と汗の匂いがたまりません。

 私は恐くなり震えながら、前を向き体をかがめていました。ここらが潮時だと思いました。

 これ以上付き合いきれません。しかも、順番からいくと次は3番目に座っている私の番です。私は夢から覚めようとしましたが、自分には一体どんなアナウンスが流れるのだろうと思い、それを確認してからその場から逃げる事にしました。

 「次は挽肉~挽肉です~」とアナウンスが流れました。最悪です。どうなるか、容易に想像が出来たので 神経を集中させ、夢から覚めようとしました。(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)いつもはこう強く念じる事で成功します。

 急に「ウイーン」という機会の音が聞こえてきました。今度は小人が私の膝に乗り変な機械みたいな物を近づけてきました。

 たぶん私をミンチにする道具だと思うと恐くなり、(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)と目を固くつぶり一生懸命に念じました。

 「ウイーン」という音がだんだんと大きくなってきて、顔に風圧を感じ、もうだめだと思った瞬間に静かになりました。


 なんとか、悪夢から抜け出す事ができました。全身汗でびしょびしょになっていて、目からは涙が流れていました。私は、寝床から台所に向かい、水を大量に飲んだところで、やっと落ち着いてきました。恐ろしくリアルだったけど所詮は夢だったのだからと自分に言い聞かせました。


 次の日、学校で会う友達全員にこの夢の話をしました。でも皆は面白がるだけでした。所詮は夢だからです。

 それから4年間が過ぎました。大学生になった私はすっかりこの出来事を忘れバイトなんぞに勤しんでいました。

 そしてある晩、急に始まったのです。

 「次はえぐり出し~えぐり出しです。」あの場面からでした。私はあっ、あの夢だとすぐに思いだしました。

 すると前回と全く同じで二人の小人があの女性の眼球をえぐり出しています。

 やばいと思い (夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)とすぐに念じ始めました。。。。。。

 今回はなかなか目が覚めません。(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)。。。。。。。。

 「次は挽肉~挽肉です~」

 いよいよやばくなってきました。「ウイーン」と近づいてきます。(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めてくれ)

 ふっと静かになりました。どうやら何とか逃げられたと思い、目をあけようとしたその時

 「また逃げるんですか~次に来た時は最後ですよ~」とあのアナウンスの声がはっきりと聞こえました。

 目を開けるとやはり、もう夢からは完全に覚めており自分の部屋にいました。

 最後に聞いたアナウンスは絶対に夢ではありません。現実の世界で確かに聞きました。私がいったい何をしたと言うのでしょうか?


 それから、現在までまだあの夢は見ていませんが次に見た時にはきっと心臓麻痺か何かで死ぬと覚悟しています。

 こっちの世界では心臓麻痺でも、あっちの世界は挽肉です。。。。。。』


(原文そのまま)


 一通り目を通した俺は、なんだか奇妙な違和感を覚えた。だが、それが何なのかはわからなかった。

「読み終わりました?」

 薫が尋ねてきた。

「彼女の話と似ている、いや似すぎていると思いませんか?」

 言われなくても、優香から聞いた話とそっくりだとは思う。夢の中の遊園地だとか、次々と惨殺されていく点だとか、覚めても聞こえてきた声だとか。

 怪しんでいる様子の薫の口ぶりからするとつまり、

「彼女がこれを読んで嘘をついているかも……ってことですか?」

「その可能性は極めて高いと思います」

そう薫が答えた。

「もしかしたらこのカキコミを読んだ直後に少し似た夢を見てしまった。読んだ印象が強烈に残ってしまって、同じ夢だと思いこんでしまったのかもしれません」

 目の前のカップを手に取った薫は、それを一口すすった。

 今日も薫の前にはコーヒーがある。どうやら俺が来る前にオーダーされていたのだろう。俺の目の前にも同様にコーヒーが置かれていた。

 さて、と薫は前置きをして、

「一応私も優香ちゃんのことについて調べてみようと思っています」

「え、薫さんも調べるんですか?」

「そうです」

 なら最初から自分でやれよ、と俺は心のなかで憤慨した。

「一応ですよ、一応。実は調べているうちにちょっと気になったこともあったので」

「どんなことですか?」

「それは今度のお楽しみ、ということにしておきましょう」

 そう言っていたずらっぽく笑った。

 こっちの薫は、わりとこういった茶目っ気がある。夢の中の薫の印象とは正反対だ。そんなところは、かわいいと思う。

「そういう理由ならば。わかりました、お願いします」

 ここで俺は、前々から気になっていたことを聞くことにした。

「ちなみに今回の依頼って、優香ちゃんからはいくらぐらいもらってるんですか?」

「もらってませんよ?」

 俺の質問に薫はキョトンとして答える。

「え!?どういうことですか?」

 驚いて聞き返した。

「だって……あんないたいけな大学生からお金をとるわけにはいかないじゃないですか。私は小説とかドラマとかに出てくるような悪徳探偵じゃないんですもの」

 唖然とした。じゃあ、この人はどうやって生計をたてているんだ?どうせ大金をもらっているんだろうという俺の考えは、いとも簡単に崩れ去った。

「ちなみに俺に報酬って出たりします?」

 おそるおそるそう尋ねると、薫は渋い顔をした。

「うーん。今も言ったとおり、私は探偵って慈善事業だと思ってるんですよね……。だからお金をもらったらそこで探偵失格だと、そう思います。マスターにもお金はあげてなかったですし」

 滔々と語る薫。でも、と前置きして。

「だからって急に君にお願いしていて、報酬をあげないのも申し訳ないとも思います。わかりました、考えときますね」

 考えとくか……。まあ、そこまで辛い仕事じゃないので、特に報酬が欲しいわけでもないのだが。

 薫は、パン、と両手を打ち鳴らした。

「とりあえず君が明日からやることは優香ちゃんの身辺情報の収集ですね。大丈夫?できそうですか?」

 身辺情報ね……。そんなものが簡単にわかれば苦労はしないのだが。

 また適当な情報を拾ってごまかすことにするか。

 俺が軽く頷くのを確認すると薫は、

「じゃあ、今日はここまでですね」

 おもむろにレシートを掴み立ち上がると、レジに向かっていった。それを見たマスターが、奥から出てきて手早く会計を済ませる。

 お金を払い帰る素振りを見せた薫は、一度俺を振り返った。

「次に会うのは……うーんそうですね。また明後日にしましょうか。その日にまた優香ちゃんに会うことになっているんです。それまで彼女をよろしく頼みますね」

 そう言い残すと、チリンチリンと鈴を鳴らして颯爽とドアから出て行ってしまった。

 薫がいなくなったことにより、店内には俺以外の客はいなくなってしまった。先程までとは打って変わって、周りは静寂に包まれる。

 一人取り残された俺がコーヒーをすすっていると、いつのまにか横にマスターが立っていた。

「調子はいかがですか」

 低い声でそう尋ねてきた。

「薫さん、不思議な人ですね」

 突然の問いかけに俺は苦笑する。

「いきなり夢の探偵の手伝いをしろとか言ってくるし、依頼人を調べろとか無理難題をふっかけてくるし。夢の中とはまた別人ですしね」

 マスターは軽く微笑んだ。

「彼女が夢の中で別人なのはもちろん理由があります。ただ、未だあなたが知らないのならば、私が今お伝えするわけには参りません。然るべき時、彼女からなんらかのアクションがあるでしょう」

 静かにそう語るマスター。

「だといいですけどね」

 ぽつり、と俺はそう呟いた。

「そうだ。彼女、報酬をもらってないって言ってたけど、」

「もらっております」

 マスターはきっぱりとそう言った。

 やっぱり。

「ですよね」

「ただ、彼女は直接受け取ってはいません。私が裏でこっそりと会計などをしておりまして。私経由で、彼女の口座に振り込んでおりました」

「じゃあ、あなたの給料は……?」

「もちろん、その中から頂いておりました。経費などで使った分が主ですが」

 なんだ……。こんな顔してマスターもちゃっかりしていたんだな。

「今回からあなたが仕事をしていただけるとのことですので、ご希望とあらば報酬を振り込ませていただきますが。失礼ですが、口座を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 思ってもいなかったマスターからの申し出に俺は喜んで口座番号を教えると、うきうきの足取りで家路についたのだった。


お読み頂きありがとうございます。


今回のお話で使用した猿夢の内容は、実際にコピペなどで使われているものを若干改変しました。目にされたことがある方が多いとは思います。

改変といっても改行や誤字脱字などです。


こんな感じで、今後も実際に蔓延しているコピペを題材にしていきたいと思います。


次回もお読みいただければ幸いです。 


よろしくお願いいたします。


 羽栗明日

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