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目的探しの玄人学生  作者: 黒猫侍
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テキスト

その建物は外からエスカレーターに乗って2Fに上がると駅スペースとなっている。


今日も私は中心街からさほど遠くないとある駅で何気ないひと時を過ごしていた。


と言っても実益のある時間帯なんだけど。


高層マンションが立ち並ぶいわゆるベッドタウンと呼ばれる街の一区画にぽつりとその駅はあった。


少し前までは通勤通学の為の路線でしかなかった駅。


今では駅前再開発のおかげで駅とスロープで直結した小さな商業ビルが増築されている。


3m程のスロープを渡ると左右に5つのお店が並んでいる。


それぞれのお店はコンビニを二回り程大きくしたスペース。


内訳としてはカフェ・クリーニング屋・テキストショップ・民間の郵便配達ショップ。


そして私が働いている100メル均一のお店がある。


突き当りにあるエスカレーターを降りるとファミレスやちょっとした飲食店・コンビニ等のお店が5店舗。


1F2F合わせて10個のお店が並んでいる。


各店舗はコンビニを二回り程大きくした敷地面積。


それぞれのお店は全面ガラス張りでスロープを隔てた通路はレトロチックな洋風の造りになっている。


通路の間にはちょっとした観葉植物やベンチが置かれており、通路奥には近代的な身だしなみを整えること


もできるお手洗いが慎ましくある。


もちろん洗面台のセンサー式蛇口からは自動センサー式の温水が流れる。


そんなちょっとした近代的な商業ビルで私は大学に通う学生業の傍ら100メルショップのバイトをやってい


るという訳だ。


この100メルショップには色んな目的を持ったお客さんがお越しになる。


通勤通学の主要路線の駅ということもあって学生さんや社会人の方はもとよりお年寄りや主婦の方。そして


最近では外国から移住されてきた方まで幅広くシェアされている。


そんな中でも私にとって興味深い存在なのがいつも人気の少ない時間帯によく現れる一人の青年(大学生くらい?)だった。


彼はいつもふらりと現れては買い物をしていく。


彼は別段変な言動や毎回同じものを買うようなそぶりを見せている訳ではない。


彼はいつも1冊のテキスト(参考書)が入ったおしゃれな紙袋を片手に持ち歩いている。


それもいつも違う厚さのページ数の物だった。


私の住む世界ではテキスト(参考書)と呼ばれる文字や図解で構成された読み物が重宝されている。


なぜならテキストに書かれている項目を繰り返し黙読し実践することで誰でもスキルを身につけることが


できるからだ。誰でもという触れ込みではあるけれど。実際にはそうではなかったりする。


人によって得意不得意があるように。テキストにて習得できるスキルにも千差万別存在する為


習得に掛かる時間は良くも悪くも人それぞれ。


テキストは歴史上の人物が書き出した物から最近では著名人が書き出したものまで幅広く存在する。


主に日常生活で役に立つ身体能力を強化するものから炊事洗濯における裏技、社会人としての


ビジネスマナーや困った時に役に立つスキルまで幅広く創作されている。


主にこの世界では街中に存在するテキストショップで購入したり図書館で借りることが出来る。


より良いテキストは価格が高かったり図書館で人数待ちが続出していたりする。


テキストは薄いパンフレットの様な物から千ページ以上の物まで多岐に及び存在している。


又、テキストには必要な材料(物)・シチュエーション(状況)場合によっては暦や季節時間帯が決められており


その条件下にて実践を繰り返すことで所定のスキルを習得することができるのだった。


「いらっしゃいませ」


店の自動ドアが開き、1人の青年が来店した。


いつもの彼だった。


彼は迷いのない足取りで勝って知ったる自分の家の様に商品を手にとっていく。


そしてレジカウンターの前に立っている私に向かってそっと優しく商品を手渡しして


一言「お会計お願いします」とぼそりと告げた。


「あっ。はい。2点で216メルになります」


そっとポケットから黒猫の顔が描かれた正方形の小銭入れを取り出すとお釣りが出ないようにきっちりと


数え、そっと握り締めて私の顔の前に手を差し出した。


私は右の掌を差し出した。


彼は囲碁の碁石を置く様にふわっと私の掌に小銭を乗せた。


「はい。216メル丁度お預かり致します。レシートになります」


彼は私からレシートを受け取ると紙袋に入ったテキストの一ページ目に栞の様に挟み


私に向かって軽く会釈をした。自動ドアが開き彼は店を後にした。


彼がどこの誰なのか。名前すらもわからない。


ただ二つだけ分かることは彼は今日「大人用のシックなデザインの縄跳び」と「万歩計」を


買っていったことと売り場整理をしていた年配の女性社員の方が微笑ましそうにしながら


「いつもあなたがレジにいる時にだけ彼は来るわね」と言っていたことぐらいだった。


けれども私はそんな彼の人間性にどこか魅力を感じているのだった。



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