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REAL WITCH ~EXODUS~  作者: 山極由磨
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またまた残酷な場面があります。ご注意を。

 堅気の人間なら、まずこの場に立った途端、小便どころか大きな方までパンツの中に漏らしてしまうだろう。

 そう言う風景が、項垂れたサンオの前に展開していた。


 夢洲で、つまりは大阪で、早い話が日本で一番ヤバイとされる難民系犯罪組織『双頭の龍(DHD』の幹部四人が、あたりの空気をプラズマ化させんばかりの熱量で怒りたくっているのだから。


 夢洲のド真ん中に、どこから調達したかのか大量の鉄筋とコンクリートで作られた、ヒトラーもびっくりなバンカー(掩体壕)の内部に設けられた集会所には、組織のメンツに泥どころかクソを塗りたくった魔術師と、その魔術師を二度も取り逃がした幹部の始末を話し合う緊急幹部会が行われていた。


 まず、開口一発血も凍る質問を発したのは顔面全体に龍がのたくるタツゥーを施した男。


「で、サンオよ。てめぇまずこの場に生きて立ってることを間違いと思わなきゃいけねぇぞ」

「そうだ、この不始末、お前のクソみてぇな命だけでチャラに出来るとは、まさか思ってねぇよな?え?」


 ダメ押したのは真っ白なロングヘア―をドレッドにしたサングラス男。まるでミイラの様にガリガリの痩身だ。


「まぁまぁ、みんな、一回目は兎も角、二回目の襲撃失敗は、さすがに想定外だろうよ」


 助け舟を出したのは、銀髪ドレットの十倍はあろうかという禿頭の激デブ男。合うサイズの服が無いのか、龍のタツゥーに覆われた上半身を晒している。


「確かに、あの『新世界の大魔女』『通天閣の慧』が、柳瀬の味方に付いてるとはねぇ、そこまで読めって方が酷ってもんでしょ?」


 さらにサンオを庇ったのは、鮮やかな金髪に息を飲む美貌。黒革のビキニに同素材のニーハイブーツと言う過剰なエロさを放出する女。と、言いたいところだが、股間の盛り上がりは性別に対する判定を留保させるほどのサイズを誇る。


「申し開きはしません。あの武本慧が奴の味方に付いていたことを察知できなかったのは、俺のしくじりです」


 そう一同を見上げるサンオ。右の眼には真っ白い包帯が巻かれ、鮮血で染められている。


「おい、その目・・・・・・」


 顔面タツゥーが言いかけて息を飲む。


「敵の動きを見定められない様な眼は要らないと考え、潰して抜き取りました。片方を残したのは、しくじりの尻拭いを自分でしたいためです」


 相当痛むはず。証拠に顔面蒼白。しかし声色変えることもなくそう言ってのけるサンオ。

 一同、一瞬声を失ったが、白髪ミイラがやっと声を上げた。


「見上げた性根だ。だが、尻拭いしてぇっていうなら、作戦は有るんだろうな?ええ?」


残った左目で一同を見渡しつつ。サンオは


「目には目を、歯には歯を、魔女には、魔女を、です」


 そう言って、指を鳴らすと全身ずぶぬれの男が引き据えられてきた。

 アントニオに掴み上げられ、南港の冷たい海に叩きこまれた暗殺部隊の生き残りだ。

 そいつはサンオの足元まで這い寄ると、彼のコンバットブーツにしがみつき、つま先に額をこすりつけ泣き叫ぶ。


「ど、どうか、どうか命だけはお助けを、サンオ兄ぃ!」


 それをまるで汚物を眺めるように残った目で見下ろしたあと、振り向いて奥に控える何者かに目くばせを送る。

 間もなく、生き残りの殺し屋は跪いたまま後ずさると、涙声で


「ありがとうございます、兄ぃ!おっしゃる通りなんでもいたします!!」


 するとサンオはマオ・カラーのスーツの内ポケットから、ライナーロックのフォールディングナイフを取り出し、男の膝元に投げてよこす。

 それを拾い上げた男は、素早くブレードを起こすと、おもむろに自分の腹にそれを突き立てる。

 鮮血が床に迸り、灰色のコンクリを赤く染め上げみるみる内に血だまりができる。

 その中にボタリと生白い小腸が、男が開いた自分の腹に手を突っ込み引きずり出したのだ。

 グロいもんなら散々見飽きたはずの幹部連中も、これは流石に面喰い押し黙る。

 自分のはらわたを片手に捧げ持ち、生き残りは。


「兄ぃ!やりましたぜ、次は何をしたら・・・・・・あ、はい、そりゃ、もうお安い御用で!」


 言うなり今度はナイフを自分の左首筋に突き刺し、ゆっくりと前方にスライドさせる。

 頸動脈が断ち切れ、鮮血がまるで噴水の様に吹き出し、文字通り血煙を立てる。

 気管が切断され、空いた穴から甲高く空気の漏れる音が鳴り響き、それでも男は喜びに満ちた顔でナイフを動かす。

 ついに首を半周したところで前のめりになり、自分がぶちまけた血と臓物の中に倒れこんだ。


「こりゃ、一体・・・・・・」


 ミイラ男が息を詰まらせながら問う。

 それにこたえるようにサンオは。


「座間先生、皆さんにご挨拶を」

 

 呼ばれて現れたのは、真っ赤なロングヘア―を盛り上げるだけ盛り上げた頭に、薄情そうな吊り目、べったりとルージュが引かれた大きな口、エッジの聞いたエラ面。

 絶対に手を入れたに違いないグラマラス・ボディを、真っ黒いタイトなワンピースのロングドレスに包んだ女。その肩には、ドレスの装飾の様に黒いコウモリがへばりついている。


「DHDの幹部の皆様、こんばんわ、初めまして、魔女の座間沙羅沙と申します。以後、お見知りおきを」


 突然の展開に唖然としていた幹部連だが、百貫デブが思い出したように腹を叩いて。


「聞いたことがあるぞ、幻術使いの黒魔女、座間沙羅沙」

「流石、蛇の道は蛇ね。その通り、私こそが、心理魔法を使わせれば当代随一と呼ばれた座間沙羅沙よ」


 エロイネェさん(?)が前のめりになり、座間の四角い顔と、自分の臓物に突っ伏して死んだ男の両方を眺め。


「じゃぁ、こいつもあんたの魔法で殺ったわけ?」

「ええ、そう、ロノウェのペンタクルで認知力を低下させた上で、シャックスのペンタクルで自傷するよう幻覚を見せたってワケ。ちょっと生臭いプレゼンでしたけど、わたくしの実力が解っていただけたかしら?」


 互いの顔を見合わせる幹部たち。


「すでに奴らの行き先は京都の日本海側という事は掴んでます。満州に飛ぶつもりでしょう。船に乗る前に柳瀬の野郎をとっ捕まえます。座間先生の魔力と、俺の部隊の総力を挙げれば幾ら相手が大魔女でも勝算はあります」


 サンオの言葉にダメを押す形で座間。


「あの大罪人の小娘、物理魔法や生物魔法には長けてるだろうけど、心理魔法なら私の方が一枚上手。心理戦なら、あんな毛の生えそろってない小便臭い小娘なんかに負けるわたくではありませんわよ」


 顔面タツゥーが口を開く。


「なるほど、実力のほどはまぁ、信用しよう。さて、問題はお礼のほうだ?幾ら御所望かね?魔女先生?」

「柳瀬を取り戻せたら稼げるはずのクローズドバトルで稼げる一か月分」


 ミイラが肩をひくつかせて笑い。


「あんた、そりゃ、フッかけ過ぎだぜ、あのシノギの一月の上りっていやぁ一億二億の世界だ」


 対して、座間はその大きな口を笑みで歪め。


「ま、本当はそれくらい頂戴したい所だけど、今回は売り上げ一か月分の5%でよろしいわよ。あの『新世界の大魔女』『通天閣の慧』って呼ばれていい気になってる小娘をぶち殺せたら、私の魔女としての名声は絶大になるわ!」


 また幹部四人がお互いの顔を眺めあった後、顔面タツゥーが言った。


「オーライ、了解した。サンオ、テメェに最後のチャンスをやる。満州に渡っちまったら、俺たちじゃ手も足も出ね、何が何でも奴のガラ(身柄)を押さえろ!」


 深々と頭を下げ、押し殺した声でサンオは答える。


「ありがとうございます。必ずや命に代えても」

「期待通りの仕事はさせてもらうわ、みなさん」


 盛大なバストをそらし、四角い顎を上げ、自信満々に座間が答えると、肩にしがみついたチスイコウモリが鋭い牙を剥き甲高く鳴いた。

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