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REAL WITCH ~EXODUS~  作者: 山極由磨
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 頬をパンパンに腫らし、わき腹を左手で押さえながら、柳瀬は巨大胎児とバオガイと呼んだボルゾイもどきがすっぽり入るペンタクルを書き上げる。

 自然治癒力を高め、怪我や病の回復に効力を発揮する精霊ブエルの紋章に、火星第二のペンタクルを組み合わせ、魔法を強化する目的なのか土星第三のペンタクルもあしらってある。オリジナルのペンタクルの様だ。

 それから、「さぁジーロウ、手伝ってくれ、バオガイとダーハイズをこの中に入れるんだ」と、オラウータンモドキに呼びかけ、まずバオガイをペンタクルに引きずり込む。

 柳瀬は頭を持ち上げるだけ、主にバオガイを引きずるのはジーロウ。見た通りのバカ力だ。


「同じ目的のペンタクルと魔法強化のペンタクルを組み合わせてブースター効果を狙うかぁ、流石、日本最大の魔法結社『天智学会』の権魔導師やなぁ、魔導師の補佐役言うても、町居の安モン魔術師とはちょっとちゃうな」


 一応誉める中身だが、完全に上から目線の言葉を吐いた後、何か思い出したようにガーネットの瞳で暗い天井をちょっと眺めた慧は、いたずらっぽいニンマリ笑いを浮かべつつ、ジーロウと共に額に汗して巨大胎児、ダーハイズをペンタクルに運び込む柳瀬の耳元まで近づき。


「『天智学会の柳瀬』で思い出したけど、あんた前の事務局長、柳瀬瑞寛の息子やろ?確か三男坊やったかな?出奔したとは聞いてたけど、まさかこんなところで会えるとはなぁ」


 一瞬身を強張らせる柳瀬。だが無視を決め込み二体の間にしゃがみこんでボソボソと詠唱を始める。


「法の霊樹によりて将来せし汝『精霊の長・ブエル』よ、我の求めに応じ我に力を与えよ」


 おそらく、二体の体内で代謝が活性化されているのだろう、筋肉がヒクヒクと痙攣し、体温も上昇してかすかに蒸気が上がっている。蒸れた体液の匂いが、慧の鼻を刺す。


「ここまでしても動けるようになるには一晩は有にかかる。『クローズド・バトル』でもこんな酷いダメージは受けたことは無かったのに、君、あの武本東洋の娘だろ?知性を持った使い魔といい、ダーハイズをアッサリ倒した技術といい、さすが稀代の大魔術師の御令嬢だ。おまけに極悪非道なところもそっくり、国家転覆を目論んだ極悪人の血を引いてる分だけある」

「お父ちゃんが極悪人やて?さすが世間知らずのボンボンやな」


 そこまで言って柳瀬の背中を思い切り蹴り上げた。


「なんも知らんくせにいっちょ前のこと抜かすなこのボンクラが!話は反故や!この場で速攻たたっ殺したる!」 


 背中の痛みのあまり転げまわる柳瀬を踏みつける慧。

 十歳以上年上の筈なのに抗えない。凄まじい力と怒り。 

 あのカオナシがピーピーと泣き出し、ウサギ人間が「こわいよいやだよいたいのいやだよおとうちゃまたたかないでおねがいいたいのいやだよ」とまたやりだす。


「慧ちゃん、お父ちゃんの事言われて腹立つのは解るけど、うち等の治療・・・・・・」

「ああ、そうだ慧、頭冷やせ、これ以上踏み続けると奴の口から内臓が出ちまうぜ、今殺っちゃマズイ」


 またもやネコとカラスに諭され足を引っ込める慧。

 腹いせに工場のスレートの壁を蹴り上げる。ボカリと彼女の靴のサイズ通りの穴が開き、外の光が差し込んだ。

 巨乳とエルフ耳が驚いて小さな悲鳴を上げた。


「『クローズド・バトル』ちゅうことは、あんた、夢洲でこいつ等を作ったんか?DHDダブル・ヘッド・ドラゴンか?」


 何度も深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせた後、慧が尋ねる。

 切れた唇から流れる血をぬぐいつつ、今度は虎鉄やアントニオの為か、小さめのペンタクルを書きながら。


「そうだ。奴らに命じられてこの子らを作った」

「食うに困ってか?情けないなぁ。与党の代議士も頭を下げる大魔導師の御令息が、食わんが為にによりによって難民ギャングの下でキメラづくりかいな、落ちぶれたもんやなぁ、親御さんが聞いたら恥ずかしいて自殺するでぇ」

 

 慧の嘲りに肩を震わせチョークを握りしめつつ柳瀬は呻くように。


「違う!僕は難民たちの為に、夢洲に渡ったんだ!」


 興奮のあまりチョークが砕ける。オリジナルサイズに戻った虎鉄がつぶやいた。


「兄ちゃん、うちらの事治してくれるんちゃうん?」


「切っ掛けは『天智学会』ボランティアで難民たちの医療支援していた時だった。その時僕らの活動を熱心にサポートしてくれる大陸系難民のスタッフが居て、彼女から難民たちの悲惨な現状を教えてもらって、月に一二度夢洲に入って医者の真似事する程度じゃ、彼らの窮状を救えないと思って、単独で夢洲に入るようになって・・・・・・。しばらくしたら、父から僕が大阪警視庁にマークされてるて・・・・・・彼女は難民系武装組織のメンバーだって。僕はただ、自分の力で難民たちを助けたかっただけなのに・・・・・・」

「ほんで、居場所が無くなって夢洲に逃げ込んだ。あのなぁ、自分、キッチリ型に嵌められてるで、その女、DHDの差し金や、最初からキメラやらホムンクルスづくりにたけたあんたを夢洲に引きずり込むために仕掛けてきたんやわ。間抜けやなぁ、絵にかいたようなド間抜けやわ、救いようがないなぁ」


 腹を抱えて笑う慧を横目で睨みながらも、柳瀬は二つのペンタクルを完成させる。

 自らその中に入ったノーマルサイズのアントニオは、羽をバサバザと羽ばたかせ。


「お、なんか体が軽いぞ、頭の傷も痛まなくなった。やるなあんちゃん」


 チョークをパーカーのポケットに仕舞い、


「ああ、君の言う通りマヌケだよ僕は。気付いたころには奴らの犯罪に手を貸し、何百体も可哀想なキメラやホムンクルスを作らされた。作っては殺され作っては殺され、みんな、むごい殺され方をした。もう、殺されるための命作りは嫌だ。だから、逃げた。この子らを連れて」

「ああ、ナルホド。あの先だっての騒ぎは自分がやらかしたんか」


 慧の顔に、蠱惑的な笑みが浮かぶ。


「ギャングやら客やら入れたら、二三百人はくたばったらしいやんか、そんだけ殺しといて、殺されるだけの命作りは嫌やて?なぁ兄ちゃん、ここ笑う所か?」

「命を弄んで金を稼いだり遊んでる奴らだ。当然の報いだよ」

「言うてることはいっちょ前やけど、どうせキメラが暴れるように仕組んでそのすきにトンズラしたんやろ?自分は体張らんと、作ったキメラを犠牲にしたんやったら、あんたもDHDのギャングどもと大して変わらんやん」

「『ピンインシャン』も『ドゥヤンシニョン』も、自ら犠牲になってくれたんだ・・・・・・。自分たちは大きすぎるから、逃げだすことはできないだろうって」

「へぇ。意思疎通も出来るんや、益々大したもんや、まぁ、ちゅうてもやなぁ、強制でも自由意志でも死なせたんには違いない。結果はギャングどもとやってることは一緒や」

「そんな事!君に言われたくな・・・・・・」


 そこで柳瀬は口ごもる。慧が彼を蹴り上げようと脚を上げていたからだ。


「で、これからどないするんや?」 


 柳瀬を見下ろしつつ慧。

 ハッと見上げた彼だが、言葉が出ない。


「あんだけ派手に殺しまくってやで、DHDのシノギもワヤにしてもうたんや、おかげでポリさんにもギャングにも追われる身や、最低でも日本に居るところ無いで」

「・・・・・・船を雇って、みんなで海外に・・・・・・」


 呆れえてモノが言えなくなった慧に代わって、羽を繕いつつアントニオ


「で、兄さん、海外に飛ばしてくれるツテはあるのかい?」

「ツテはあったとしてや、飛んだ先でもDHDの追手はまちがいのうかかるでぇ、相手は夢洲最大級の難民系犯罪組織や、大陸やら東南アジアの裏社会とも繋がりはある。マズ逃げられへんのちゃう」


 と、虎鉄は追いかけるように言うと、柳瀬の書いたペンタクルの上で気持ちよさそうに伸びをする。

 オロオロと一羽と一匹を見る柳瀬。


「この国の近所に、警察もギャングも、諜報機関でも追いかけられへん場所があるで」


 慧は尊大に腕を組み胸をそらせ、愉快気に言い放った。


「世界に現存する最後の密室、満州人民共和国や」


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