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REAL WITCH ~EXODUS~  作者: 山極由磨
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 通天閣の足元に広がる新世界。その真っ只中にある、昔のスナックビル丸々一棟を魔女の武本慧(たけもとけい)は自分の庵室(あんじつにしていた。


 庵室というのは魔術師や魔女の根拠地、早い話が仕事場の事だ。


 スナックビルだった当時は男か女か区別のつかないママがスナックをやっていた一階を、受付兼事務所にしていて、今日もなじみの客である不動産屋の森本が、外観からは想像もつかないほどダークにしてロココな調度に囲まれつつ、


「先週の難民地区の騒動、ものごっつかった見たいなやぁ、機関銃の音、ミナミまで聞こえとったみたいやで、行きつけのスナックのママが「まるでPLの花火大会みたいやった」言うてたわ、慧ちゃん、なんか知ってるか?」


 そうたずねた後自分が注文して持ってこさせたアメリカンをすする。

 大国町の国道二十六号に面した雑居ビルに事務所を構える古手の業者で、借金のカタとして差し押さえられ、裁判所が競売に掛けた物件を主に取り扱う事を得意とするホンマモンの海千山千、縮れ気味のごま塩頭、シルバーフレームの遠近両用、紺色ブレザーにグレンチェックのパンツという大人しげな人相風体に似合わぬ骨の髄までの商売人ってヤツだ。


 そのオッサンの目の前で、ソファーの上であぐらをかき座る少女がこのビルのオーナ。慧だ。

 黒いレースのネグリジェの裾から、アングロサクソンとのハーフ特有の白磁に似た肌の長い脚を惜しげも無く晒し、膝の上に載せた三毛猫の物憂げに撫でながら、生クリームを浮かせたココアを一口飲んだあと、スッと高く通った鼻の下に白いクリームのヒゲを残しつつ。


「キメラ同士を銭賭けて殺し合いさせるバクチの最中で、そいつらが逃げ出してかなりの数の客を殺ってもうたみたいやな、ほんで慌てたギャングらが始末に困って重機関銃で撃ち殺したらしいわ、コレ、知り合いの魔術師の情報」


 と、小さな口から舌を出し鼻下のクリームヒゲをペロリと舐め取る。

あからさまにコケティシュなその仕草に、いささか干上がりかけている六十路半ばのオッサンもドギマギするが、イヤイヤ!この子は十四の未成年、その上ヤクザもビビリお上も一目置く大魔女だと思い直しつつ。


「へぇ、ホンマかいな!あそこでそないなゴツイ博打やってて、こっちからもだいぶ遊びに行ってる言うのは聞いてたけど・・・・・・。そやけどそんな所で遊んでて騒動に巻き込まれて死んでしもうたら言うていく無いな」


「行ったらアカン言うてるところに自分の勝手で行って、くたばったんやったらそれこそ自己責任や、バクチ以外にもキメラやホムンクルス相手にイロイロ人様には言えん遊びをさせてたみたいやから、まぁバチ当たったみたいなもんやろ、そやから大阪警視庁もまともに捜査はせんみたいやで、デコ助も暇やないちゅうこっちゃ、なぁ虎鉄」


 ガーネットに似た赤い瞳の大きな目を愉快げに細め、膝の上の三毛猫に言う。


「そやそや、動物虐待するような奴は地獄に落ちたらええんよ、森本はんも、奥さんと喧嘩した後で飼うてる犬に八つ当たりしたらあかんよ」


 彼女のたおやかな指の心地よさに全身を緩ませながらその猫は答える。


「何言うてんねん虎鉄っちゃん、ワシはタロウに慰められてる方やで」


 そう答える森本に被せるように、慧の後ろに立つこれまたダークロココな止まり木の上で羽を繕いつつ夜のように真っ黒い一羽の烏が言った。


「ほぅ、それじゃぁ何か?若い雄猫のケツを追っかけまわしてうつ病に追い込むのは虐待じぇねぇのか?このオカマ猫」


「何言うてんのアントニオ!あんな可愛らしい子、ほっといたら天王寺公園あたりの性悪メス猫に玩具にされて、悪い病気もらうのが目に見えてるやないの、そんなことになる前に、ウチがちゃんと教育したげよってしてるだけ」

「それは教育とは言わねぇ、ただのストーカー行為だ」


 猫と烏の不毛な言い争いを放って置いて、慧は森本に切り出す。


「で、ウチに頼みたい事ってなんなん?」


 ハッと我に返った森本は、使い込んだダレスバッグからクリアファイルを取り出し彼女の前に置いて見せ。


「この前買うた平林の競売物件なんやけどな、どうもどこぞのアホンダラが魔法で占有しとるみたいなんや」 


 彼の話を要約するとこうだ。

 以前から有る大手建材販売会社の依頼で大阪市内の大きな土地を物色していた森本だったが、裁判所が競売に出していた物件のなかにめぼしい物を見つけ入札に参加。首尾よく競り落とすことに成功した。それが大阪湾岸の平林にある貯木場に面した土地だ。


 元々は木材の輸入会社があったが多額の負債を抱え倒産、債権者が裁判所に差し押さえを申し立て競売に掛けられる羽目になった。それを見事に森本が落としたというわけだ。

 所が・・・・・・。


「最初の物調(物件調査)の時はちゃんと行けたんやけど、この前コボチ屋(解体屋)連れて見に行ったら、どこをどう走っても物件に着かへん、カーナビ通りに行っても肝心の物件が見つからへん、ちっちゃい戸建の家ちちゃうで、ごっつい土地や見つかれへんハズなんかない。そやけど走っても走ってもたどり着かんのや。これ、絶対に魔術師の仕業やろ?」


 クリアファイルに入っていた地図や物件詳細書、現状報告書、評価書などをコーヒーテーブルに並べつつ、腕を組んで睨んでいた慧は、上目遣いに森本を見つめ。


「おっちゃん、とうとうアルツハイマーでも来たんちゃうか?」

「アホ言いないな!いくら耄碌しても仕事が絡めばシャキっとするわいな、それにコボチ屋も一緒に来とって同じ目ぇに遭うとんねや」


 必死に手を振り否定する森本に蠱惑的なイタズラ笑いを見せつつ「冗談屋やん」と言って見せ、そのあとふっと眉を潜め。


「確かに、フォラスの魔法を使えば出来んことはない。自分を相手から認識させん様仕向ける心理魔術やから、実際はちゃんと現地に着いてても、おっちゃんやコボチ屋はそれを認識でけんから永遠に到着でけへんのや。そやけど、おかしいなぁ?魔法で競売妨害するんやったら、土地に入った途端病気になる様にマルバスを使うとか、ビフロンを使って悪霊を取り付かせるとか、如何にも土地が呪いをかけられてる様に見える魔法の方がええ思うんやけどなぁ、つまり民法で言う『超自然的瑕疵』って奴や。そやけど、この場合はほかの人間が物件に近づかれへん様にする事を目的にしてる」


 そう言った切り「う~ん」と考え込んでしまった彼女に、森本はしびれを切らせ。


「なぁ、どないかならんか?期限までに建物ゴボシて引き渡さんとワシ首くくらなならん」


 途端に慧はカッとオッサンを見据え。


「よっしゃ、何とかしたるわウチに任せとき」


 そして今度は片頬を愉快げ笑いで歪めながら。


「所で、その物件、ナンボで売ったんや?」

「コボシ代別で一億一千万」

「そなやぁ、それやったら着手金込で二百万でどないや?ウチとオッチャンとの仲やこの際安うしといたげるわ」


 報酬額をいきなり切り出され、天井を向いてしばらく暗算していた森本だったが、ちっちゃなため息一発漏らし。


「ネットの二%か・・・・・・。まぁ、しゃぁないな。あんじょう頼むわ」

「ほな、契約成立やな。早速明日にでも片付けに行くわ、どこのアホンダラか知らんけど、ウチに掛かったら秒殺や、大阪湾丸太抱えて一周させたる」 


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