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濃厚な潮風がホテルの敷地に広がる松林をざわつかせる。
すっかり陽が落ち、闇があたりを覆いつくす頃、岬に蓋をするように張られたホテルのフェンスの前に、数台の車が止まった。
そして、中から現れたのは、あの白丁の仮面を被った集団。手にはよく整備されたカラシニコフ。
車列の中の一台。軽トラの荷台にかけられたほろが外されるとそこから現れたのはDShk38重機関銃。星明りを受け、禍々しく黒光る。
一団を背後に控え、右目を包帯で覆ったサンオ。背後に立つ香水くさい座間に
「中に居そうか?」
ここからでは地形の起伏や松林でホテルの建物は望めない、ただ座間は真っ赤な唇を残忍気な笑いで歪ませ。
「ええ、居るわよ、確実に、柳瀬のお坊ちゃんと、クソメスガキの気配がするわ」
そして、傍らの男が捧げ持つ鳥かごの扉をあけ放ち中の生き物に囁いた。
「さぁ、小さなバンパイヤちゃん。行ってらっしゃい」
呼びかけに答え、小さな生き物が籠から這い出る。
上に向いた歪んだ鼻を小刻みに動かすと、翼手を広げ己と同じ色の漆黒の夜空に吸い込まれていった。
それを見届けたサンオは、羽織っていたM65を脱ぎすてる。
その下には、何個ものマガジンを収め、大量の手榴弾をぶら下げ、長大なボウイナイフを括り付けたたブラックレザーのハーネス。
自分の得物であるロシア製小型アサルトライフル、SR-3Mのボルトを引き、初弾を薬室に送り込む。
部下がそれに習い一斉にボルトを引く。背筋が凍るような金属音が夜空に響く。
「じゃぁ、兄弟。借りを返しにもらいに行こうか」
その言葉が号令となり、武装した男どもはフェンスに向かってゆっくりと歩き出した。
ホテルの中ではウーリャンが、あの騒がしい警戒を派手に発していた。
トゥーニャンとジャオロをジーロウにぴったりくっつき、チャンニーとメイメイは柳瀬の背後に隠れた。
偵察から戻って来たアントニオが窓からロビーに入ってくる
「来たぜ、フェンスのあちらこちらに穴をあけて、一列横隊で敷地に入って来た。まるで昔の戦列歩兵みたいな、それにあいつら何考えてるかしらんが、ダッシュKまで持ち込んでやがる。」
「重機関銃やんか!うちら対策かなぁ。もぉいややわぁ」
そう身をよじらせつつ、巨大化してゆく虎鉄、アントニオも音を立ててその姿を変えてゆく。
「フン!兵力を薄く展開して、うちらを囲い込み、半島の先っぽに追い詰める作戦やな。松林を遮蔽物にしてジワジワ接近するつもりやろ」
そう愉快気につぶやくと、慧は虎鉄、アントニオ、そして柳瀬に命じる。
「林の中にはうちの仕掛けたトラップがあるから、虎鉄と犬モドキとゴリラもどきは、グランドゴルフ場で待機して、それが撃ち漏らした残敵の掃討をしてもらうわ、アントニオ、あんたは重機つぶして、破壊力も射程もあるあれにいつまでもあられると不味いし、なんかの魔法で消音はしてるやろうけど、跳弾で近所迷惑や。それと、ほかの役にたたんのは一番奥の大浴場へ避難、オラウータンもどきはいざいうときの最後の防衛戦力や、覚悟しいやぁ!」
と、慧に睨まれたジーロウは身を縮め目に涙を浮かべる。
慧はすっかり興奮し、鮮やかなバラ色に白磁の頬を染め、煌々と輝く赤い瞳で一同を見渡し宣言した。
「さて、柳瀬御一行様、この旅最後で最高のアトラクションの始まりや!楽しもうや無いの」




