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大阪駅三番ホーム。
シーズン終盤を迎える日本海のカニを目当てにした観光客が、お行儀よく、しかし賑やかに列車の到着を待つ中で、その一団の姿はいささか異様だった。
先頭のスタンドカラーのスーツに黒いM65を羽織った男は、サングラスの下の右目を白い包帯で覆い、表情を読ませない。
彼に従うように整列する男共も、一様に黒いパーカーやジャージを身に着け、手にはこれも揃ったように大きなボストンバッグ。
中には、ペリカン社製の巨大なコンテナや重たげな釣り竿ケースを背負う者もいる。
そして、皆一様に盗み見るように周囲に視線を走らせ、まるで何かを警戒している様だ。
この、黒一色の集団の中で、ただ唯一色彩を持つのが一人の女。
燃えるような赤い髪を、広大なつばをもつ紫色の帽子で多い、見ただけでくしゃみが出そうなミンクのコートの下は、ニシキヘビの模様が型押しされたレザージャケットとスリムパンツ。
背後に従えた黒いジャージの男は、これまた黒いレースの覆いの掛かった鳥かごを持たせている。
やがて、特急こうのとりの白い車体がホームに滑り込んでくる。
到着を告げるアナウンス、開く扉、まるで軍隊の隊列のように整然と乗り込む一団と、鳥かごの男を従え、ふんぞり返って指定席車両に入っていく女。
それぞれの懐に入ったチケットの行先は『宮津』
柳瀬とキメラたちが菓子パンとカップスープの朝食を摂っていると、スマホを片手にした慧が大広間にやって来た。
「腹は括ったんか?」
いきなり降って来た彼女の問いに、柳瀬はランチパック・ツナをのどに詰まらせる。
「今朝、業者から電話が有って、先方の受け入れ準備は整ったそうや、DHDの動きが読めん今、チャンスはこれっきりや思うといた方がエエで」
缶コーヒーを一口飲んで、詰まりを流し込むと、柳瀬は。
「もう、考える時間はないのか?」
「時間はあるで・・・・・。あんたの可愛い可愛いキメラやホムンクルスが、DHDの奴らに嬲りモノにされるのを眺めながら、自分の優柔不断さについて考える時間やったら、なぁ」
缶を握りしめ畳を睨む柳瀬、チャンニーとメイメイが擦り寄り、そろって彼の肩を抱く。
暫くして。
「解った、満州だろうが何処だろうが、行ってやるよ」
「よっしゃ、そうと決まれば明日の早朝にも迎えに来てもらお、舞鶴に停泊してるロシアの材木運搬船が満州まであんたら一行を連れてってくれる予定や、今日の夜出港して、明日の早朝にはこの沖に来よるから、そこまでゴムボートで運んでくれる。荷物の支度、しときや」
そう言い放つと、畳の上に並べられた菓子パンの山からジャムパンとチョココルネをつまみ上げ、スマホに向かって驚くほど流ちょうなロシア語で話しかけながら大広間から出て行った。
陽が日本海に沈まんとしているまさにその時。自慢の毛並みをグシャグシャに乱した虎鉄がホテルに息せき切って駆け込んできた。
「け、慧ちゃん!えらいこっちゃ!」
昨晩の豪勢なメニューと打って変わって、出発前の片づけを考え宅配ピザ済ませていた夕食の最中。
マルゲリータをコーラで胃の中に流し込むと慧は。
「どないした?」
「峰山駅前のレンタカー屋で、見慣れん野郎の集団が1BOXやら軽トラやらを何台も借りに来てたのを、近所の野良猫が見とったわ、時間は今日の昼ぐらい」
ピザを囲む者の中で、事態の不味さを理解できたのは慧と柳瀬のみ。他は口と手を動かし続ける。
手に取ったパラペーニョとチョリソーのピザを床にベチャっと落とし、柳瀬は顔面を蒼白にし。
「奴らだ・・・・・・」
「高速には目ぇ光らせてたはずやのに、どないして来たんや?」
「電車だよ電車」
慧の問いに答えたのはアントニオ。彼も黒羽を乱していた。全速力で飛んできたのだ。
「地元のカラスから聞いた。峰山駅に黒装束の野郎どもが三十人ばかし、手にはでかい荷物。中には女も居たそうだ。たぶん魔女を雇ったんだろう」
「なるほど、警戒されてる高速を避けて電車で峰山入り、そこからレンタカーを使うかぁ、クソ!目ぇ擦ってもうたなぁ」
悔しそうに苦笑いする慧に、柳瀬は
「まさか、ここももうバレてるのか?」
「そない思うても間違いはないやろ?陽が落ちたら一気に攻めてきよるで、賭けてもええ」
紙ナプキンで手をぬぐい、スッと立ち上がると満面に不敵な笑みを浮かべ、柳瀬を見下ろし。
「ま、明日の朝まで凌ぐか、来た奴らを皆殺しにしたらそれでオシマイや。そのために万全の備えもしたぁる。今度はアンタのキメラ共にも働いてもらうで」




