一
作戦通り、全てが掃討されたのかは未だに不明だ。しかし、最後の銃声が木霊して三十分近くは経っている。
広大な研究所を兼ねる工場を前に、閉ざされた扉の向こう側でどうなったのか、スコットも気にならないわけでは無かった。突入開始からすぐに仲間達の陽気な無線での報告が聴こえて来た。ゾンビのように理性を失った研究員に守衛、作業員などの人々が、襲い掛かって来たのだという。これも依頼主であり施設の持ち主であるワニヤ博士から事前に聞かされていた殲滅対象だった。そして研究所で開発されていた理性を持たぬミュータントも掃討の対象だった。こいつらは体内にウィルスを秘めていて、噛みつかれた際に唾液と共に相手に流れ出て感染させるのだという。ゾンビのように成り果てた人々こそがそこから感染した犠牲者達だった。
最初こそ、乱れ飛ぶ弾薬の音と、楽しむ様な声が、突入したチーム、カトレア隊と、ユメノ隊からは聴こえていたが、今は御覧の通り、静寂が辺りを覆っていた。
後ろではメンバーの紅一点、通信係のユキが幾度も幾度も無線に問い掛けている。やがて彼女は根を上げて言った。
「隊長、誰も応じる気配がありません」
鍛えこまれた屈強な身体をつきをした隊長のバッカスはそれまで沈黙を守っていたが、持ち前の鷹の様な鋭い目でこちらを振り返って言った。
「スコット、ゴメス。行ってくれ」
ようやく出番か。
スコットはいつもの様にニヤリと微笑み返したりはしなかった。連絡の途絶えた仲間達のことが心配だった。陽気なのも大人しいのもいる。だが、共に訓練し、任務に励んで来たそんな仲間達はスコットにとって家族も同然だった。
ハンドガンにショットガン、それぞれの弾薬にナイフを確認する。
その肩に大きな手が置かれた。
相棒のゴメスだ。自分よりも十歳も年上のこの男は、隊長のバッカス同様にその腕は丸太のようになった逞しい筋肉の塊だった。気の良い彼は励ます様に笑った。
「焦るなよスコット」
「ああ。肝に銘じておくさ……」
二人は並んで研究所の閉ざされた入口へと歩んでゆく。
二人は頷いた。スコットがハンドガンを構え、ゴメスが扉を開け放った。
ゴメスの筋肉の賜物か、見た目ほど重くなく扉は開いた。スコットが銃を向ける先には長い廊下が続いているだけだった。だがすぐに異臭が鼻をついてきた。何か化学物質のにおいがする。
「こんな中をよくも奴らは楽しんで行けたな」
ゴメスが呆れたようにそう言い、殲滅対象を逃さぬ様に後ろ手に扉を閉めた。