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 最上階で正門から見て右手の最奥に位置するもはや誰にも使われていない教室たちのさらに奥にあるという文面でも理解しにくい場所にある元生徒会室の一角。

 俺の目の前には二人の変人がいた。

 一人は男なのに女っぽい杉田電福こと電ちゃん。ほっぺたがチャームポイント。

 もう一人は部長。艶のある黒い髪をツインテールで束ね、柄入りのピンクのメガネをして、指定のブレザーの下にパーカーを着るという違反を犯している自称絶世のメガネ美女だ。本名は蒔鴉(まくあ)(こおり)

「毎回思うんですけど……」俺はおもむろに口を開いた。

「なんで一年の時から部長さんは部長なんすか?」

 俺の疑問は最もなはずだ。この部活にはあと二人所属しており彼らは上級生なのだが、いつも指揮をとるのは何故か部長なのだ。理事長の孫だから、という訳ではないだろう。

 メガネに反射する光がきらりと輝いた。

「あーそいえば、南絲ないとクンは編入してきたんだっけ?」

 俺は低めに頷く。

「なんでって言われてもねぇ。ただワタシが強いってだけなんだけど」部長はツインテールの先をいじりながら答えた。

 ちょっと理解できないかな。うん、まったくワケワカンナイ。

「後になればわかるぞ」と、電ちゃんが諭してくれた。後になれば、って悪霊退散のときかな?

「確かに今のままじゃわかんないよねぇ。……ま、電ちゃんの言う通り後になればわかるし、南絲クンの実力も知れるし、一旦その話は置いとこうよ」

 先程も述べたが俺は部長に頭が上がらない。なのであの人がこう、と決めたら従うしかない。俺は大人しくその話を置いとくことにした。

 部長は爽やかな微笑む。脅迫とか威圧感があるわけでもないのにやっぱり逆らえない。ほんとなんでだろ。

 ふと前を見れば電ちゃんがくしゃみをしていた。可愛いからすべて良しとしよう。……いや言いたいことたくさんあるんだけどねっ!

「それで今日向かうのは古びた廃校的なサムシング!」部長はびしっと明後日の方向を指さした。サムシングじゃなくてサムウェアの間違いじゃないのかな。だって場所だし。

「そこで悪霊退散をやっちゃいま~すっ☆」

 語尾の後にキラリンと星のマークが飛び出した。文面ならではのテクニックだ。

「メンバーはワタシと電ちゃんと南絲クン!」「ボクをその名で呼ぶな!」

 電ちゃんの抗議の声が上がる。ああ、癒されるなあ。

「そうと決まれば早速、突入だぁ~!」

 なんの説明もせず部長は駆け出してしまった。柑橘系の香水が後から漂ってくる。はぁ、と電ちゃんはため息をついて、

「ほら、ボクたちも追うぞ。まったくあの人はいつも……」

 ぶつぶつ言いながらゆったりと足取りで歩き始めた。

「なあ」

 電ちゃんと肩を並べて歩きながら話しかける。

「む?」

「悪霊ってホンモノの悪霊だよな?」

 当然とばかりに頷く電ちゃん。綺麗な黒髪がたなびく。

「当たり前だ。南絲は知らないと思うが、ボクたちは中学の頃からこういうことをやってきたんだ」

 ふむ。知っている。その噂を聞いてわざわざ編入してきたのだから。だが、昨年は悪霊とかそういったものに出会えなかった。だから今回こそはモノホンの悪霊さんに出会いたい。出会ってぶっ殺したい。神殺しの第一歩として。

「だから、昨年まったく出会わなかったのが不思議でならない」

 電ちゃんは、うむむと小首を傾げた。

 毎年出会ってきた悪魔とか悪魔とか負のモンスターに、昨年だけ出会わなかった。きっとそこには理由がある。そして俺はその理由を知っている。

 妹の有沙(ありさ)が自称神に連れ去られたのが四年前。当時の俺は怒り狂っていた。

 俺と電ちゃんは無言で目的地まで歩く。

 憤りで拳を握れば爪が掌につい込む。虚無感で脱力すれば一週間は水だけで生きていられる。悲しみで泣けばおもらししたみたいなシーツができる。俺は、腐りきった生活をしていた。

 だが、この生活に罅を入れた現象がある。妹が居なくなってから一ヶ月がたった頃だろうか。俺の部屋は妹の私物で溢れていた。……い、いや、別にいやらしいことを考えていたわけではないぞ。ただ寂しかっただけで、物でも妹の存在を感じれるかもしれないとかそういう想いがあってのことだから!

 突然、白く淡い光が部屋の中に生まれた。俺は神の野郎がまた来たと思って戦闘態勢に入ったのだが、しかし光からは誰も現れない。いや、それどころか俺の部屋の物を吸収していってやがる。それも妹のだけ。

 すぐさま止めようと思ったが如何せん人類外の力が働いている。俺は何もできずただ妹の下着をしっかり抱えるだけ。ちなみに変な意味はない。たまたま下着が近くにあったからだ。

 目の前が真っ暗になり呼吸が浅くなる。また負けるのか、ほんとに何もできないのか。そんな想いが胸の中で燻る。

 せめてもの救いは光が途中で消えてくれたことだろうか。一度にそんな多くは吸収できないのか、何個か奪いさったところで光は消えた。それからも一ヶ月に一度の頻度で光は訪れ、俺の夜のお供……ゲフンゲフン妹の私物は奪われていった。

 そんなことが三年続いた。もう俺の手元には妹の下着もとい私物は一つもない。

 このことから何が言えるのか。おそらくだが妹が自分の私物を持ってきてくれ、と神に頼んだのだろう。アホな神はそれにほいほいと従い完遂した。きっと頭なでなでぐらいはされたのだろうか。絶対に許さない。ぶち殺す。

 とにもかくにも三年で終わったのだ。だから、きっと神様も上機嫌になって負のモンスターを倒してくれていたのだろう。というのが俺の見解だ。あれ違う?

 ああ、すまない。深く話過ぎてしまった。ほとんど無言のまま目的地周辺についてきしまったようだ。

 部長はわかりやすいところにいた。

「おー、こっちこっち~」

 両手を頭の横でにゃんにゃんと手招きしてくる。あなたは猫だったんですね。なるほど納得できない。猫って柄じゃないでしょう、あなたは。

 目の前にそびえ立つのは今にも崩れ落ちそうなビル。ねぇなんでこれ取り壊されてないわけ。残したの絶対にわざとでしょ。

 中に入ると埃が舞い上がる。止まっていた空気が動き出す。薄汚れた灰色の壁、罅割れた窓ガラス、疎らに配置された机や椅子。どうやらここはオフィスのようだ。

 俺たちは無言で歩みを進めていく。

 機能していないエレベーターを通り過ぎ、さらに奥へと向かう。部長曰く、奥から嫌な感じがするらしい。素晴らしい索敵スキルだ。

 生暖かい風が背筋を舐めるように吹いた。どこかの水道管が破裂しているのか水が溢れびっしりと苔が生えている。じめりとした湿度に鳥肌がたつ。不気味なほどまでに閑散とした空間にローファーの地を踏む音が響きわたる。電気は死んでおり光源は外からの光のみ。だがそれも奥へと行けば行くほど少なくなり、代わりに闇が濃度を増していく。

 角を曲がると、割れた非常口の蛍光色がぼんやりと浮かび上がっていた。チカチカと点滅を繰り返すが、やがて力尽きたように消えてしまう。そして思い出したかのようにまた弱々しい光を放つ。

 ………………。

 …………。

 ……怖くないっすか、お二人さん?

 恥ずべきことに俺は心底びびっていた。三人で並んで歩いているのだが、電ちゃんと部長に肩の震えがバレないようにするのでいっぱいいっぱいだ。なんでこの人たち堂々と歩いているの。慣れてんのかな、経験ってすっごーい!

「ついたわ」

 俺たちはあるドアの目の前で止まる。こ、ここから負の瘴気が溢れているぞぉぉ。まったく感じ取れないけど。

 深呼吸をする。スーハースーハー落ち着け落ち着け俺、敵は実体のない奴だ、恐ることはない。いや、十分怖いよ実体ないって……。

 だがそんな俺を無視して部長はいきなりドアを蹴破った。

「ゴーゴーゴーっ!」

 え、あ……ちょ、ちょっと部長さん!?

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