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 春。

 爽やかな風が草花を撫でる。ふわりと広がる優しい香り。桜が満開の道を俺は歩いていた。行き先は紅葉高等学校。公立なのに中高一貫という珍しい学校だ。俺はこの春、二年生になる。

 顔を上げると桜のアーチの向こうに校舎が見えた。歴史ある学校らしく、左右に大きく広がる校舎は威厳がある。

 まずは一年生のときに使っていた教室へ行き、そこで新しい組と出席番号を言い渡される。

 俺は他の生徒たちの流れにのって歩いていたが、不意に肩を掴まれその奔流から外れてしまう。

「おい、鳴絲(ないと)!」

 声のするほうに顔を向けると男の小人がいた。

「あ、小人だ」「誰が小人だ!」

 反論してくるが、平均的な身長である俺と比べても胸のした辺りに頭があるのだ。無論、女子と比べても小さいぐらい。これを小人と呼ばずなんと呼ぼうか。ちなみに名前は杉田(すぎた)電福(でんぷく)。電ちゃんで親しまれている。

「ふん、せっかくボクがせっかく声かけてやったのに」

 ぷくーっ、と頬を膨らませる姿は男ながらに愛嬌がある。もともと中世的な顔立ちなので女装すれば多分男と見破られることはないだろう。親の意向で髪も肩ぐらいまである。男女両方から可愛いと評判だ。本人はすごく気にしているのだが、それもまた可愛いらしい。

「どうした?」

「今日の部活来るのかどうか聞こうと思ってな」

 俺と電ちゃんが出会ったのはとある部活だ。俺はこの部活に入るためにこの学校を受験したと言っても過言ではない。

「みんな来るのか?」

「いや、ボクと部長だけの予定だ」

 それを聞いて俺は嘆息する。部長ねぇ……。理事長の孫というすごい肩書きを持っているが、しかしただの変人なのである。はっきりいって苦手だ。

「何する予定なんだ?」

「また未定だがおそらく――――っと着いたみたいだな。この話はまた後で」

 途中から歩きながら話していたのだがどうやら教室に着いてしまったようだ。電ちゃんは隣のクラスなので、話は一旦中断。もうちょっとゆっく歩けばよかった、と今更ながら思う。また後で話を聞きに行かないとダメになってしまったではないか。

 教室に入るとがらりと雰囲気が変わった。

 向けられるのは、奇怪なものを見る目や奇怪なものを見る目や奇怪なものを見る目だ。つまり、俺は変人扱いなのである。

 理由は単純明瞭。入っている部活のせいである。活動内容を始めとし、ズレた個性を持つメンバー、理事長の孫という特権を乱用しまくる部長……変人扱いされるのもなるほど納得だ。

 だが俺はそんなの気にしない。俺の心には復讐の鬼が棲んでいる。心臓から送り出される血はどす黒い。周りなんて関係ない。復讐のためだけに、俺は生きている。あの日味わった屈辱は忘れない。あの神に刃を突き立て、妹を取り戻す。部活に入ったのだってひとつの手段に過ぎない。よりはやく俺の復讐を成すために。

 四年前、妹が神に連れ去られた時を境目にして俺の生活や環境はがらりと変わった。物理的な意味でも、精神的な意味でも。

心芽(こころめ)鳴絲(ないと)。三組十三番」

 いつの間にかクラス発表が始まっていたらしい。最近、考え事をしているとすぐに時間が過ぎてしまう。一般的に中だるみしてしまうと言われている高二生になるからだろうか。

 その後も時間はすぐに過ぎ去り、放課後がやってくる。今日学校は午前中だけなので午後からは自由となる。部活に行くなり、友達と遊ぶなり過ごし方は人それぞれだ。俺は電ちゃんに会いに行かないと。

「あれ、電ちゃんも今終わったところ?」

 教室を出た瞬間にエンカウント。探す手間が省けたぜ。

「ボクをそのあだ名で呼ぶな。……奇遇だな。ところで鳴絲、何組だった?」

「三組だが」

「ふむ、またもや奇遇だな。ボクもなんだ」

「電ちゃんも?」

 すると電ちゃんは頬を膨らませた。突っつきたくなる。

「だからそのあだ名で呼ぶなと! ああ、ついでに言っておくと部長もだ」

「部長も!? 集まったもんだな……」

 そして電ちゃんは俺が渇望していた情報を口にした。

「それで今日の予定だが、悪霊退散に行くと決定した。今回は本物の悪霊らしい」


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