生命の価値(前篇)
生命による価値など無価値かどうかなんてその人次第なものだ。この魔法と剣の世界は地球よりももっと凄惨な戦争が行われている。完全な統治などはなさず、気づけば涙と論理の外れた狂った何かが産まれている。
だがそれでも彼女は生命の価値を知った。護るべき光を知った。それが自分の生命を蝕むものだとしても、それが祖母に近しい存在、祖父に近しい存在を悲しませるとしても彼女は生命の価値を知った。凍えるようなその手を握り最愛なる者とした。
「馬鹿だねえ……なんであんたはいつもどうしようもない時に来るんだか」
優しく祖母のような存在のアーケードは微笑む。
「そりゃしょうがあんめえ、この子は生きたいと願ったのだろうよ」
祖父のような存在のギレムは笑う。
銀髪の女性は静かに微笑み、まだ幼い同じ銀髪の少女を差し出す。
「ミレニア……滅びたはずの古代の種を見つけたのだね、お前と同じ」
そう告げると同時に美しい孫のような存在のミレニアを撫でる。
「……内臓の大半の器官が殆ど壊死している状態だ、よくもったもんだ、恐らく精気を奪う吸精の種族だな、奪うが故に滅ぼされた」
キャンディ=ウッドマンはアーケードのログハウスに到着するなりそう呟く。
「いいか、嬢ちゃん、ミレニアはお前の為に犠牲になったんじゃない、一緒にいることを願って一緒にいたんだ、ミレニアは基本的に誰にも心は開かない、そんなこいつが手元に置いたのは望んででなければ意味がない」
怯えるように震える銀髪の少女にキャンディは客間を貸し切りアーケードに声をかける。
「……2時間で施術する、どうやら尾けられたようだ」
「……それは問題ないよ」
「ああ、もうすでに太一がきている」
「……急展開過ぎてよくわからないんだが……中の少女を狙っていると見てもよいようだね」
アーケードの住処の周りの原生林の上に乗る黒マスクの男達を見ながら太一はそう告げる。
「古代種は利用価値が高いとされる、恐らく少女とミレニアの属する力はエナジードレイン系だろう、兵器に転用すれば相手の兵の弱体化に繋がるか……最近はこちらも物騒になったものだ、ミレニアが手離したくなかったのは……同族としての保護か、それとも……自分の生命力を吸わせてまで護ろうとしたのには理由があるようだし、是非とも話は聞きたいものだな」
太一はそういうと同時に漆黒の魔力を纏う。
「さて君等がどこの所属かは知らないが師匠の孫の危機は見逃せないのでね、屠らせてもらおう」
黒く重い魔力が黒いマスクの男達を弾き飛ばした!!
「へえ……さすがは世界最強の一人といったところかな?」
グレーのスーツの片目まで伸びた黒髪の長身の男は拍手をしながら姿を現す。
「……人間とは違うな?」
「へえ、わかるんだ……魔力練度もそうだけど、人が持ちうる力を越えてるよ、ボスが興味を持つわけだ」
「……最近ヒトの種を越えたヒトが現れたと聞く」
男はクスクス笑うと
「話が早いね……僕等は[新造された者達]………ネオとでも言おうか」
「……それでネオとやらが何の用だ?」
「ここに迷子を受け取りにきたんだ……古代種と見紛う子なんだけどさ」
男はクスクスと笑う。
「でも……今は無理みたいだから、預けとくよ、あの子は愛と生命の価値を知っちゃったみたいだしね」
「……そうしてもらえるとありがたいね」
「……そうだね、君との戦闘も楽しみだけど今はボスの命令は撤退なんでね」
「……こいつらはいいのか?」
「この子達はLV1の雑魚だからいいさ、どうせ複合細胞に戻される運命だ」
男はそう言うと黒いマスクの男達を転移させた。
「またね、僕の名前は矢崎啓二……ボスが東の名前が好きでね、皆それぞれ東国の名前を名乗っているよ」
男はそう言うと転移をした。
「……新造されたヒトを越えたヒト……か」
太一はそう言うとログハウスへと向かった。
「何故、彼女を取り戻さなかった」
とある研究所、黒いスーツのグレーの長髪の男は矢崎に声をかける。
「やあ、渋谷連子しょうがないだろう?噂の太一君がいたんだから」
「例え奴が最強だといえども、まだ能力を開示していないまま闘えば奪取は容易いはず」
渋谷と呼ばれた黒スーツの男は矢崎に苦い顔で迫る。
「僕は勝算の低い勝負はしないんだよ、それにアリスはまだ見ていたほうが楽しいよ」
「……お前は何が望みだ」
「アリスを見ていたいんだ、ただそれだけさ、わかるだろ?彼女には成長の期間が必要なんだ、戦争なんて下らないものよりもまず綺麗な景色を見せてあげなきゃ」
「……兄心でもあるのか?」
「……彼女は象徴であり僕等の妹でもある、当たり前だろ?」
「……まあいい、何かあったならば俺がいく」
「……そうだね、君なら安心だ、同じLV4の君なら」
「矢崎……お前を警戒するものは他にもいることを忘れぬことだ」
渋谷はそういうとその場から消えた。
「わかってないなあ……ヒトを越えたからこそヒトが魅力的なんじゃあないか」
矢崎はクスクスと笑う。




