雪の名を冠する翁
「死者をよみがえらすってのはどんくらい面倒かわかるか、馬鹿弟子」
天上国に呼ばれた雪人は欠伸をしながら煙草に火をつける。
「生命を取り戻すってのは理から外れる行為、こちらの世界に呼び出すって事だからな、そちらの嬢ちゃんは不死を正式な手順で得てはないし、何より生命を蔑ろにした罪人だ、外れた法でもなけりゃ正規の法でもない別枠の生命の仕組みを確立しちまった」
「……だがよ、親方、俺はよ、この女が純然たる想いであればちったあ考える余地あるんじゃねえか?」
「弟子が師匠によういうな、くかか」
雪人はマリスとルイゼを見るとふむと頷く。
「……ナノ博士、いやルイゼ博士か今ははじまりの賢者の一人である貴女に会えるのを楽しみにしていた」
「雪人殿、異界よりの来訪者にして知の探究者よ、過去よりの私からの言葉受け取り頂きありがたくおもう」
ルイゼはにこりと微笑み雪人と握手を交わすとにこりと笑う。
「異界とかそんなんしらねえけど、センセイの名前って違うのか?」
「ネクサス君、私の名前では少し未来では有名でね、少し面倒なんだ、まあ近いうちに話そう」
「そういうことだ、女には秘密があったほうがいい、マークはそろそろ戻ってくるとして、太一もそろそろ戻ってくるだろう」
とある冥府
「……本当に特別よ、太一さん」
「すいませんね、鬼灯さん」
黒いスーツを着た黒い髪にどことなく美形ではあるが眉間に皺を寄せた太一と同年代の一本角の鬼灯と呼ばれた鬼はとある部屋へと通される。
「……彼は魂を賭して世界の均衡を保ちました、本当ならば英霊として召喚されるべき人間ですよ、何故罪に塗れた女性の元に返すのか、貴方が来ると特例が増えますね」
「……その分、凶悪な魂の相手はしているから」
「……まあ王の許しが出たならば連れていきなさい、[優しき勇王]の魂を」
白い祭壇に蒼い光があふれているのを確認すると太一はそっと手を伸ばした。
「……ここは?」
蒼い髪に黄色い瞳のどこか細身の青年が顔を見上げる。
「貴方の産まれた国だよ」
「ヴァルキリアか!?」
「そうだね、アルスさん、貴方の名は聞いたことがある、機工技師アルス、機械文明で多大な貢献をした、機械工学のスペシャリスト、ヴァルキリアで発生した人間にのみ発症する確実に死ぬ病の病原菌を自らの身体に抱え込み、死んだ、英雄だ」
「……俺は治らぬ体で皆を救おうとして死んだはずだ、何故生きている?」
「それは俺らが呼んだからだ」
雪人は眼を細めながら煙草を吸う。
「赦しは得てきたのか?」
「ああ、また貸しを無しにされた」
「死の王に貸しをつくれるのはお前くらいのもんだ」
雪人はそう微笑むと
「さて後は御両人に任せるか」
そうマリスに告げた。




