恋する魔王のクッキング
「御爺さん!何故お孫様はあんなに淡白なんでしょう!!」
「そらあ太一だからとしかいえめえなあ」
自身の運営する蕎麦屋で美しい狐耳の女魔王……玉露に詰め寄られて少し困惑しながらそばつゆを作る雪人……。実際見た目麗しい自分の孫は人助けを率先してやったり依頼先で無償で様々な手伝いをしたりなんだりしてこの女魔王以外にも種族問わず人気が高い。祖父としてもそろそろ孫くらいは見たいしこの世界は一夫多妻制が割と浸透している世界だ。別に血統の違う孫がいても問題はないんだが……。
「……人助けに興味が向いてるうちは無理だろうな」
自分の孫程人助けに特化した人間はいないと思う。体を病んだ奴がいれば医者の真似ごとで癒し、民草を悩ませる凶悪な魔獣がいればその魔獣ごと屈服させる。寂れた村があれば草木生い茂る村へと変貌を遂げさせ一国を救い無償で子供達の未来をも救う。聖人に近いようなそんな男が自分の孫だ。まあそれはいいんだが……。
「……ちょいと女っ気ないのも心配だな、俺としては別に誰でも嫁さんにしてくれてもいいんだが、まあ女が苦手ちうわけでもないし、ただの唐変木の鈍感なだけだな」
「でも、太一の~兄貴はやさしいぞおお」
緑色の大柄な一つ眼の鬼が暖かい麵つゆの蕎麦を食べながら呟く。
「ゴイチ……んなもんわかってんだよ、太一の兄貴は優しい、でも親分がいってんのは孫である太一の兄貴が女に鈍すぎるって事をいってんだよ!玉露の姐さんだってこんなに想ってるのに兄貴も兄貴でイケズな話だよ!」
紅色の小柄な美しい二本角の鬼がゴイチと呼んだ大柄の鬼に言う。
「ベニ、そいつあ……あの孫の頭の中に聞かなきゃわからん話だあね、もういっその事料理で胃袋掴め……女の手料理には男が弱いぞ」
「左様でございますか!!」
「つかあの瓦礫を一気に分解してウチの近所にあんな屋敷を建てれるんだ、大丈夫だろ、なんならうちのもん連れてけ、ノヴァあたりが暇してんだろ……」
「おお!!かつて火山地帯全域を支配した火炎の元魔王!ノヴァ殿ですか!!是非共お願いいたします!!」
そのまま蕎麦屋から飛び出し玉露は嬌声をあげながら屋敷へと向かった。
「……雪人じいちゃん……玉露お姉ちゃんとまんないよ?」
たまたま来ていたニーナに言葉をかけられると雪人は肩を竦め
「いいんだよ……たまにゃあ愛情ってもんを感じてもらわなきゃな」
そう言いながら雪人は蕎麦を打つ。
「……ふむ、玉露殿にはおにぎりを作ってもらおうか……太一殿はおにぎりが好きなようだからな」
和風の巨大な屋敷の厨房に隻眼の紅い髪の美しい女性が忍び服を纏い立っていた。
彼女の名前はとある火山地帯で巨大な焔の力を操った魔人の元魔王ノヴァである。
魔王職についていたもののその荒れ狂う部下達の面倒を見るのが嫌になり………そのまま魔王職をやめた所………たまたま依頼で来ていた雪人がその元部下達を屈服させ手下にさせた事からなんとなくノヴァもこちらに引っ越ししてきたのだ。元は力ある者に敬意を示し従う性質の火の土地の魔人達には雪人のような強い人間は尊敬すべき対象になる。ノヴァは前魔王の娘という事もありまとめてはいたが正直な所女性的な事をしたかったので今回の件は丁度よかった。まあそういう経緯もあり恩義として何か返そうと蕎麦屋の手伝いをしているのだが………、なんだかんだ異性としての魅力も感じたりもしている。
彼女は渋い爺様が好きな性癖を持つ乙女なのだ……。それはさておき。
「しかしノヴァ殿!!おにぎりだけではその」
「大丈夫よ……簡単に食せる物が太一殿には御馳走であるし……具を少し豪華にしてあげればいいわ……彼は世界を飛び回っているから」
ここ最近の太一は矢継ぎ早に世界中から依頼を受け疾風の如く完遂する。表情こそに何も出さないもの。食事らしい食事は携帯食で済ませるほどだ。暖かな食事など久しく食べてはいない。だからこそ片手間で食べれる美味しいおにぎりと付け合わせの漬物などがありがたく最近太一はそれを好んで自作し食しているのをノヴァはしっていた。
「料理は愛情よ、今日は珍しく休みなようだから作って持っていってあげな」
「はい!」
玉露は想い人を思いながら米を炊く。
「……穏やかだな」
寒冷地の中でも生える草生い茂る公園のベンチでのんびりと空を見上げる。今日は珍しくオフの日で、弟や妹達も今日は休んで欲しいといって肩たたき券までくれた昼下がり。我ながらよく働いているとおもう。この肉体になってから疲れ知らずだし能力を把握してどんどん成長していると実感している。だが慢心はせず常に鍛えてはいるが………。まあ精神疲労はどうしようもないので今日は休暇という名目で何も考えない日にしたのだ。
「……ここも変化しているな」
復興も進み街並みも街らしくなり祖父の計画していた清掃事業や公共事業も成功の成果を上げ………次にするの病院の設置やら街の改築計画と聞いている。祖父の思いつきで国は穏やかに成長を遂げていく。そして部下の類に人間が少ないというのもまたおもしろい話だ。
「……楽しいものだな」
この世界に転生させてくれた妹分には感謝したい。ふと腹が減る。
「……何も喰ってなかったな」
「あ、あの!!」
「玉露さんか」
振り向くと狐耳の魔王が顔を紅くして弁当箱を持っていた。良いからあげの匂いと暖かな米の匂いがする。
「……食事をまだと聞いたので」
顔を紅くしながら弁当箱を渡す。太一はにこやかに笑いながら箱を開けるとから揚げと乗り巻きのおにぎりが二つある。歪ではあるがとてもうまそうだ。
「……ありがとう……うまいよ」
そのままぱくりとおにぎりを食べる中身の具は解された鮭……塩味が絶妙に合う。基本的にだいそれた料理を好まない太一にとってはありがたい食事だ。ゆっくり咀嚼していく。
「……どういたしまして」
「……ふふ」
滅多に笑わない太一に玉露は顔を真っ赤にすると水筒からほうじ茶を差し出す。穏やかに食べながら受け取るとゆっくりと飲みこみまた礼を言う。
「……ほんと子供の恋愛ね」
ノヴァは妹を宥める姉のような仕草で言葉を告げた。