鬼と龍
「さあ個人戦決勝戦!!阿修羅の国の国主ルーランと!!七天龍が一!!闇のアギエルの衝突だ!!」
「実に良いカードだ、アギエル君は格闘術や魔術やあらゆる武術に精通しているし、ルーランに至ってはありあまる魔力と身体能力がある」
「七天龍の闇のアギエル、若かりし頃は相当暴れたらしいなあ、未だに恐怖の名として語りつがれているらしいな」
「今はしがない男に過ぎないよ」
黒いコートを纏いながら目の前の胸元を空けた艶やかな鬼に声をかける。
「さて我が望みの果てに倒させてもらうぜ」
「家族も見ているのでね、優勝はもらうよ」
「さあ戦いのはじまりだあ!!」
「ふむ、練度も十分だね」
「そういえば鬼族と戦った事は数度だけだな」
「俺も龍族と戦ったのは数度だけだ」
二人は不敵に笑う。練るのは魔力と種族本来の力、拳に乗せて打ち合う!!
「女にも容赦はないのだな!!」
「武を極めんとする種族には最大の礼儀だと思うが!!」
「間違いない!!」
二人は狂気じみた笑みを浮かべてその場から動かずに打ち合い続ける!!
「……見事だな、一回も避けようともせず拳で文字通り決着をつける気だ」
「最終戦にふさわしい終りですね!!」
「一度にお互い10発は拳を放つ、そしてアギエル君は人化状態で鬼族の拳を受けている、これはアギエル君が負けるな」
マルコキアスが告げた瞬間アギエルは片膝をつき手をあげる。
「参った」
「……ちょっと待て!!俺はまだ終わらせてないぞ!!」
アギエルはくすりと笑うと
「……人化状態ならば貴女の勝ちだよ、少なくとも全力ではやった、今日は祭りだ、それに恋する乙女に華をもたせないほど、俺は悪魔ではないよ」
「……お前」
「主の孫に恋する乙女達は応援したいのでな」
アギエルはやれやれと肩を竦め傷ついたとは思えない体を見せながら悠々と舞台を後にした。
「終りました!!優勝はルーラン選手!!」
「まあ妥当だろうね、アギエル君の心情も加味すれば」
盛大な拍手と共にロビーに戻るとラグナがにこにこと待っていた。
「君は優しいね」
「そうかな?」
「そうだよ、彼女等の目的果たされればいいな」
「全くだね」
アギエルは微笑みながらラグナがもたえかかるのをささえていた。
「いい?ニコ、あれがバカップルというのよ」
「わかったわ、ラクシャーナ姉さん」
二人の妹はにこにことその様子を見ていた。




