幕間1 優しい掌
共和国の当主が崩御した。そのニュースは紙面に取り立たされ国民が歓喜に揺れる頃私は別に私の生活は変わらないのだろうなと感じていた。ニーナはまだ寒い季節に余り上等でないコートを着込みそう思っていた。あくせく日銭を稼ぎ血のつながりはないが愛しい弟と妹を養う日々。孤児院で育ててくれた老齢の神父はもうとうに亡くなっている。私があの子達を護らなければとそんな日々が続くとそう思っていた。
「しかしおめえらんちボロボロだな、他に直してほしいとこあんのか?」
家であるログハウスに戻ると一人の老人がいた。あの人は見た事がある。今の国を変えた張本人の片割れ……雪村雪人が東方の作務衣と雪駄をはいて子供達の要望をニコニコと笑いながら聞いていた。
「すまねえな!嬢ちゃん!このガキ達に茶を御馳走してもらってよ」
その礼にあちこち痛んでいるログハウスを修復してくれていたんだそうだ。タダでしてもらえるならそれはありがたい。ありがたいがこの人は………何故それをしてくれたんだろう。不思議に思って問いかけると。
「……んなもんガキが居たら助けるだろう」
そんなもの嘘だ……大人はいつだって私達を騙すし………神父様は結局私達を護るために……。
「まあいきなり現れた爺がいってもしょうがないがな」
目の前の老人はふーむと頷くと立ち上がり懐から通信球を取り出す。通信球というのは魔法の使える人間が使う魔導具の一種で遠くの人間と通信が出来る物だ。どこかに連絡すると同時に一人の男が転移してきた。
金髪の頭にオールバックの顎鬚を蓄えた一人の長身の男……。マルコキアスファミリーの右腕といわれるマルコス=ドントハックだ。強力な銃使いであると同時に強力な魔法使いでもある。一度だけ彼の戦闘を見たが腕のある殺し屋が子供のように投げ捨てられていた。
「……叔父貴……ふらりと行くのはやめてくだせえ……あんたは客人なんだ」
「叔父貴なんて堅苦しい名前はよしねえ!別におりゃあそんな大層なもんじゃねえんだからよ」
雪人老人はケラケラ笑う。
「んでだ……マルコス、この嬢ちゃんら俺の養子にすっから……孫だ……孫……戸籍みてえなもんあるか?」
「王都あたりにはあるでしょうが……まあ頭が暫定政権として落ち着くまで行政はやるでしょうし……その子らくらいならなんとかなるでしょう」
マルコスはにこやかに笑う。
「な、なんで」
「ん?しょうがねえべ、おめえが信じられねえならよ、信じるようにするしかねえ」
ケラケラ笑う老人を見ながらニーナは唖然としている。
「……どんな事されたかしらねえし聞く気もねえよ……、だがなおめえさんのそのかじかんだ手を見て何もしねえなんてこの爺にはできねえ……例え天が見捨てたろうが………俺は身捨てねえよ」
老人は豪快に笑うと頭を撫でくり回す。
「名前はなんてえんだ?」
「ニーナ……です」
「雪村ニーナか!わるくねえな!!ガキどもおめえらの爺になったよろしくな!!」
子供達は喜びながら雪人老人に抱きついていく。
「まずは住む場所の改築だな……マルコス!」
「……三日以内に準備終らせます」
「いいこった!!んで俺の計画はどうなってる!!」
「ミセラ姐さんと頭も先だってやってますよ」
「そいつはいいこった!! さて俺の名前は雪村雪人! まあいきなりだけど家族になってくれや!」
「はい!雪人じいちゃん!」
雪人じいちゃんの手はとても暖かかった。