武人のプライド。
「やれやれ個人戦は出るつもりではなかったんだがな」
アギエルがコロシアムの舞台に立ちながら目の前の背の高く筋肉質な侍に声をかける。目の前の男は人化している自分よりも背が高く襤褸を纏うがその風格は歴戦の猛者をうかがわせる。紺色の長い長髪は無造作に結ばれ、手元に持つ刀はサビもなく美しい紅色の刀。
「……七天龍……闇のアギエル殿とお見受けする、俺の名は武王……流離の侍でござる、二つ名はありはしないが様々な武芸者と戦い申した」
「なるほど、名乗り痛みいる、如何にも俺が闇のアギエルだ、その練気……ただの侍ではないようだ」
「伝説の一角である言われるとは恐悦至極、ならば何故指名したかわかるでござろう」
「ああ、不器用な御仁という事がな」
アギエルは黒い刀を魔力で形造るとにこりと微笑む。
「すまないな、人の扱う大会故、まずは人化のまま御相手しよう」
「理性ある受け答え感謝する……だが龍化した貴方とも戦いたい」
「……ならば引きずりだしてもらおう」
アギエルと武王は瞬時に動き出す。
「おっとこれは早過ぎてわかりませんね!刀で受け合ってるようですが」
「アギエル君が12回の斬撃を、武王君の方が30回の斬撃、回数が多いね、でも最小回数で受け切るアギエル君もたいしたものだ」
「私もギルドに所属してますが最上位クラスは次元が違いますね」
「そりゃ単騎で魔王倒せるしね」
「初耳です」
金属音と共にアギエルは少々の昂揚を覚えた。なるほど武芸者と闘ってきたというだけあって今まで挑んできた人間なんかよりも練度が高い、まだまだ若く研ぎ澄まされた力を感じる。この男には名誉ではなくただ純粋な強さへの渇望が見受けられる。
「ふはは、人化状態でこのような体たらく空は広い」
「俺よりも上の化け物もいるさ、それに武王、貴方の刃は俺に届いた」
アギエルは腹部を見せると、武王は笑った。
「そのようなかすり傷貴方には傷にもなりますまい」
「はは、気持ちのいい男だね、さて俺もかっこつけたい人がいるからね、少し本気を出そうか」
「女人ですかな?それはうらやましい」
「種族問わず好きな女性にはかっこつけたいものさ」
アギエルの瞳が黒から金に変わる。
「龍の力を一割解放した、10%だ」
「おおう、一割でこれとは素晴らしい」
武王は構え直す。
「さあ楽しい剣閃の時間だ」
「おおお!!!!アギエル選手の姿が3人に増えました!!会場も熱くなってます!!」
「あれは……暗殺剣術の残瞬という技だね、残像に実体を持たせて死角を無くして攻撃するという技巧だ、さすがアギエル君、人間世界の技にも知識がある」
「知識あっても実行するのは難しいと思います!!!武王選手力任せにふきとばしたああ!!」
「ふむ、その刀はヒヒイロカネを使ってるね、武王君の魔力と身体能力を受け取る良い刀だ」
「左様です、我が師より授かった宝刀紅桜!!我が力を存分に発揮してくれる素晴らしき刀です!我が半身に等しき刀!!」
アギエルは満足そうに笑うと
「失礼……ではこの魔力の刀で戦うのも失礼というもの」
アギエルは魔力の刀を霧散させると問いかける。
「武王君、君は強さを求めて何をする」
「強さの伝播です!!弱き者を護る!!それもよいでしょう!!だが世界は未だに危機が訪れてます!!我が流派は無明!!それは無から明りを灯す力です!!我が剣技を多くの正しい者に継がせ平穏の為にその力を伝播させるのです!!」
「……想いなき力は平和を乱す事もあるよ? 君は想いある者に継がせる事ができるだろうか?」
「……継がせます!継がせてみせますとも!!」
「やれやれ最初の威厳ある口調はどこいったのだか……、でも君の想いはいいね、素晴らしいものだ、是非実現してほしい、ならば君の要望にも応えないとね」
アギエルは微笑みながら景品席に声をかける!
「太一君!!結界を頼むよ、俺は武王君の要望に応える!!」
会場がざわめくと同時に太一は瞬間的に結界をはった。
「さて気張るんだよ、武王君、これが闇の龍王の力だ」
武王が息をのむと同時にアギエルの身体が膨張し本来の姿に変化していく、漆黒の二枚羽コロシアムを覆い隠すような巨体、金色の瞳。あらゆる生命の恐怖の対象。
「我はアギエル……七天龍の内、闇の龍王也……さあ武王君!!全力でいくぞ!!」
「はい!!」
アギエルは空高く飛翔し巨大な黒い閃光を吐きだす!!
「うおおおおおおお!!!まさかアギエル選手!!伝説の七天龍の一角だったとはああ!!!」
「あ、地と光と水と風の七天龍、うちに住んでるよ?」
「マルコキアスさん、さらっと恐ろしい事をいった!!!」
静寂に包まれた会場にすたっと上半身裸の無駄のない筋肉をつけたアギエルが降りる。
「修復と」
修復の魔法をかけ、舞台に戻ると大火傷をし刀を杖代わりしながら立ち上がる武王を見つけた。
「……耐えましたよ」
「だろうね、君のその心に全力を出しただけある、君の名は僕の心に刻む事にしよう」
「……光栄です」
武王はそう言った瞬間倒れ、アギエルは称賛の拍手を送りながら肩を貸してその場を後にした。
「実に素晴らしい!!!2人に称賛の拍手を!!」
「アギエル君が龍化までするとは見どころのある青年だね」
会場から興奮の叫びが響き渡る。




