テンパリストロクスウェル先生(前篇)
「なんでもかんでも仕事の依頼は受けるんじゃありません」
「まあまあアギエル君、御仕事熱心なわけですから」
珍しくロクスウェルの仕事場に仁王立ちに立つアギエルをロクスウェルの編集担当の紅い眼鏡と紅いボブカットにスーツを着た小柄な女性、ニキ=ブラットマンが宥めている。
「いや仕事するのはいいですよ、いいんです、太一君もいつでも本職どうぞですから、だがですね、弟としてはですね、風呂も入らない、飯も御菓子、そして漫画の締め切り一週間前に、家族の漫画を書いてくださいってそれどうなんですかあああ!!!」
「しょうがないであろう!!家族自慢したかったんだもん!!家族自慢したかったんだもん!!」
「うるせえ!!!こちとら事後承諾だっつうんじゃああぼけえええ!!!!!」
「アシスタント達が怯えてるでござる!!怯えてるでござる!!!」
アギエルは後ろを見るとアシスタントの女子数人ががたがたと震えるのを見てふうとため息をつく。
「……まあいい、姉さん達もラグナも乗り気だ、変な事は書くなよ」
アギエルはばたんと扉を閉めると同時に安堵のため息をついた。
「アギエル君、こわいすね」
ニキの言葉にロクスウェルとアシスタント達は頷く。
「そういえばロクスウェル先生、漫画の審査員のパーティーあるの覚えてます」
「そうだったでござるうううううう!!!!」
「急に言われてもどうしようもないぞ」
アギエルはため息をつき、外に出かける支度をしている。もうすでに家族は全員外出していて、ロクスウェルとアギエルのみである。ロクスウェルも探偵業もしているので服装のセンスは問題ないのだが、龍化して飛ぶとなると同行するニキが困る。
「……俺は仕事だしなあ、ニコの孤児院の迎えも頼まれているし」
「なら僕がいこう」
突如現れた太一にアギエルとロクスウェルは驚く。
「ありがたいが、何故ここに?」
「少し暇でね、遊びにきたけど、仕事は皆に任せるから行こう」
最近開発された車も乗りたいしと告げる同時に太一の同行が決まった。
「何で雪村太一さんと知り合いなんすか!!先生!!」
紅いファーのついたドレスを着たニキに質問されるロクスウェル。
「上司でござる、本職の方の」
黒のイブニングドレスを着たロクスウェルは言い返す。
「はじめまして、上司の雪村です」
黒のスーツに身を包んだ太一はにこやかに応対する。ちなみに三人が乗っているのは魔導車の黒塗りのベンツに似たような車。基本的に太一は軽めの車が好みなのだが、祖父の趣味により一律で身内の車はこれになった。使いやすいが目立つので太一個人はあまり気にいってはいない。
そうこういう間に会場についた。会場はとある王都で開かれる芸術品評会が行われる王族が集まる大きな城内の部屋の一角で、ここを快く貸してくれたのはそこの王族が漫画という文化をこよなく愛し発展させようという意気込みからだろう。
「……居心地悪いでござる」
「同意です」
関係者枠として連れてきたはいいものの、雪村太一という青年はどの世界でも有名だ。彼ほど人間的に出来た人間はいないといわれる一方で、恋愛に関しては鈍感を通り越して無知であると、ちなみに彼の近しい人物は誰が嫁になるかとトトカルチョをしている。
「ロクスウェル先生、ニキ君、こんにちは」
狼の獣人である背の高い蒼いスーツを着た男がにこりと駆け寄ってきた。
「編集長」
「すごいね、ロクスウェル先生、君の関係者に雪村太一さんがいるとは思わなかったよ」
編集長と呼ばれた男は興奮気味に声をかける、そして不穏な言葉をいった。
「……太一さんも交えて家族漫画ね!カラ―20ページ御願い!!」
「うそでござろおおおおおお!!!!」
ロクスウェルの断末魔が響くなか太一は
「この幼児向け漫画孤児院に買ってこうか」
販売ブースでマイペースに思案していた。




