狐の魔王の恋患い
「……太一殿は本当にそっけない御方ね」
とある山岳地帯に聳える巨大な黒の城………女人しか居ない魔族の居城の玉座にその美しい金色の狐の美女がいた。すらりとした長身の背に穏やかな表情にふくよかな胸に美しい桜色の着物を纏った絶世の美女だ。見る者を魅了するその容姿には憂いを感じられる。
その理由というのは先日……[世界ケモナーチョメチョメ連合]という何とも如何わしい軍団に襲われた事がはじまりである。この集団皆一様にピンク色の法被を来て意味のわからない奇声をあげながら襲ってくるのであった。中身を知れば獣ッ子なる獣耳系女子を愛でる軍団のようであわよくばと狙うような男子の風上にも置けないような奴らであった。実力こそは大した事はないものの……強力な防御魔法や反魔法……それに召喚としては普通の感性であるならば誰もが選択しないような粘液を出す触手群。
「……さ、触りたくない」
この美女、名前は玉露と言い、化け狐に連なる魔族の血筋の中でも最上位の狐、九尾なのだが目の前の眼の色を変えた変態共に変な汗が流れる。配下の女魔族は基本的には獣人に連なる者……自分が護らねばならないが……あまりの気味悪さに後手にまわる。そして変態共の魔の手が届くかと思われた瞬間……。
「やれやれ……最近の男は紳士的でないな」
「あれだろ、性癖っつうのは人それぞれだろ?まあこいつあやりすぎだな」
どうやら急遽クエストとしてギルドに発注をかけたものがいたらしい。そこに現れたのは黒いダークスーツの身惚れるような白い髪の青年とその青年に良く似た体格の大きい割烹着を着た白髪の老人だった。
「まあこっちに回してくれたんだからあの嬢ちゃんには感謝だわな」
「一国の女王にそれもないと思うけれど」
「そんなんいってもあっちが言うんだからしょうがないわな」
老人の言う嬢ちゃんというのは恐らく私の懇意にしている氷の魔王セシル=オリビアの事であろう。そしてこの老人には見覚えがある。かつて大魔王大戦という世界を支配しようとした魔王達に立ち向かった豪傑の一人[闇鴉]マルコキアス=レイヴンと共にスチームクリミナル共和国の悪制を正した老傑[無頼翁]の雪村雪人だ。老齢ながらもその力は凄さまじく身体強化のみであらゆる闘神や魔人や元魔王や元神やあらゆる魑魅魍魎を相手取る猛者である。また豪快で誰にでも力を貸し与える性格から彼の元に集う者は多いと聞く。本業は最近名物として作られるようになった蕎麦屋だと聞く。名義上は彼がギルドマスターらしいが………。
「さて祖父ちゃんはそこらの女の子助けてくっから殲滅よろしくなー」
「了解」
祖父ちゃんという言葉に私は反応する。顔こそ似てるもののこの美しい青年が剛腕を誇るあの老人の血縁者とは俄かには信じがたい………が………次の行動でそれを認める事になる。
「……まあ痛いのは一瞬なので御了承を指定標準はしましたので大丈夫当たりますよ」
青年の上に巨大な隕石が落ちてくる。この魔法は知っている……魔法の魔術書の中で特定指定禁忌魔法に指定された第一級超危険魔術…火の派生属性……焔と重力属性の複合魔術……古代級レベルの代物だ。当然並の魔王や神が行使するのは難しく私ですら魔力を枯渇させてやっと発動できるレベルなのだが……。
「……女性を怯えさせる人種はとりあえず自分が泣いておきなさい」
平然とその隕石を振り落とすと同時に悲鳴をあげる変態達をどこかへと転移させた。
「お前容赦ないのー、それにお前の魔力どんだけあんじゃい」
「……とりあえず測定不能と出たけどね」
倒した変態達を引きづりながら雪人老人は孫と思わしき青年へ声をかけた。
それから魔王城の中に招き礼を言った後……青年の名を聞いた。青年の名は雪村太一。最近世界で名を轟かせる[白銀の狩人]彼が……同族からも彼には尊敬の念と畏怖の念が絶えない。それほど彼は多くを助け多くを護る事をしたのだ。彼の名が出始めたのは極最近でお伽噺のような存在と思っていたのだが……気づけば私はこう告げていた。
「付き合ってください」
「……悪い気はしませんがすいません」
その後私は涙に濡れ一週間程泣き濡れた後、何度も恋文を出しては断られ、そしてある決意をした。
「おめえ……あんだけ好かれてるのに断るとか鬼か」
祖父の言葉に自分は肩を竦めて
「自分のような普通の人間に彼女のような美人はもったいないよ」
「おめえ……鏡さみれよ」
祖父はため息をつきながら仕込みを開始する。
「そうですわ、太一様……貴方の容姿と優しさは今一度考えるべきです」
いつもの蕎麦屋に凛とした声。
「……貴女は諦めないのですね」
「惚れた弱みと思うてくださいな」
玉露は艶やかに微笑んだ。