風の向くまま
デニムジーンズに白いシャツの黒い帽子を被った少年が戦場を歩く。眼についたのは医者と思しき白衣の青年。最早回復術も間に合いそうにない深手で生命の源の紅い滴が流れおちていた。
「………君がいるような場所ではないな………少年」
吐血しながら少年に声をかける。
「別にどこにいようが、僕の勝手さ」
穏やかな口調で言い返す。
「………それもそうだな、まあ死ぬ前に話相手が出来るのは幸運か」
「………そうだとも、是非貴方の話を聞かせてくれ」
「………そうだな………この愚かな国の話を聞いておくれ」
この国は貧困に喘いでいた。物資も少なく水も少ない貧困情勢を伝えるだけの力もない、名ばかりの王族は力あるものに淘汰され、多くの慰み者を産み出した。青年はその中で優しさを見失う事はなかった。常に富める者も困窮する者も分け隔てなく治療をした。青年は医者であった。彼を嘲笑する人も居たが彼の救うという行為は常に称賛されていた。だがある時救ったはずの患者に刺され彼は誰もいない場所で死を待つ事になった。その時困窮者達は反撃の狼煙をあげ、力ある者達の闘争がはじまった。
「怨むのかい?」
「………まさか私のやった結果だ」
「………自由だね、いいね、気にいったよ………正義という紛い物を真実だと言う中で貴方は戦乱という世界の中で平等という事を貫いた………。人間は悪や正義を語りたがる」
「………?」
「気まぐれだよ………、この戦争を終わらせてあげよう、そして貴方の物語は続いていく」
少年が手をかざすと同時に風が青年をふきあげ瀕死の状態を回復させていく。
「………無詠唱の上級以上の魔術?」
「さすが医者だね」
「君は?」
医者の問いに少年はゆったりと背を向けて
「風のバルバトイ………」
そう告げると同時に一陣の風が吹きぬけ戦場に穴があいた。
「………七天龍の一角………もっとも自由な風の龍王………バルバトイ」
医者は生きた伝説を見た。
「………降伏はさせた………後は貴方次第だよ、お医者様」
屍の上で奪い取った剣を肩に掲げる一人の少年はくすりと笑う。
「お腹が空いた。アギエル兄さんの居場所は特定しているから飯をもらおう」
そう言うともっとも自由な風のバルバトイは戦場から姿を消した。




