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とある異世界にて狩人は笑う  作者: 作者不明
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白銀の狩人



この世界に転生してはや二か月。この国に住んでいて感じたのが祖父は誰からも愛されるそんな男だという事だ。病気をして働けない家族がいれば代わりに仕事をこなし、血の気の多い若者の喧嘩があれば時に仲裁し時に暴れ……ギルドの仕事あればどんな仕事でもやってのける。その中でも功績が大きかったのは蕎麦屋の開店と孤児院と学校の修復……。この国における名物というのはウイスキー一種類だけという寂しいものであったのだが……。




「これじゃうまくねえな……美味いくいもんと酒と後女子供が喰えるもんがいらあな」



とあっさり言い、自分の好きな喰い物であり得意料理の一つである蕎麦を材料を調べて地球との若干の違いはあるものの拵えたのが思いのほか大好評であり今や国民食の一つになぞらえるブームを巻き起こしている。仕事の片手間にずずっと風味を味わいながら食べれる蕎麦は様々な薬味に合い暖かくも冷たくもでき国民にとって手軽に食べれるのも魅力なのだろう。



祖父は食にこだわりもあり、こちらでいう所の日本にあたるジパング地方の名のある酒屋に行って直接個人輸入契約までしてしまった。何故そこまでと客の一人に聞かれたところ。



「そりゃおめえうめえもんは安く美味く食えたほうがいいべよ、俺もきちんとした職もとれるしおめえらもうまいもん喰える、それでいいじゃねえか、老人の娯楽みてえなもんだ……客であるおめえらに感謝すれど何か言う気はしねえよ、蕎麦饅頭喰うか?」




そんな調子の豪快な人だから祖父を慕う人は多いので孫である自分もなんだかんだお客や市民達の接点が多いのだ。





「……ふむ」



教会に併設してある孤児院の客間で我が家の財政状況を確認する。孤児院というだけあってとても広く……コテージの大型版のようなログハウスだ。祖父はここでもこだわりを見せある種の産業改革をしてしまったのだ。それは水洗トイレとウォシュレットの開発……現代人のエコと利便性を追求したトイレは衛生面にも大きく貢献した。また水道の設置……井戸水までわざわざ行かなくてもきちんと蛇口をひねれば水が出るというようにもした。浄化槽も作り他にも構想中の物もあるらしいのだが少なくとも最低限の利便性はあってもいいと考えた結果だった。



他にも下水道を作りそこを管理する下水道管理局……また瓦礫を撤去や清掃業という公的機関の発足。衛生面を考えての医者の招聘、また医学の学術強化実地訓練増加等の偉業を自分が来る前の3カ月間で行ったのだから恐れ入る。勿論現代地球の文化も下地にあるのではあろうが……。





「奴は馬鹿と天才を兼ね備えたとびきりの阿呆だな」



笑って告げるのはマルコキアスの談。まあそんな祖父も孫としては誇らしいが財政状況を見るとそんな偉業を成し遂げたのにも関わらず、少なすぎるのだ……見間違え出なければ以前帳簿の方を見た時にはこちらでの単価はまだそこまで把握してはいないが70年は何もしないでも暮らしていけるようなお金があったはずなのだが……勿論こちらにも魔力認証でのキャッシュカードがあり銀行もあるしその受付嬢とは世間話をする程度は仲が良いしその人情報ではやはり祖父の悪癖が発生したと考えても良いだろう。




実はこのような偉業の他にも現代地球の余程の精神に自堕落ではない人間ならば(これは偏見かもしれないが)遊戯にすまされるが嵌るとどうしようもない遊戯がある。それは----。




パチンコだ。



祖父は生前パチンコの熱狂的なファンであった。勿論借金をこさえる等という愚行はしなかったが、一度実家のお金を最低底に落とすまでの荒事をやり父母に鬼のように怒られ自粛していたのだが、一人になってから羽目が外れ自らパチンコの遊技場を作り、止せばいいものを客と同じように打って負け越しているという話だ。




「……まあいいか……いざとなれば子供達に怒ってもらえば」




新しく出来た弟妹達にはさすがの祖父も甘く怒られれば自粛もする。仕事自体は家長としてしてくれているのでありがたいのだが………そろそろ祖父にも金銭感覚というものを身につけて欲しいものである。まあその説教は後でするとして自分にもやる事があるので外に出かけるとしよう。



「太一兄さん……外出?」



オレンジ色の髪のポニーテールの利発そうな美少女が剣道着と竹刀を持ちながら声をかけてきた。彼女の名前はニーナ、祖父の引き取った孤児の一番最年長で年の頃は16、気立ても良く穏やかな性格なので彼女を慕う子供達は多い。剣道着と竹刀を持っているのは剣を扱いたいという彼女の希望から祖父が作り与えたものだ。祖父も剣道の真似事くらいは出来るし、自分も少しは齧った事がある。精神修練にはとても良い武道の一つだと思う。少なくともここでは剣道に似た立ち筋のものを見つけるのは難しいだろうとの事で暇を見ては祖父が型程度は教えるようにしている。ニーナは魔法の才もあるようでそちらの方は自分が教えるようにはしているが……勿論自分の研鑚も忘れてはいない。




「ああ……じいさんの金遣いが荒くてね……怒っておいてくれ」



「……雪人爺ちゃん相変わらずだね」



ニーナはわかったよと頷くと花のように笑う。



「戸締りはきっちりとちゃんとご飯も食べなさい」



自分はいつもよりも優しい笑顔で外出をする事にした。






「あら、今日は早いわね、太一君」



紫色の髪を束ねてお団子頭にした女教師風の長身の美女………マルコキアスの腹心にしてスチームクリミナル共和国ギルド[スノードロップ]のサブマスターにして秘書………そして実質上の経営者ミセラ=アンダルシアはにこやかに声をかける。



「……祖父が遊びましてね」



「……ああ……相変わらずね」



「祖父は子供達に叱ってもらいますからかまいませんよ」



ミセラはにこりと優しく微笑んでギルドの受付兼酒場でウイスキーを取り出し自分に渡す。



「そうね、マスターは子供達の言う事は聞くものね、それより一杯飲みましょう」




「……ミセラさん……今日は何本明けました?」



「マスター秘蔵のジパング酒四本!!」




嬉しそうににぱーと笑うミセラを見ながら自分は若干苦笑をする。この一連のやりとりがいつもの光景であり訓練相手でもあるミセラとのやりとりでもあった。まあ自分も昼間から飲むという事には大して抵抗はなく付き合い程度くらいには飲む事にしている。





「……それで[白銀の狩人]はどうしたいのかしら?」




「……もうすでに二つ名がついてるんですか」



二つ名というのはあらゆる依頼を受け様々な功績を行った者に授けられる称号。この国のように暫定政権ではなく王制や民主制などきちんとした国の体系をしている国には国を守護する帝なる役職があるようだ………それぞれの属性にちなんだ。一度同僚の持っていたファンタジー小説で似たような設定をみたな………。




「何言ってるの……貴方とマスター有名よ!」




復興して間もないものの我がギルドは世界で十本の指に入るほどの急成長を遂げている。その要因として分け隔てなく多くの者を受け入れるという特徴と祖父の性格によるものが多い。祖父は出先に向かうたびに多くの荒くれ者を引き連れギルドに入れてしまう。元々が仕事もなく荒事しか出来なかった猛者達であるのだから能力が高い者達が多い。主に祖父の拳骨を喰らい更生した者達が多いので一種の軍隊のようであり……祖父を親方とまで呼び……ギルドメンバーに元魔王やら魔人やら妖魔やら獣人やら龍人やら多種多様な種族まで仲間に居れるのだから恐れ入る。



そして自分もはじめて知った事だが……自分の功績がもうすでに世界規模で広がっているという事だった。その内容として神聖龍(この世界における最も信仰の厚い龍)の幼生体を魔物の群れから救い人語を話す成体に感謝されたり………絶滅危惧種に認定された虎を保護したり、採取しすぎてほとんど採取できなくなった黄金鯛の養殖に成功したり、邪神を呼び出そうとする教団を壊滅させたり、とある女魔王に告白されたり等色々な事をしたせいでいつの間にかそういう二つ名が産まれたらしい。勿論依頼量はこれよりも倍はこなすが自分の場合その場の被害の補填に依頼金を大体使ってしまうので少しゆとりがある程度の金額しかもらわない。基本的にギルドの運営資金は祖父に任せている。帳簿云々はミセラさんと自分が確認はしているが。



「でも太一君……もう少し欲張って良いんじゃない?貴方……すごく良い人だけど我儘もないんじゃ疲れちゃうわよ?」




「……妹分にも言われたが大して不自由はないですがね」



「……それとその無表情も直すと尚いいわね」



ミセラの苦笑がギルド内に響くと自分はウイスキーをひと息に飲みこんだ。



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