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とある異世界にて狩人は笑う  作者: 作者不明
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スチームパンクな蕎麦屋

リンネに与えられた情報によるとこの世界の名前はシムナーク。

いわゆる剣と魔法の世界のファンタジーな世界だ。モンスターも亜人も伝説級の人物も存在する。そして魔法には下級・中級・上級・最上級・古代・神級・禁忌という階級にわけられていて、属性としては火・水・風・土・雷・闇・光という7大属性の他に創造や破壊といった特殊属性と後は派生だとか未知だとかそういった属性がある。



随分と大判ぶるまいをリンネはしてくれたようで自分には禁忌級まで扱う魔力と全ての属性の他に特殊属性や派生・未知の属性もまた全て扱えるようになっている。説明として適当なのはLV99の勇者が更に限界突破してLV999になるようなものだ。



まあ自分は与えられた過分な力を制御できるかできないかわからないのに鍛錬もなしに使うという愚策は行わないのでとりあえずは鍛錬すべき場と路銀の確保をと考えていたのだが……。








「……血縁者がいきなり黒服従えて出てくるとは思わなかった」



「何言ってんだ………おめえだって爺ちゃんと会えてうれしいべよ」




シムナーク世界。


北大陸

ヨルムンガント。



スチームクリミナル共和国。

スラム十番街。

蕎麦屋

雪富士。





店内に流れる昔懐かしの演歌に近い歌謡曲を口ずさみながら白髪をオールバックにした太一が老いたならばこのような人物になるのではないかという大柄な男がにこやかに笑いながら蕎麦を作っている。シムナークのこの国で再会した祖父雪村雪人だ。





「おめえも嬢ちゃんに飛ばされたクチだろう?うーんいいもんもらってんじゃねえか」



祖父の眼が少し金色に染まる。




「魔眼……て奴か?」





「そうそう……俺は相手のステータスがわかるのと身体能力が多いのと後普通より魔力が多いのぐれえか……全属性は便利だからもらったな、魔法もなれりゃ楽しいぜ、後寿命延ばしてもらった」





「……リンネらしいな」




祖父の作ったエビの天ぷら蕎麦を食べながらふうとため息をつく。




「それで隣で蕎麦をがっついてる二人組は?」




「アン?うちのダチの組の奴……マルコキアスの野郎のファミリーだな」




「ウス……」



「ウス……」



スキンヘッドの大柄な黒服の男2人が蕎麦を啜りながら挨拶をする。




カウンター席しかない店であるのでここの常連と思わしき客は怯えはしないが一見さんと思われる客は可愛そうな事に震えている。そして何故祖父の場所にいるというとリンネが新たな生活で家族がいないのは少し不便だろうと気を利かせてくれたからだ。そしてその祖父はというと実はガンに侵され余命幾許もないと知った時にリンネが創造神と知りその縁でこの世界へと来たらしい。どうせ死ぬのならば痕跡残さずにいたいという我儘もあったが未知の世界にとびこみたいという事もあったようだ。



少しばかりの加護と普通の術者では太刀打ちならない能力を持ってこの世界に来た時に思ったのはひとまず気に入らないだった。自然に寄るものならば祖父は何も言わない。だが人間による搾取に対しては別だ。このスチームクリミナル共和国……以前は独裁極まりない悪辣とした国であった。



女子供は慰み者にされ若者は兵にされ老人は潰される。贅沢をできるのは上の者達だけでたまたまその国に現れた祖父はこう思ったのだそうだ。




「気に入らねえ」




そして祖父は自分と違い短絡的な考えで行動する事が多い、故にまず祖父が行ったのは共和国軍の兵舎の破壊。祖父もまた魔法の知識は与えられていたものの………、その時は魔法よりも拳な気分だったので身体強化を極限まで纏った状態での進軍だった。




「……あんときゃあよ、あれだ、普通に娘っ子を無理にやろうとする奴みてよ」




その時の事を思い出しながらしみじみと語る。そして上半身を脱ぎ捨て老年に似つかわしくない筋肉の鎧に背中に昇り龍………かつて若かりし頃戦場を拳でかけぬけた無手の兵隊………それが雪村雪人という人物である。故に武器は好まず独力で兵をこじあける。そしてその進軍の中で手を貸したのはマルコキアス=レイヴン。金髪の髪をオールバックにしたマルコキアスファミリーの当主……厄介事を全て引き受ける裏の世界の重鎮なのだが……本人は好々爺然とした柔らかな物腰の老紳士でこの国を憂いていた一人でもあった。そしてその二人が会えば当然息は合うのである。



「マルコキアスの野郎がよおお……俺の暴れが良いタイミングだっつって兵隊を連れてきてよお」



その時の事を楽しそうに語る。祖父は拳でマルコキアスは黒の手入れのいき届いたニ丁拳銃、祖父は我流の喧嘩拳術の剛拳。マルコキアスは銃を用いた徒手空拳の柔拳。見る者は身惚れた瞬間命を刈り取られ、全ての兵力は沈黙させられ、共和国王は二人の老兵に倒された。



「……今も昔もじいさんは破天荒だな」



その話を聞きながら自分はふうとため息をつく。



「まあいいじゃねえか……マルコキアスが実質政治を取り仕切ってくれてるし、俺は昔からやりたかった蕎麦屋できてるし」



「蕎麦の実なんてあるのか?」




自分の問いに祖父はんあと声を返すと



「ソボの実っつう、何か似たような実あってよ、製法とかそのままなのよ、それで爺ちゃん、日用大工もできるべ?なんでもやってみるもんだなーってよ」




「……雪人さん……瓦礫からこの店作っちまったんすよ」



「……ウス」



「元手タダはいいべえ!? んでマルコキアスにビニールハウスだがなんだかドーム型のソボの実を作るとこもどかんと作ってくれたし」




「……元手はタダではないんだがね」


落ち着いた声が響くと自分の隣に祖父と同世代の穏やかな金髪の老紳士が座る。



「……君が太一君か……私の名前は雪人に聞いただろう……やれやれ、孫である彼がこんなにも静かで良い青年なのに……何故お前はこうなのか」



「手のかからん孫で俺は大助かりだがな!」



「友人として落ち着きを持つことをお勧めするよ、そうだな、今日は天ぷら蕎麦と冷酒を頂こうか」




祖父が返事をすると隣に座っていた黒服二人が席を外す。きちんとお代も忘れない。




「ふむ、部下だからとて気をつかうなと言ってあるのだがな」



「……」



「何故国が崩壊した後も国は機能しているか………かね?」




自分の疑問ににこりと笑うとマルコキアスは説明してくれた。この国は国民から奪い取った財を蓄えるための国庫がありそれを解放しまず一律の生活を整えるだけの資金を国民に分配した事。幸い戦争等はなく自国民を苦しめるためだけであったので当面はそれでしのぐことが出来た。




だがそれだけでは国としても国民としてももたない。なので機能していなかったギルドを復興させることにさせる。ギルドとは民間的な総合窓口のようなもので小説等で描かれるファンタジーな物と大差がないようだ。勿論二つ名も存在するしギルドマスターも存在するが完全に国側の人間であったので祖父と共に倒してしまったようだ。話を聞く限り相当な実力者であるのだろうが………それをも上回る老人二人に驚愕の念を禁じえない。





そして白羽の矢が立ったのが祖父である雪村雪人にギルドマスターをしてもらうと言うのもあったのだが元来の性質として自由すぎる性格をマルコキアスに見抜かれ、マルコキアスの腹心の女性の一人を秘書という形にして書類仕事は任せず実質の名前貸しのようなそのような感じにしたのだと言う。



まあその甲斐はあってか依頼も増え、祖父もその剛腕を持って討伐依頼を果たしまくってはその地で名前を馳せ二つ名として授かったのは[無頼翁]……孫としては祖父の所業を想像はしたくはない。




「まあギルドも機能して学校もまた復興してる、勉学の場も提供できているのがありがたい事だね、国もそのうち民主制に変わるだろう、貿易もまたはじまっているし、それと話は聞いたかね?」



「何の話ですか?」




「ああ!!孫の養子10人くれえ縁組したから!!おめえに弟と妹できたんわ!!」




ガハハと笑い祖父がマルコキアスさんの前に天ぷら蕎麦と冷酒を置くとそんなことを言う。ちょっと待て、異世界に来て祖父が隣に居る老人と国を滅ぼしたのにも驚いたというのに、いきなり血筋も違う弟妹が出来る。いや子供は好きだし問題はないが……そもそもだ。毎回思うのだが……。





「……雪人……説明は必要だぞ」




マルコキアスさんの言うとおりだ。


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